神隠しの喫茶店。〜それは、悩む人が迷い込む場所〜

のゔぁ〜

第1話 子羊、宮崎零の場合。1

 宮崎 零みやざき れいは、絶望のどん底にいた。

 結婚を誓っていた彼女が死んだのだ。

 肺ガンだった。まだ26才だったから、細胞分裂が凄まじい勢いで進み、診断された8月にはステージⅣの末期、つまり、どうしようもなかった。


 彼女は零には心配かけまいと、最後の最後まで知らせることはなかった。


 結婚式を予定していたのは11月中頃。

 9月には、二人でどんな結婚式にするのか話し合っていた。

 白いウェディングドレスと、赤い紅葉。それに、茉莉花の花マツリカ(ジャスミン)がほどけるように、柔らかく笑う彼女。ガーデンウェディングを予定していた。

 思えば、彼女はよく「きれい」と言っていた。あのときはまだ決めていない未来だから、予想しているだけだろうと片付けていたが、彼女はもう死ぬことを知っていたんだろう。




 零はゲームの制作をする会社に努めていたから、12月のリリースに向けて仕事が忙しくなり、合う時間も減っていった。


 結婚予定の1ヶ月前、宮崎零は病院に呼ばれた。


 お義父さんからの「病院へこい」との電話。

 嫌な予感がする。なぜ病院へいかなければいけないのか。なぜ彼女じゃないのか。そんなはずはないと嫌な予感を押し込めながら病院へ向かう。仕事なんか知ったこっちゃない。

 そこにいたのは、白い顔をし、やせ細り、髪の毛の抜けた彼女だった。いつもの彼女じゃない。彼女は寂しそうな顔をしながら言った。


「わたし、あと1ヶ月で死んじゃうんだって。」


 聞こえたのに、解らなかった。

 脳が理解を拒んだ。

 なんとか絞り出せたのはたったの3文字。


「なん、で...」

「ん?末期の肺ガン。内緒で抗がん剤治療してきたんだけど、もうムリみたい。」


 もう現世を諦めたかのように悲しみを浮かべる彼女。あぁ。そうなのか。やっぱりそうなのか。聞き間違えじゃなかったのか。現実だと確信した途端、思考停止していた感情が一気に押し寄せてくる。


「なんで..言ってくれなかったの...」


 懇願のような、諦めのような質問。

 それを教えてくれないほど、僕は信用されてなかったのだろうか。


「ごめんね。心配してほしくなかった。」

「そんな配慮のほうが辛いよ。そんなことならいくらでも心配かけてくれ。」

「零の悲しむ顔なんて見たくなかったの。わたしも、零が笑う顔が好きだから。」


 信用されたなかったわけではなかった。むしろ、善意の塊だった。僕は一度も「笑顔が好き」なんていわなかったけど、「わたしも」ということは、バレていたみたいだ。やっぱりかなわない。


「零、ごめんね。」


 なんで謝るんだ。

 なんで先に死ぬことを謝るんだ。ガンなんて細胞分裂のエラーだ。ただのバグだ。そんなの理不尽なんだから負けたような顔をしないでくれ。バグガン運営医療直さ治さなきゃなんないコト病気だ。それで負けたからと言って、責任はプレーヤー患者にあってはならない。負けたのは運営医療だ。


 泣いた。ただ泣いた。


 僕はそれからの1ヶ月、欠かさず病院に通った。日に日に弱っていく彼女を見ると、どうやったらずっと一緒にいれるか考えずにはいられない。1秒、1秒、無慈悲にも、理不尽にも時間は過ぎてゆく。刻一刻とガン細胞は増えてゆく。死神の鎌を研ぐ音が日に日に大きくなってゆく。そのたびに、本当に死ぬんだと実感する。最初は現実味がなかった。そりゃそうだ。愛する女が「一ヶ月で死ぬ」と告白したとき、正気でいれる男なんているワケがない。


でも、毎日が、毎秒が。死を実感させる。一ヶ月という期間は、死にゆく彼女と一緒にいるには短く、彼女が死ぬことを実感するには長すぎた。彼女が弱っていく焦りと、もう一緒にはいれない悲しみと、理不尽への怒りが私を狂わせる。


ある日、僕は彼女に言った。


「一緒に、死なないか。」



―――

作者です。

人物設定です。


零の彼女さんは、やわらかーく笑うタイプです。165cmくらいのお姉さんキャラ。口元にほくろがあって、髪の毛はゆるく結ってあるロング。ちょっと茶髪。基本はベージュ系、落ち着いたトーンの服を着てるイメージ。vtuberで例えると、にじさんじの叶さんと、白雪巴さんを足して2で割った女性って感じ。ちな外見の話ね。中身があんなんだったら、足して2で割ってもバケモン。100倍希釈でやっと大丈夫やからな。


零くんは、160センチくらいの包容力ある幻のお兄さんキャラ。そんなに熱くないタイプ。読書好き。多分、喫茶店の昔ながらのプリンが好き。こちらも茶色系のイメージ。やっぱ、気があったんでしょうね。いいね。身長的には負けてるのがいい。


失礼しました。



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