3.篤志の証言
Kは気を取り直し、次の容疑者の説明に移った。
「それでは、次は二人目の容疑者です。
その言葉に、探偵は腕を組み直し、わずかに身を乗り出した。
「第一発見者はたいてい怪しいものだが、今回はどうだろうな」
「私にはなんとも言えませんが……ただ、警察の調べによると篤志さんは不眠症で、睡眠薬を処方されていたことが分かっています」
「遺体から検出された睡眠薬が、篤志さんのものだと?」
「その可能性が高いです。少なくとも、検出された薬と同じ種類のものでした」
Kはコホンと一つ咳払いをし、篤志の証言を語り始めた。
◇
――遺体発見当時の現場の様子はどうだったか
「控室に入った瞬間、ソファの下に淳さんが倒れていて……びっくりして、大声を上げてしまいました」
――遺体の様子は
「怖くて、近寄れませんでした。慎也さんが確認してくれて、死んでる、って」
――発見までどこにいたか
「スタジオです。僕は、あの時以外はずっとそこにいました」
――遺体が発見されるまでの間に、スタジオを出入りした者は
「淳さんが眠そうな感じで控室に戻った後、慎也さんが様子を見に行きました。でも、なかなか戻ってこなくて……。呼びに行くだけなのに、どうしたんだろうって思ってたら、今度はマネージャーさんが見に行って。そのあとすぐ、慎也さんが戻ってきて、少し遅れてマネージャーさんも。僕も見に行こうかって言ったんですが、慎也さんに『もういい』って怒られたので大人しくしていました。あ、それから宏斗さんも、『電話する』とか言って、どこかに行ってた時間がありましたね」
――あなたが遺体を発見したときの状況は
「宏斗さんが飲み物を思いっきり倒して、床と僕の腕がびしょびしょになって……。それで、手を洗いに行くついでに、掃除用具を取りに行くことになったんです。ほんと、あの人のせいで……」
――怪しい動きをしていた者はいなかったか
「スタジオを最後に出た、宏斗さんが怪しいと思います。電話するとか言って出て行ったんですよ? あんなことがあったのに、そんな言い訳、信じられます? 宏斗さんが、絶対に怪しいです」
――睡眠薬について
「た、ただの、ちょっとした悪戯ですよ。淳さんの飲み物に、ちょこっとだけ混ぜました。いつも威張っている淳さんが寝坊したら、いい気味だなって。それ以上のことは何もないです……」
――淳についてどう思っているか
「僕、気が弱いんで、淳さんにはよく馬鹿にされてました。本当に嫌だったんですけど、全然やめてくれなくて……。マネージャーさんにも『殺すぞ』とか、ひどいことばかり言ってて、いちいち当たりが強いんです。正直、いつか痛い目を見てほしいと思っていたので、因果応報だな、って。あ、いや、僕がどうこうとか、そういうことではないですよ! 本当です」
◇
「一つ聞きたいのだが、スタジオには当然、防音機能があるのだろう? 控室で大声を上げたとして、それがスタジオ内に聞こえるものなのか?」
「はい、防音機能はありました。ただ、遺体発見時は休憩中で、スタジオの扉は開けっぱなしだったそうです。警察の実験によると、普通の会話は聞こえませんが、大声ならスタジオ内にも届くと確認されています」
「なるほど。だから遺体を発見した篤志さんの叫び声がスタジオまで届いて、皆が駆け付けたのだな」
探偵は顎に手を当て、じっと考え込んでいたが、不意にニヤリと笑みを浮かべた。
「しかし君は、なかなか臨場感のある語り方をするな。慎也さんの理知的な口調や、篤志さんの弱気な感じ……まるで本人がそこにいるかのようだ」
「え、そ、そう見えましたか?」
「うむ。まるで彼らが憑依したかのようだった。演技派だな。俳優にでもなってみたらどうだ?」
Kは慌てふためき、両手をブンブン振って否定した。
「いやいやいや、私にはそんなの絶対に無理ですよ」
「何事も挑戦だ。悩みなんて、吹き飛ぶかもしれないぞ」
「からかわないでくださいよ……」
Kは照れくささを誤魔化すように、話を元に戻した。
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