Day 1 望まぬ殺し
様々な視線をかんじつつ、おそらく祭壇があったであろう場所にたどり着いた。
腰の刀をいつでも構えられるようにしつつ、ナナシムが周囲の警戒をしてくれたお陰でそこまで時間はかからなかった。
「機械との戦争に負けたからって、人と人が争ってもいいとはならねぇだろうに」
「ですがクロ君、昔みたいに人は法で守られていません。何度も教えたはずですが、いまや自分が得する殺しや強奪はすべき事ですし、それらから身を護る為の力も……」
まーた始まったよ。
分かってるっての、つまりアレだろ。
「他人の幸せは自分の幸せにはならない、だろ」
「そのとおりです」
人は人の為に動く。
だから戦争に負けたんだとナナシムが言っていたが……本当にそうなのか?
少なくとも俺の知ってる限り、人と人の関係にそんな優しい物は1つとして無い。
「幸せ……ねぇ」
「人間は本来の人間に戻る事こそ、幸せなんですから、その為にもファスタニアに」
「わかってるって、ほら、行くぞ」
最初に目に着いたのは魔術的なエンブレムだ。
破壊されてはいるがあちらこちらに散らかり、そして大きな破片で隠されるような、地下へつながる階段も見つけた。
入口は案外簡単に見つかった、だが簡単には入らせてもらえなさそうだ。
後ろから一人近付いて来る。
足音はこいつの物のみだが、まだ一人とは確定していない。
何処かに潜んでいるかもしれない。
「入口に一人か、中には何人いるんだろうな」
あの美人の言っていた通りだ、確かにここには賊がいる。
しかし賊が一つの場所に留まるなんて珍しい、普通は退治されないように移動を続けるもんだけど……退治されないと確信しているから動かないとか……だろうか。
「それで、後ろの賊をどうしますか?」
ナナシムはニコニコとしている、賊に見つかった時の講堂なんて初めてじゃないはずなのに……ついにエラーでも起きたのだろうか。
どうするもこうするも無いだろう。
お茶会でも開いて招待するのか?
それとも謝って逃がしてもらうか?
「気絶させるぞ」
「なら早くして下さい、中の仲間を呼ばれると厄介ですよ? あ、私が……ごほん、ママがやりましょうか?」
「俺がやる、だまってろ」
振り返るとそこに居たのは……俺と同い年ぐらいの青年だった。
ボロボロの布を服のように巻いていて、片手で銀色の食料パウチをいくつか抱えていて、もう片方には小さなナイフが握られている。
「こ、ここに……な、な、何をしにきたんだ」
声は震え、ナイフが……いや体が震えている。
俺が刀を少しだけ鞘から抜くと、ビクッとしている。
間違いない、こいつは戦闘に慣れてない。
「いえ、ただこの地下に続く階段が何なのか気になっただけですよ、何をすると言われても、本当に階段の存在に驚いていただけです」
「……お、面白い物は、無い。帰って……くれ」
よし、俺の正面に捉えたぞ。
このまま背後に飛んで一気に……あれ、ナナシムの奴いつの間に移動してたんだ?
ナナシムが足音を消して瓦礫の上を歩く。
俺でも音を立てずに移動ぐらいできるが、あの速度では無理だ。
そう思える速度で野盗の背後を取り、首を掴んだ。
そして、青年は何も言葉を発する事なく、意識を手離した。
「俺がやるって言ったろ」
「任せましたが遅すぎます。悠長に会話までして相手に叫んで仲間を呼ばれるリスクを無駄に背負っていました」
「その前に首をはねてやればいい」
「ええ、ですがリスクを背負う理由にはなりませんよ」
……そりゃそうだが、俺はお前と違って人間なんだ。
お前のように早くは動けないし、正確に瓦礫の山の中で気付かれずに動く事も出来やしない。
だからなるべくやれる範囲で頑張ったんだが……ハァ、ナナシムには勝てねぇな。
とにかく道は開けた、この結果が大事なんだ。
倒れた野盗を瓦礫で他から見えない場所に運び、中に入った。
広く、暗い螺旋階段をおりると広い部屋に出た。
部屋の奥には本が一冊厳重に置かれているが、それを守る賊は一人もいなかった。
確かにナナシムの言う通り、俺遅かったせいで上の奴が何かしらの方法、例えば魔法で敵が来たぞと報告している可能性もある、ここは慎重に進むべきだ。
「ナナシム、スキャンしろ」
「言われなくてもしています。……あの祭壇の奥、本のある場所の後ろには一つ部屋があります、そこには人らしき反応も二つありますね」
ナナシムはただの機械人形じゃない。
変り者だが、戦闘用の機械人形よりもハイスペックで、かなり厚い壁でもその先を見る事ができる。
俺達人間が魔法を使わないと見えなくて、感じない事でもナナシムなら何もせず、ただ見るだけで、感じ取れる。
こういう時程心強い事は無い。
「よし、トラップも……無いな」
俺のトラップ検知の魔法には何の反応も無い。
ここは……奥の部屋の二人を消せば上にいるより安全な場所かもしれないな。
外とは違って整備と手入れのしっかりとされた部屋をまっすぐに進む。
いきなり奥の部屋から襲われてもすぐ対応できるように武器を握り目的に近づく。
そして、本にたどり着いた。
本には鎖が巻かれ、鎖は床下に繋がっている。
これを引っ張れば音か振動で後ろの二人にバレる仕掛けがあるかもしれない。
こういう場合は鎖を斬っても音が鳴るし、面倒だな。
しかし、たかが本をここまでして保管する変わった野盗がいるとは……そんなに高価な本なんだろうか。
「後ろの奴らを片付けてから外したほうが良さそうか?」
俺達は小声で話していた。
だが、ついに存在がバレてしまった。
「誰だッ!」
本に付いた鎖を調べていた隙を見てなのか、それとも声に気付いたのか、女が奥の部屋から出てきてしまった。
叫ばれたら厄介だ。
だがここからどうやって最速で気絶させる?
無理だ、気絶させるにはどうしても少しだけ時間が余計にかかるから声を出されてしまう。
そうなれば入り口を包囲されたり、炎を流し込まれる可能性だってゼロじゃない
「一閃」
俺が取った行動は、気絶を諦めた物だった。
素早く刀を抜いて首をはね、倒れる体と飛び上がった頭を受け止めて床にゆっくりと下ろす。
……まただ、また殺してしまった。
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