桐野 花音(きりの・かのん)

[log] 2007/08/29 02:03:01

誕生。東京都杉並区。

「ようこそ、花の音みたいな女の子」と母が笑った。

父が録音した産声は、今も家の棚にある。


> assign.name: 桐野 花音

> weight: 2984g

> sleep: 深い子


[log] 2013/04/01 09:00:00

小学校入学。

「かのんちゃん」って呼ばれるのが恥ずかしくて、でも嬉しくて。

読書感想文に『赤毛のアン』の感想をびっしり書いた。


> best_friend: るな

> dream: 本屋さん


[log] 2022/04/08 08:44:00

高校入学。

制服、ちょっと大人っぽい。

帰り道、桜が散ってスマホで撮った動画に「#新生活」ってタグつけた。


> highschool: 都立文泉高校

> heart = fluttering


[log] 2023/02/14 16:33:00

保健室で貧血→検査→紹介状。

その後、病院で告げられた言葉:

「悪性の骨肉腫です」

一瞬、音が消えた。


> diagnosis: malignant

> world: distorted


[log] 2023/05/01 07:00:00

入院生活開始。

点滴の針が痛い。友達から届いたLINEは「席まだ空けとくから」

「がんばって」はうれしい。でもちょっとだけ、つらい。


> hospital: Room 505

> smile: fake 40%, real 60%


[log] 2023/08/30 23:10:00

髪が抜ける。鏡を見たあと、すぐスマホのカメラを起動。

「#がんばるJK #まだ笑える」

それでも“いいね”がつくと、心のどっかが生き返った。


> self.view = reframed

> tags: survival_mode


[log] 2024/02/12 04:20:00

治療終了。

でも「もうできることは少ないです」と言われた日。

「まだやりたいこといっぱいあるのに」って口に出した。

それだけで、母が泣いた。


> emotion.break()

> power = diminishing


[log] 2024/03/09 01:33:00

夜中、ナースコール押せなかった。

吐き気、発熱、視界ぼやける。

でも、スマホのメモにこう打った:


「たすけて、まだ死にたくない

 まだ生きたい

 まだ生きたい

 まだ、生きたい。」


> log.save("kanon_last_note")

> signal.weak


[log] 2024/03/10 05:12:00

呼吸、止まる。

母に手を握られていた。

カーテンの隙間から、朝日が滲んでいた。

でも――彼女は見られなかった。


> process.shutdown

> age: 17

> status: deceased


[log] 最終出力:

「まだ、生きたかった。」

それがすべてだった。


> archive: /youth/kanon_kirino.log

> power.off(でも、最後のメモはまだスマホの中で震えている)

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