第36話 恋のライバル 1

 *** 中野の友人 視点


 広志…もう授業始まるけどまだ来ないのか?

 サボりは不味いだろ。

 確か、日下部と話があるとは言っていたが。


 バタバタバタ・・・。

「「遅れてすみません」」


 広志と日下部が、一緒に校庭にやってきた。

 腕を組んでいる体育教師に頭を下げている。


「遅刻だな。おまえら、校庭を10周走ってこい」


「え?まじ鬼川きついぜ」

「Xにあげちゃえ」


「お前らも一緒に走りたいか?」

「「いえいえ」」

「めっそうもございません」


 首を横に振る、生徒たち。

 令和の世の中になって媚びへつらう先生が多い中、鬼川先生は信念を曲げない。

 彼は、軟弱な生徒たちに対し容赦しない。



      *



 終業のチャイムが鳴り、おれは帰宅する用意をしていた。

 机の物を片付ける。


「それで?広志。日下部に聞けたのか?彼女の事」


 昨日、マックで木崎さんと日下部が一緒にいるのを目撃したらしい。

 見ようによってはデートにも見えるか。


 全く、さっさと木崎さんに告白してしまえばいいのに。

 見ている方がもどかしい。


「あー、お前さっさと告白しろなんて思ってるだろ。そう簡単にいかないんだよ。俺も気軽に声を掛けられたらなぁ」



「あ、噂をすれば、木崎さんと日下部だ」


 二階の教室から校庭を見下ろすと、鞄を持った二人が仲良く歩いている。


「…アイツ、他に好きな人がいるっていってたが、本当か?嘘ついているんじゃないだろうな」


「うわ、広志!顔、怖いって」


 広志は、今にも殴りかかりそうな目で日下部を睨んでいる。


 一瞬、日下部が振り向きおれたちを見た気がした。

 視線を感じたのだろうか?

 まさかな。



 *** 木崎 かなめ 視点



 昨日、日下部くんに告白しちゃった。

 結局断られたけど、一緒に帰りたい。


「今、帰るところ?偶然だね」


 偶然を装い、私から近づいて隣を歩く。

 振られたのに、諦めずに声を掛ける。

 だって、諦めきれないんだもん。


「木崎さん、一緒に帰りたいの?確か家は反対方向だよね…」


 確かに家は反対方向だけど…。

 私が彼の家に付いて行ったら、引かれるだろうか。




 校門に近づくと、見覚えのある女性が立っていた。


「友樹!今帰りかの」


 少し変わった言葉使いをする女神さま?

 黒髪だけど、瞳の色が金色なんだよね。


 下校する人たちが、彼女を見て通り過ぎていく。

 キレイな人なんだよね。

 言葉使いが変だけど。


「ミーシャ、迎えに来てくれたの?」


「変な虫がつかんようにな」


「変な虫って…」


 ミーシャの視線が私に注がれている。

 あ、私変な虫と思われてるのね。


「ちょ、ちょっと失礼だから!昨日ちゃんと告白断ったし」


「…その割に諦めていないようじゃが?」


 仰る通りです。

 私は全然諦めていません。


「日下部くんの相手は、神さまより、人間の方がいいと思うんですけど」


「ほほう。それはワシに対する挑戦状か?」


「ちょっと!二人ともこんな所でやめてよ…」


 バチバチと、目から火花が飛び交う。

 この時から、ミーシャと私は日下部くんを取り合う事になるなんて。

 この時の私は思いもよらなかった。

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