大変感情豊かで、かつ表現力に富んだ短歌たち
- ★★★ Excellent!!!
一首一首に込められた深い思いや、鮮やかな情景が胸に迫り、一気に読み進めました。
作者の**繊細で多面的な「私」が、現代社会、人間関係、そして内省を通して、赤裸々に描かれています。
感情の深さ: 喜び、悲しみ、怒り、諦め、そして愛といった様々な感情が、非常に正直な言葉で綴られています。特に「泣いたあと紙にこぼせばうつくしき 言葉となりてわたしを救う」(第1首)や、「欲しかった言葉も愛ももらえずに だからこそこの涙も燃やすんだ」(第20首)など、苦しみからの昇華や力強い意志を感じさせる歌に心を打たれます。
表現の多様性: 日常的な情景から、内面を深く掘り下げた抽象的な表現、そしてユーモラスな詠み口まで、非常にバラエティに富んでいます。
現代性: 「都会の仮面劇」(第3首)、「ブラックサンタクロース」(第43首)、「コンビニで売ってそうな「やさしさ」」(第53首)など、現代的な言葉や感覚を取り入れ、現代を生きる人々の孤独や葛藤をリアルに描いています。
特に印象的だった歌をいくつか挙げさせていただきます。
第1首 泣いたあと紙にこぼせばうつくしき 言葉となりてわたしを救う
コメント: 短歌という行為そのものの、救済としての力を表した、この歌集全体のテーマソングとも言える一首です。
第33首 泣きながら拾ったかけらあたためて わたしは私をつくってきたの
コメント: 過去の痛みを否定せず、すべてを抱きしめて自己を形成してきたという、強い自己肯定感と、その過程の苦しさを感じさせます。
第50首 比べられ盛りつけ直す自己肯定 見た目で言えば映えてるはずよ?
コメント: 「盛りつけ直す」という表現が、SNS時代における自己肯定感の危うさと、それでも装おうとする強がりを見事に捉えています。
第37首 だいじょうぶわたしはわたしを愛してる それでもきみも愛してみたくて
コメント: 自立した大人の「愛」の始まりを感じさせます。自己愛と他者愛のバランスを探る、深い一首です。
第49首 もうわたし恋したいんじゃないんだよ 信用できる「普通」がほしい
コメント: 恋愛の熱狂よりも、安心感と信頼を求める現代の「私」の切実な願いが詰まっていて、共感を覚えました。
第65首 「好きだよ」と言った直後にすこしだけ こわくなるのはなぜだと思う?
コメント: 幸福の絶頂で感じる、失うことへの予感や不安を、問いかけの形で表現した、非常に詩的な一首です。
第14首 なんでもと言うから母に空を贈る 雲のリボンで結ぶ青さを
コメント: 「空を贈る」という発想がロマンティックで、物質ではない、無限の優しさを表現しています。「雲のリボン」という比喩も秀逸です。
第79首 まだ熱いあなたの手跡、雪の下 春よ来るなと声枯れるまで
コメント: 別れや喪失の痛みが、雪と春という対比的な季節感の中で、切実に描かれています。「熱い手跡」が冷たい雪に覆われる情景が鮮烈です。