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「ぴんぴん、ぴんころりんと、隣組ぃ~♪」
ミュウが変な歌を歌いながら、石組みの遺構を降りていくやや背後から、しかたなくついて行くチエ。
万一に備え、ポケットの暗視カメラのスイッチは入れておく。
「気をつけて、ミュウ。天井、低いわよ」
「ちーたんのほうが髪の毛少ないんだから、頭ぶつけないようにね」
「誤解されるようなこと言わないで。ただのショートヘアでしょ」
チエは休み明け、トレードマークだった三つ編みを解いて、髪を切った。
もう恋なんてしないと決めたからだ。
「おとなの階段のぼったのね?」
「……もう、やっぱりヘルメット持ってくるんだった」
友人のセクハラを無視してぼやく。
遺跡探検にしては軽装すぎる装備は悔いても遅かったが、それ以上に独創的なミュウが厚底サンダルとヒラヒラワンピースで進んでいる事実を考え合わせ、自分が想像を絶するほどのバカではなかったことを慰めにする。
「フワフワヘアーのミュウは、あらゆる衝撃を吸収できるから問題な……がっ!」
傾いた天井の石にぶつけて、その場でうずくまる天パのミュウ。
そうとう痛いらしい。
「髪の毛伸ばすより、帽子かぶったほうが早いわよ。……あら、なにかしら」
チエは懐中電灯の光を向けなおし、通路のさきにやや広がったスペースを発見する。
痛みを切り抜けたミュウは、涙目で前方を凝視して……叫ぶ。
「夢で見たとおりなの! あの石がスイッチで、隠し扉になっていて、卑弥呼の墓があるの!」
チエは話半分に聞き流しつつ、遺構の周辺を調べていく。
たしかにこのあたりには「祭祀」の痕跡があるが、
「……あれ、なにかしら」
目を止めたのは、石壁に沿って横たえられた藁人形。
遅まきながら気づいたミュウが、絶叫をあげてその場をぐるぐるまわる。どうやら「混乱」を表現しているらしい。
チエは静かに近寄り、そこにある変則的な事象に懐中電灯の光を当てる。
確認できたのは、雑な造りの藁人形と五寸釘ならぬ編み棒。
「学校の七不思議なの! 着てはもらえぬセーターを編んだ編み棒で、禁足地に藁人形を突き刺すと恨みが晴れるの! ちーたん、触ったら呪われるのよ!」
もとより触るつもりのないチエは、記録として現状を保存しておくことに努める。
感情的というよりもエキセントリックをきわめたミュウと対照的に、理性とアカデミックで類推を進めるチエは、だれよりも冷静な観察者でありたい。
──この学校にも七不思議とかいう都市伝説はあって、ここにあるのも一部の変な生徒がそれを理由に侵入した痕跡、という意味にとらえてよさそうだ。
自分がその一味になりたくはないが、ここにいる時点で唇は寒い。
遺跡に残していいのは思い出だけ。本来、できれば足跡すらも残したくはない。
「見たところ数年以内の痕跡のようではあるけど、困ったものね」
「たいへんな呪いの土地なの!」
いまさらながら、ミュウがしり込みしている。場合によってはチエを残して逃げ去りそうな勢いだ。
ようやく顧みたチエは、死んだ魚のような眼で新しい友人を眺めながら、
「きっと強い恨みの感情をどう処理すべきか、合理的な判断ができなかったんでしょうね」
「ちーたんは物事をちっとも理解していないの! ここには藁人形と蝋人形による世紀末バトル・ザ・ファイナルアンサーが展開されているのよ!」
「…………」
なにを言っているのかわからないのは、いつものことだと理解している。
藁人形は、たしかにある。
蝋人形にされた同級生を見たことはないが、彼女がそうなってもべつにいいかな、という気がしないでもない。
──チリーン。
ふいに洞窟の奥から聞こえてくる、鈴の音。
ぞわり、と全身を貫く寒気に立ちすくむ。
危険な冒険は、まだ端緒についたばかりだ。
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