片想いの人♂に2人きりで温泉旅行に誘われた話。
みららぐ
①
最初、私の聞き間違いかと思った。
「
「…えっ」
軽快な音楽が流れるカフェで、私にそう言ったのは彼だった。
彼、
そんな彼と、今年の夏で知り合ってもう2年ほど。
私が当時単発で応募したイベントのバイト先に明矢くんがいて、全く人見知りをせずに気さくに話しかけてきてくれた明矢くんとすぐに仲良くなった。
バイト終わりになんとなく連絡先を聞かれて交換し、今では食事やショッピングなど、2人きりで気兼ねなく出かけたりするほどの仲である。
そして今日も、お互いにバイトの休みが重なったため、こうして会う約束をしていた。
傍から見れば完全にデート中のそれだろうが、私たちはそういうのではなく、男女の友情が成立してしまっている。
それでも、さすがに泊りで旅行なんてのは行ったことがない。
明矢くんのそんな突然のお誘いに、私はちょっと目を丸くした。
「りょ…旅行?日帰りで?」
そう聞きながら目の前のオレンジジュースが入ったコップのストローを意味なくくるくる混ぜていると、一方の明矢くんが何やらスマホの画面を私に見せて、言葉を続けた。
「じゃなくて、1泊で金沢に。ほら、コレ見て。この前同じバイトの先輩が言ってたんだけど、金沢って人気観光地だけどそこまで混んでなくて観光しやすいんだって。何食べても美味いらしいよ」
「うーん」
楽しそうにそう言う明矢くんの手元のスマホに写っているのは、その先輩らしき男性とのSNS上でのそんなやりとり。
観光地や豪華な食事の画像などが貼り付けられていて、散々おすすめされたようだ。
確かに金沢は魅力的だよ。私もいつかは行ってみたいと思ってるよ。
でもさぁ。
私は少し考えるようにテーブルに両肘をついて、目の前の明矢くんのことを真っ直ぐに見つめる。
そんな私に「なに」と少し戸惑う明矢くんに、やがて私は呟くように言った。
「……明矢くん、観光だけが目的じゃないでしょ」
「えっ」
「他に何かあるんでしょ?そうやって誘ってくるくらいの魂胆が」
「…」
私はそう問いかけると、内心切ない気持ちで明矢くんを見つめる。
そんな私の言葉に、一方の彼はわかりやすく頬を赤くした。
ああ…やっぱりね。
私は明矢くんのその顔が、きらい。
やがて私の言葉に明矢くんは口を開くと、言いにくそうに言う。
「……実は、例の彼女と今度行けることになって、この金沢に」
「…」
「で…俺も金沢って行ったことないから、そのコと行く前に一度下見に行きたいなって。凛ちゃんには、一緒に旅行に行ってまた女の子の意見を聞かせてほしい」
明矢くんはそう言うと、「お願い」と私を見つめる。
少し照れたようなその笑みを間近で見ながら、私は内心「またか」と落ち込んだ。
明矢くんには、出会った当初から片想いの女の子がいる。
私はその片想いの女の子と会ったことはないが、明矢くん曰く本当に可愛くて放っておけない、大事な人らしい。
明矢くんが何度も猛アタックしても、彼女は天然なのか何なのか振り向くことはなく、気が付けばこうやって明矢くんと一緒に出掛けるのも、私が明矢くんのデートの練習台になることが当たり前になってしまった。
何度それを目の前で見ても、切なさには慣れない。
だって私は、そんな明矢くんのことが好きだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます