Day 3 ウィナ・クラーフス


 

 

 案内された俺達、だが彼女は俺とナナシムだけでなく。

 

『外の彼女も連れておいで』

 

話していないヴィクトリアさんの事を、どこに隠れているか、どんな見た目なのかも正確に言い当てた。

ヴィクトリアさんをここに呼ぶのは流石にどうかと思ったけど、ナナシムが……。


「この程度の町なら私一人で破壊できます」

 

と、言うのでそれを信用して今は緑髪の彼女の指示に従う事にした。

ナナシムがヴィクトリアさんを連れて来くるまでの間、もしかしたら緑色の髪の女性はヴィクトリアさんの知り合いかもしれない、そう思っていたがその予想は見事に外れた。

 

「あの……ナナシムが何故機械人形だと分かったんですか?」

 

「何故? うーん、とにかく分かっちゃうのよ」

 

成る程、お前に教える義理は無いってか。

 

「今ナナシムが連れてきてる人は、どうやって見つけましたか?」

 

「とにかく分かっちゃうんだって、同じ事を何度も言わせないでよ」

 

睨まなくてもいいだろうに、おー怖い怖い。

……まぁ冗談はともかく、マジで警戒しねぇとな、この人只者じゃない。

 

「ナナシムが連れて来る人は戦争を生き抜いた人です、機械人形を酷く嫌うと思ってナナシムは人間だと伝えてますので、ナナシムが機械人形だとヴィクトリアさんには言わないでもらえませんか?」

 

いいえと答えられたらどうしよう。

そう思ったが、緑髪の彼女は笑顔で頷いて、そこは協力すると言ってくれた。

 

「あのー、ど、どうもはじめまして、ヴィクトリア・F・306です」

 

「はじめまして、さて、まずは自己紹介。私はウィナ・クラーフスです。この町、ウィンドフルで仕事の斡旋や依頼の受付をしています、斡旋官と覚えて下さい」


ウィナと名乗る女性は椅子に座り、机に書類を広げている。

あれは……おいおい、マジかよ。

こんな小さな町にコレがあんのかよ、すげぇ。


「公認証書ですね、確認しても?」

 

ナナシムが書類を確認している。

公認証書があるって事は、この町は機械人形に認められた町だと言う事になる。

支援を受けられたり、様々な仕事を融通してもらえたりする、機械人形に認められた町の証拠だ。

あの証書を手に入れるのは簡単じゃない、普通に町の運営をしていては手に入れる事は難しい。

 

前に訪れた町にも証書があったが、あれは機械人形の救出に犯罪者の摘発、多額の寄付金など……普通じゃ無理な条件を聞かされた記憶があるぞ?

こんな小さな町が手に入れられるとは……思えない。

 

「本物で間違いありません」

 

だがナナシムはそれが本物だと言っている。

機械人形である彼女が言うんだから、間違いはない。

……そうなるとだ、この町は小さいながらも何かしらの大きな貢献をした町って事になる。

勝手な行動は……できねぇな、公認証書がある町で暴れれば機械人形に目を付けられるし……。

 

「す、すごいですねクロ君! ナナシムさんは書類を見ただけで本物か偽物かわかるんですよ!」


良かった、ちゃんと約束を守ってくれてる。

 

「それで、俺達を呼んだ理由を聞かせてくれないか」

 

ウィナはニコッと笑い、事情を説明し始めた。


「ちょっと仕事を頼みたくて、それも出来る事なら部外者に、秘密裏にお願いしたいの」

 

「仕事……ですか?」

 

「ええ、見た所戦いには慣れてそうだし、どうかしら?」

 

なんでもこの町の近くに機械人形の敵がいるらしい。

彼女の町は機械人形に協力する事を約束し、公認証書を手に入れているが、そろそろ結果を出さないと剥奪の可能性もあると言う。

 

「それならみんなで協力して倒せばいいだろ」

 

ウィナはため息をついた。

 

「それができたらねぇ」

 

と、窓の外を見る。

 

「例えば街の誰かに頼んだとしましょう、倒せばきっと、ううん、絶対に手柄だ褒美だ騒ぎ立てるわ。この公認証書のある生活が当たり前になった彼らは、今以上の何かを求めるはずよ」

 

「だったら倒さないと公認証書が無くなるって言えばいい、そうしたら協力するだろ」

 

「そうしたらきっと手柄をあげた人が公認証書の所有権を主張するでしょうね、そうじゃないにしろ何か絶対に問題を起こすわ」


街の人にバレずに敵を倒し、結果を機械人形に報告する。

そして街の人にはこの事を知らせず、これまで通りの生活をしてもらう、か。

だから俺達みたいな部外者が必要だった訳だ。

今ある生活を守る事に対する報酬を求めて人々が争うのを避けるために……ねぇ。

このウィナとかいう女が戦えばいいのにと思うのは俺だけなんだろうか。

 

「先に報酬について聞かせてくれ」

 

机に置かれたのはかなりの量の金と、何も書かれていない空白の身分証が一枚に、記録石。


「かなり料金が多いですね、それだけ危険だという事でしょうか」

 

ナナシムの言う通り、金の入っている袋はかなり大きい。

仕事にも相場ってのがあるが、通常の3倍以上は確実に入っている。

 

「危険だしね、それと、これには口止め料も入っているの、ほら、分かるでしょ?」

 

ウィナはヴィクトリアさんの身分証を偽造……いや、公認証書を持つ街では身分証を発行できるから正規の……いろいろと足りてないからやっぱ偽造だ。

とにかく、作ると言っている。

 

「クロ君、私のために無理しないで、危ないからやめよ、ね?」

 

俺は、この仕事を受ける事にした。

ヴィクトリアさんの為だけじゃない、あの金があればかなりの期間金に困る事が無くなるはずだ。

 

「それじゃ、その敵について教えてくれ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る