机上の学問

菜の花のおしたし

第1話 知ったかぶり

私は大阪のある准看護師の専門学校に行っていた。

そこは学費ゼロ、寮費ゼロ、全てがお金いらなかった。

貧乏だったし、卒業してお礼棒したら終わりならとそこを選んだ。


一年の後半でふたり連れで東大阪の近大の近くの実習病院へ行くことになった。

私はそこがどんな所が興味深かった。

高校の時に「橋のない川」を何度も読み返していたせいもあったから。

近鉄の駅を降りると片側は近大があるから商店街があり王将もあったし賑わっていた。

「まっそやろ。今の時代でまさか橋のない川みたいな訳ないしな。」

そう思って、地図を見る。反対側や。

あれ?道ない、、。草ぼーぼーやん。

ミカは驚きもせんと、「こんなんやで。どっかに入るとこがあんねん。あっ、あの人行くで、着いていこか。」

そこは草で道なんかあると思えん。

着いて行ったら、まるで獣道みたいにひとが1人通れるくらいの砂利道が出てきた。

草をかき分けて行くと突然にブワーっと視界が広がった。

なーんもない、、、。

歩いてたらボロクソの家がお互いに支えながら建ってる。

「なぁ、これなんなん?」

「こんなトコやねんて。」ミカは大阪人やから。

線路向こうとのあまりの違いに衝撃を受けた。

とにかく病院に行かへんとと歩きだすと、なにやらキツイ視線を感じる。

あちこちで。

「なぁ、誰か見てへんか?」

「見てはるよ、よそもんが来たからやわ。」

よそもんって、、、。

病院の前に着いた時はホッとしたけど、何?これ?病院なん?

野戦病院ちゃうん。

病院はぼろぼろやし、病院の敷地で七輪でおばちゃんらが魚焼いたり、なにやらな鍋で作ってはる。

これが、、、。本読んでわかったような気になってたけど、。

二週間の実習やし、寮から通うには遠いから病院で用意してくれたところで寝泊まりする。

病院で挨拶して泊まる所へ連れて行ってもらう。

明日からはあそこで実習かと思うと気か重なった。

ミカが「お菓子買いに行こうや。商店街も見たいやん。」

私も息苦しさから逃げたかったし、ふたりで出かけた。


商店街街ではお菓子やジュース買って、はんぺん屋さんにもよった。

「おっちゃん、味見させてやー!ええやろー。」ミカは大阪人やな。

「お姉ちゃんら何処から来たん?」

「西淀です。」

「そっかぁ、何しに来たん?」

「うちら看護学生で病院の実習にきてます。」

「あー、あっこのなぁ。姉ちゃんら、怖ないか?」

怖ないか?と問われた時の意味がわからんかったからポカーンとしてた。

ミカは「おっちゃん、こっちも味見させてやー!」と話を変えた。

はんぺん屋で熱々のはんぺん買うておまけももろて。

「おっちゃん、ありがとうーー!」

「またおいでー。気をつけや、あんたら。」


翌日から実習は始まった。

古臭い医療機器、ベットのマトレス藁!なんやこれー?床は板やん、ぎいぎい言いよる。

けど、うちらが実習で来たと紹介されたら、患者さん、みーんな優しかった。

「慌てんでええがな。姉ちゃん、おちつきー!」とワタワタしてるうちらに笑って声掛けてくれる。

「あんたら、若いからお腹空くやろ?これな、持っていき。お寿司や、ちゃんと買ってきたやつやで。」

それは、にぎりのお寿司ではなくて「箱寿司」だった。四角いお寿司。酢飯の上に具材がのってて可愛らし。

美味しい、、。大阪は本来、お寿司はこれだったらしい。

実習はこんなんで嫌なことなんか無かった。


ある日、外で大きな声がする。

2階の窓から覗くと村の人達がデモ行進してる。

おかしいのは子供がたくさん混じってること。今日、平日やん。

病院の人が教えてくれた。

「あれなぁ、同盟休校や。学校でなんかあったんかなぁ、、。」

何かあった?

「ある時から何かあると子供を学校に行かせないで、ああやって学校を糾弾するんよ。学校が謝罪して要求された通りにせん限りは終わらんねん。」


不思議な気持ちがした。

そこには、「橋のない川」の人達はいないような気がした。

村の中央には解放住宅と言う公営団地が何棟も聳え立っている。

整備された公園もある。

これも交渉の成果らしい。

どんな交渉だったのか、、、。

お店も同じ、「差別」と思えば糾弾する。それは、徹底的に。


確かに、理不尽な「差別」はあったし、今もあるのだろう。

その当時、「逆差別」と言う声もあったのも事実。

私は現実を見て、自分は知ってるような気持ちでいたけど、それは机上の学問だったと思い知らされた。

数年後、その病院は村から出たところで建て替えをした。

初めは村の代表の人が

「気兼ねなくかかれる病院が欲しい。」と言う純粋な気持ちに、ひとりの医師と看護師が派遣され、木造家屋で診療を初めたのである。

そして、入院できる病院が欲しいと村の人達はお金を工面して作ったのである。

しかし、蜜月は終わり、病院はそこから出ないといけなくなった。

これには込み入った事情があったのだが、ここでは書かないことにする。


ひとり、ひとりの村の人は優しくて気さくで世話焼きで良い思い出しかない。

それから、自分の目で確かめなければ事実はわからないと考えるようになった。






















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