最終話(6)

「ありがとうございましたっ!」


 キラリは深々とお辞儀をして舞台を下りた。舞台袖の階段の下で待つ人影があった。憧れの先輩、夢園咲。


「素敵な初ステージだったよ、キラリちゃん」


 屈託のない笑顔。咲には人を惹き付ける天性の魅力がある。キラリは彼女のそんなところに憧れてこの道を目指したのだ。けれど、今はもうそれだけではない。


「ありがとうございます!」


「次は私のステージだね。よぉーし、先輩らしいとこ見せちゃうぞ!」


 咲は腕まくりのジェスチャーをすると、キラリと入れ替わって舞台へ続く階段を昇り始めた。その背中を見上げてキラリは言った。


「先輩、待っててください。あたし、必ずそこまで行きますから」


 咲は階段をてっぺんまで昇り切ると、キラリに振り返って「うん!」と嬉しそうに頷いた。


※ ※ ※


 ステージを終えたキラリが楽屋への廊下を歩いていると、いきなり。


「あーっ! かわいい!!」


 前から歩いてきた女の子がキラリに向かって叫んだ。同じステージ衣装を着ていることから、同級生のアイドルだろうと思われた。


「な、なんですか……?」


 当惑するキラリに、その子は艶のある黒髪のポニーテールを揺らしながらずんずんと近付いてきた。あっという間に、顔と顔が触れそうな距離。


「うわぁ! 近くで見るともっとかわいいなぁ~! 私、キラリちゃんのこと、前からかわいいなぁ~って思ってたんだ!」


「そ、それはどうも……」


 キラリが引き気味に返事をすると、ようやくおかしな空気を察したようで「あっ、ごめんなさい!」と距離を開けた。


「私、かわいいものに目がなくって、つい……」


「あ、いえ、ありがとうございます!」


 アプローチの方法はともかく、熱烈に褒めてくれているのはたしかだ。


「さっきのステージすごかったよ! 初めてなのにあんなすごいパフォーマンスができるなんて、本当にすごいよ! あっ、すごいばっかり言ってるね、私!」


「ありがとう。……うん。きっと、応援してくれる人たちのおかげかな」


 みんなに背中を押されて、キラリは今ここに戻ってこられた。あちらの世界でのことを思い出しながら、キラリは仁志にもらった星型のヘアゴムに手を触れた。その柔らかい感触が、あの夢のような時間が夢ではなかったのだと示していた。元の世界に戻りたかった気持ちと、別れの寂しさとが心の中で共存している。キラリは微笑みながら胸にこみ上げるものを感じていた。


「あっ! それ、お揃いだね!」


 女の子が嬉しそうに指さして言った。


「えっ?」


 彼女が「ほら」と背中を向けると、ふわりと揺れたポニーテールの根元を、同じ星型のヘアゴムが留めていた。


「これ、かわいいよね。私もお気に入りなんだ~」


「……うん」


 屈託無く笑う女の子にキラリはあたたかい眼差しを向けた。たとえ別れても、人と人との繋がりは決して無くならない。


「って、ごめん! そういえば自己紹介がまだだったよね! 私は……」


 キラリは首を振り、彼女よりも先にその名を告げた。


「よろしくね、エイコちゃん」


 今日が、彼女たちの本当のスタートライン。

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