第18話

 寒くもないのに。紙に包まれた肉まんからは湯気が立つ。 


「頼まれたとーり、買って来ましたよ」


袋ごと手渡す。若干の量の湯気が立つ。


「おぉ、ありがとうな」肉まんだけを取り出した穴虫さんは、僕に袋だけ返す。

「とりあえず粒あんと肉餡とを買ったんすけど——」発言の途中、はむっという音がした。顔を上げる。


「うん、やっぱり美味いな」


穴虫さんは気色を浮かべて、肉まんを頬張る。多分、あれは僕が狙っていた粒あんのほうだ。


「それ、餡饅っすよね? 穴虫さんは肉まんが食べたかったんじゃ……」

「いいんだよ。食えば一緒だ」


 穴虫さんはそう呟いた後、餡饅を貪るように食べ進める。僕が話しかけたって、口をモゾモゾ動かすだけで、絶対に喋れないだろう。


「うまかった。次は、掃除でもするか。なぁ?」

「穴虫さん」

「箒、箒」


穴虫さんは目を合わせない。僕の手元には空の袋だけがある。肉まんは奇しくも、穴虫さんの愛読古新聞の上に置かれたままだ。


「何か隠してること、ありますよね?」

「なんのことだ?」

「さっきから変なんすよ。僕のこと急に慰めたり、思い出話し始めたり、挙句肉まん買いに行かせるし」

「菅野君、それは肉まんに失礼じゃないか」

「いや、肉まんが悪いって言ってるんじゃなくて……」


穴虫さんは笑った。口元には、図らずも粒あんが付着していた。

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