誘拐されちゃう!?

「ところで、ギルドに他のプレイヤーが見当たりませんが……」


 私が、受け付けのお姉さんに対して質問を投げかける。


「この建物に入る前に、ソロモードとマルチモードの切り替えをすることによって、仲間をたくさん呼ぶことができる設計になっております」

「仲間、ね……」


 ここまでで、お友達らしい方は全く作れていない。

 もしかして、私ってお友達を作る才能がないのかな?

 そう思っていると、タクトから私にメッセージがひとつ届いた。


「俺の師匠が、お前に譲りたいものがあるらしいんだ。広間まで来いってさ」


 と、書かれていた。

 これは、タクトによる罠かもしれない。けど、何となくこのメッセージは信用できそうだった。


 タクトは一度戦ったから、というのもあるかもしれないけど。


「とにかく、外に出てみてから……」


 私は出入り口の扉を開けた。

 そこから一歩踏み出して、メールに書かれた約束通りの場所へと向かおうとした時だ。


「むごっ……」


 ギルド出た途端、口を押さえつけられて、腕でぐっと締め付けられた。


「すまない、ここはひと目が多いことを忘れていた。指定場所を安易に考えていた、俺様の不手際もあるのだが……」


 掠れた男性の声が、私の耳に届く。

 そして、なんだこれは。

 黒髪の男が走る。

 私は黒髪の男に捕まっており、両足が宙ぶらりんとなっていた。


 暫くはこのままかな。

 私、どうなっちゃうのだろう。などと思うこと三十秒――。


「ひとまず安全地帯まで移動したから、メッセージについて改めて話をする」


 黒髪の男は、私にいつでも詫びるつもりでいた。


「ここは、路地裏でしょうか?」

「俺様個人的には、ひと目につかない場所を選んだつもりなんだが」

「うん。とりあえず声をシャットアウトしますね」


 私は茶色い杖を取り出すと、軽く振った。


「薄い膜か?」

「そうですね。これで他の者に会話内容は伝わらないでしょう」


 私は本題へと戻す。


「それで、私を誘拐してどうするつもりなのですか?」

「誘拐なんてのは誤解だよ、誤解。俺様はタクトの師匠だよ。弟子が迷惑をかけたから、お詫びとして渡したいものがあってだ」


 男は、銀に輝く杖を見せびらかす。


「これ、よかったら使え。俺様には要らないから」


 先端が鋭くて、槍のように尖っているこの杖を、なんと差し出してきたのである。

 なにか裏があるのでは……。

 そう思った私が受け取るのをもたついていると、男は私の顔面に向かってその杖を押しつけてきた。


「ちょっと! 何をするのですか!」

「早く受け取れ。お前、ゲーム始めたばっかりなのに固有スキルがふたつあるだろ?」

「それがどうしたのですか!」

「レア度の高い武器とはいえ、シクスオの中だと相応しい者にちゃんと持ってもらいたい、ということだ」

「ふーん……そうなんだ……。あっ……」


 なんか言いくるめられてしまった。

 あと男に力負けしたので、私の両手には銀に輝く杖がある状態に。


 お礼なんて言いにくいけど、私はゆっくりと口を開く。


「えっと……。改めて、ありがとうございます……。ところでこの杖、どのくらいの性能をしているのですか?」

「その武器には秘められた力があるのだが、お前が所持して、はじめて意味を持たらすんだよ」

「私が持ってはじめて意味を成すの?」

「まぁ、そうなる」


 男の語尾がハッキリ聞こえる。

 その後、私の右肩を叩いて。


「俺様はこれで失礼する」

 とだけ言って、立ち去ってしまった。



「ありがとう……ございます……」


 私だけしかいない路地裏で、もう一度お礼をしたが、ちょっと不思議な気分を抱く。


 私が両手で握りしめている、この銀に輝く杖。


 エグゼクトロット――。


 容易には手に入らない、SSR級の装備で間違いなかった。


「はっ、本当に誰もいないよね」


 周囲を見渡し、他人の目がないことを再確認した私は、無意識にギルドがある方向に歩きはじめていた。


 できる限り裏道を通っていく。が、ギルドに近づくにつれて、活気あるプレイヤーたちの声が大きくなっていった。


「戦闘、やっていますね」


 目の前で、剣を交える男二人が戦っていた。

 私は、ギルドの扉がある、すぐ近くで息を潜めることになった。


「これでどうだ!」


「うあああっ!」


 戦っていた二人のうちの片方が倒れて、生き残ったプレイヤーが喜んでいる。


 プレイヤー同士の戦闘はまだまだ活発である。

 チュートリアルが既に終わっていた私は、強い装備を持っているとはいえ少し不安になる。


 せめて安全にギルドへ入る方法があったら。

 お友達……一緒にシクスオを楽しめる方がいたら、この問題を解消できるかもしれない。


 とりあえず今は、隙を見てギルドに入り込もう。

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