第15話 王城のお風呂 2

 久しぶりのお風呂で、ゆっくり湯船につかりたかったが、そうも言っていられなくなった。

 ミーちゃんが恥ずかしがって、湯船から出ようとしなかったためだ。

 早く出ないとのぼせてしまう。


 僕は、素早く体を洗って風呂につかって出た。

 今までの最速記録かもしれない。


 着替えてから脱衣所で、ちょうどいい場所に椅子があったので座っていた。

 用意してもらったタオルで汗を拭く。

 直ぐそこには廊下が見える。

 暖簾のれんがかかっていて、外からは見えないように工夫がされていた。


「急にどうしたんだろ」


 彼女の態度が180度変わって驚いた。

 人間になったから羞恥心が出たのかな?

 今までずっと猫だったわけだし、価値観が変わったのかもしれない。


「あれ、トモキじゃねえか。どうしたんだこんな所で」


 外から声が聞こえた。

 城の廊下を通りかかったのは、リュウいやタツヤだっけ。

 彼は脱衣所に入ってきた。


「お風呂に入れさせてもらってね。ミーちゃんを待ってるんだ」


「ふうん…」


 そのまま、彼は足を止めて立っている。


「何処かへ移動するところじゃなかったのか?」


「あー演習場に行くところだったが…風呂上がりの女神さまミーシャを拝見しても良いかと思ってね」


「だったら、早く行けば?忙しいんでしょ?」


 僕はタツヤの体を押すがびくともせず、鍛えられた肉体はどっしりして床から離れない。


「まあまあ、本当に見るだけだから…時間もかからないし」




「友樹?」


 可愛らしい声が、僕の名前を呼ぶ。

 しっとり濡れた黒髪に上気した頬。

 体はバスタオルで巻かれていて、首にタオルをかけた彼女に思わず言葉を失っていた。


「…美しい。妖艶な……」


 タツヤが何かを言っている。

 聞いているはずなのだけど、頭に入ってこない。


「友樹?何を驚いているのじゃ」


 目の前に光り輝く女神様が立っている。

 こんなにも美しい人が隣に居たのに、何で今まで気が付かなかったのだろうか。


 無言で彼女を見つめていると、僕はぺちぺちと頬を叩かれた。


「どうした?呪いでもかけられたか?正気を失っているように思えるが」


「ミーシャ、それはないだろう。貴方の美しさに彼は言葉を失っているのさ」


「は?」


「ミーちゃん…」


 口からようやく言葉が出た。

 うん。

 本当に驚いた。


「あ、そうだ。ミーシャさえ良ければ、オレたちの勇者パーティに入らないか?アンタが入ればさらに力強くなる」


「勇者パーティ?」


 ミーちゃんは首を傾げた。


「オレが言うのも何だか、不自由はさせないぜ?城で暮らせるし風呂も毎日入れる。魔王討伐とか言ってたが、魔王は今居ないみたいだからな。贅沢三昧だ」


 逃げ回っていた人が何を言っているんだか。

 ミーちゃんもちろん断るよね?


 彼女は目を細めて、顎先に親指を置いている。

 あれ?

 何だか悩んでいるみたいだ。

 もしかしてそういうの興味があったりして?


「魔王は…訊いておらんのか」


「え?」


「魔王はあと数年で復活するとは聞いておらんのか?まあ、ワシらには関係のない話じゃがの」



「そこに居るのはタツヤ?今、何か変な話してなかった?」


 暖簾の向こう側に、女性の姿が見えた。

 下半身が見えて、スカートっぽい何かを着用しているのでそうなのだろう。

 タツヤの仲間なのだろうか。


「お前ら、ワシが着替えるからこの部屋から出ておれ。まあ、友樹はここに居ても構わんがな」


 僕とタツヤは廊下に出た。

 そこには金髪のロングヘアの女性が立っていて、睨みつけられる。

 僕、何も悪い事をしていないのだけどな。


「ほ、ほらこいつの仲間がさっき言ってた…」


 言い訳をしているかの様に、タツヤが女性に言葉を語る。

 うん。

 何故か彼の言う言葉が、弁明している様に聞こえてきたよ。

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