日記

キリ

2025年5月

 壁掛けのCDプレイヤーの上でむき出しのCDがクルクル回っていた。あの人はいつもヒップホップを聴きたがるものだから、あの人がよく聴く曲のリリックもわたしの内側まで染みてきてしまった。それらに二人の関係性を別の枠組みに押し込められて勝手に規定されているようで不快。あの曲はジョンとヨーコに許可とってるの?変なの。ヒップホップって変。寝てる時、まるで寝てないみたいな感じだった。着替えがない日に、川辺でしゃがんで、手を浸して冷たさを感じているだけみたいな眠りだった。

 あの人は私がそっぽを向いて寝るのを嫌がった。「なんで?」と吐いて不機嫌そうに馬鹿力で引き寄せられる感じは別に嫌いではなかった。乗っかられると重くて仕方がない。夜観せられたホラー映画(visit)には統合失調症の夫婦?みたいな人が出てきて怖かった。私が怖がるとあの人は喜ぶ。結局30分くらい観たところで止めた。途中でお酒が尽きたから2人で近くのコンビニまで行った。あの人は鍵を閉めていないのに家に着いた時鍵を回した。私はそれを笑う。一度あの人は避妊具をつけずに入ろうとしてきて、「動かないからいいでしょ」と言った。私は「日本の性教育は遅れている」とぼやいた。変な夜。私の裸はnakedでなくnudeだと言った。この前の美術論の授業のことを言っていたらしいけど私はあまりよく聞いてなかったので乗れなかった。バカにされた。

 酔ったあの人はたくさん私に好きと言ってくれた。素直に嬉しくて、私も好きと伝えたら「嘘や!!!!」と叫ばれた。私はどうやら演技が下手だったらしい。確かに、自分の声を聴いた時に、あまりに気持ちが籠っていなくて少し悲しかった。ぶりっ子しすぎてたかしら。甘えた感じに言うのはもうやめようかな。嘘くさい女を抱きしめるのはどんな心地がするの?すごく嫌なことだと思う。

 ……私が起きた時、あの人の首筋に朝日が当たって、肌理が白く輝いて、そういうタイプの海みたいだったことを思い出す。あの人の頬はすべすべだった。朝は全然喋らないのがあの人らしかった。お昼ご飯に作ったあさりのパスタがとても美味しかった。あの人がつくる料理は美味しくなかったことがない。パスタはこれで3回目だろうか。私の仕事は麺が沸騰してから7分はかること、具を焦がさないように炒めること。あの人のママが実家から送ってくれた冷凍バナナケーキもとっても美味しかった。きっと料理の手際はママに似たのね。これからもっと上手になると思うとすごく楽しみな気がする……


 壁掛けのCDプレイヤーはラジオも兼ねていた。午後になると変な歌が流れ出した。あの人が曲名を検索したらイスラエルのポップスだった。

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日記 キリ @tyoutyouhujin

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