第9話 机上の理論と現場の壁
火曜日、曇りのち雨。
学は、支援員さんを、拝み倒して、作業場でなく、小部屋で、シロー、順子さん、ジョウと共に、紙折りの作業を、学の考えた、やり方で切り盛りすることになった。
昨日の減点を取り戻すため、机上で考えた手順に沿って進め様とする学。
まずは、作業の流れを簡潔に、説明することから……。ところが、話していて、……これで本当にいいのだろうか? ……という疑念が頭の中をよぎる。
「今日は、紙折りを始めます、これを、折ったら、あっちに行って、最終的には、ここに届きます」
次に、彼らの個々の作業の進め方を、尋ねるつもりだった…。
「〇〇さんは、何をするんですか? ……」
こんな感じで、しかし、彼らを、目の前にすると、緊張して言葉が、出なかった。時間が押すと、なし崩しに作業が始まった。
本来ならば、作業の役割を確認する事が、重要なのに、それは学が思っていた以上に難しかった。
もしかしたら、それが、本能的に、上から目線に思えたからなのかも……。
……表現が不味い、ただ、「なにやる?」と言えば良かったのかも、……
戸惑いながら、作業の手を動かしながら考えていた。作業は、続き、これまで身につけたスキルを頼りに、その後、何とか作業を、進めるものの、誰も学のやり方を、評価しないので、果たして、このやり方で正しいのか、その不安は拭えなかった。
今日は、何とか作業を終えたが、学は、学んだ事を忘れない様に、「今日の振り返り」を、彼らとしたいという思いが強くなった。
しかし、無理に集めた彼らに、果たしてどんな言葉で、自分の思いを、伝えらればいいのだろうか――
それでも、試しに、掃除当番の仕事を終え、送迎者の車が出発するまでの、調整時間に、学は、個人的に、彼らを集めた。
学が音頭を取ると、自然と雑談が始まる。
「仕事って、何でするのかな?」
「……」
「多分、皆を、楽にする事なんじゃないのかな…?」
「そうね。」
なんとなく共感してもらえた気はする。しかし、それが正解なのかは、まだわからなかった。
そして、それから、日を重ねるごとに、学は、取り組み方を少しずつ変え、臨機応変に、作業が出来るように、仕事を覚えていった。
学は、任された紙折りの仕事を前にすると、任せなさい、と言う気概と、心の片隅には、まだ、微かな不安が残っていた。
5月も、後半になると、あらいぐまさんは、誕生日を迎え。正式に56になった。それは、ひと雨ごとに暑くなる、「春」真只中の事だった。
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