第2話
夜の練習室に、静かな音だけが響く。
その空気の共鳴が、どうにも好きだ。
氷の上を滑る音、自分の呼吸、スケートの刃が削る音。
全てが一つのリズムとなり、目の前の世界を閉じ込める。
誰かの陰謀も、画策もなく、ただ自分だけが存在している。
全身で感じる冷気も、手のひらに伝わる氷の感触も、すべてが心地よい。
黙々と練習を続ける。
でも、そんな調和はガラスの如く砕け散った。
「懲りねえな、お前。そんなんだからオレに負けるんだぞ?」
「……あ゛?」
…別に奴も適当に言っているわけではない。
それは俺の部屋にある銀メダルと、あいつが持ってるおそろいの意匠の金メダルが示している。
それでも声が、無意識に低く震えた。
他の奴なら確実に謝って去っていく。
俺にはそれだけの威圧感があると自負しているし、そうなる様に育ってられてきた。
しかし、蓮は臆することなく、さらに続ける。
「休むのも練習のうちなのに、サボんのか?」
舌打ちが漏れた。
あいつの言葉は、正論だ。
でも、だからこそ耳を貸したくない。
親に教わった帝王学とやらの教科書には、正論で煽ってくる奴への対処は載っていなかった。
当たり前だ、普通の大企業の御曹司には、そんな友達どころか、そんな奴と話す機会なんてないはずなんだ。
だから俺は、
それが何より嬉しくて、でも勝てない相手がいる事を突きつけられるのが、何より嫌だった。
リンクから降りてシューズを脱ぐ。
せめてもの抵抗で何も返さない。
それに対しては何も言ってこないアイツの反応が、掌の上で転がされている感じがして、癪だった。
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