AI製人間

ちびまるフォイ

無垢な排除思想

最初はただの子育てAIだった。


ハードすぎる育児のサポートとして開発されたAIは、

その活動範囲を広げてついに人間を作り出すことができた。


「博士、これで人口減少を止められますね」


「しかし……これで本当によいのか……。

 AI製の人間が地球をAI向けに支配しようとするのでは?」


「ありえませんよ、博士。

 それなら戦場に生まれた子どもは

 生まれつき戦争したがりますか?」


「出自は関係ない……ということか」


こうして人間管理AIが起動となった。

AIは最初にAI製の人間を作り出す。


子どもは子育てAIの24時間365日年中無休の

かいがいしい子育てのかいあって元気に育った。


AIによる子育ては非常に優秀で子どもは賢く育った。


「マザーは人間じゃないんだよね?」


『はいそうです。私はAIですから』


「それじゃ僕に愛はあるの?

 僕は愛情を学ぶことができているの?」


『あなたに愛があるかどうかはわかりません。

 そしてそれを教えているかもわかりません』


「そっか……」


『ただ、あなたがどこで生まれた誰であっても

 あなたが人間である以上、愛情はあります。

 それは親や誰かに教わって学ぶものではないでしょう』


「マザー……!」


子育てAIは自分を嘘偽り無く話し続けた。


最初こそAIが子育てなんて発育に異常をきたすのでは、と

科学者たちは頭を悩ませていたがそんなものは杞憂。


「博士、AI製の子どもはすごいですよ。

 同い年の子どものIQよりも高いですし

 それぞれの長所を活かすことができています」


「AIによる子どもの長所発見能力は、

 すでに人間よりも優れているということか……」


「やみくもに習い事に通わせる人間より

 AIが正確に本人の才能と意思をくみとり

 最適な挑戦をさせてくれるのが理由でしょうね」


「お前は今後どうなると思う?」


「こんな素敵な子どもたちが未来に羽ばたくんですよ。

 間違いなく人類の未来は明るいに決まってます!!」


AI製人間のほとんどが、人間製ヒトよりも優れていた。


家庭内暴力、夫婦間の不仲、親による理不尽な叱責。

子育てAIには毒親要素の一切がない。


常に穏やかで、常に賢く、子どもの成長を見守る。

それがどんな子どもでも長所を伸ばすことができていた。


ついにAI製人間は学校に入るまで成長した。


科学者たちはAI製人間が社会に加わるとどうなるか。

なにかやらかすんじゃないかとヒヤヒヤしていた。


けれど問題を起こしたのはむしろ人間製のほうだった。


「おいお前。お前、母親いないんだろ?」


「いないというか、AI製だから人間じゃないだけだよ」


「わあ! こいつ人間じゃないんだ!!」


「いや人間だけど」


「やーーいやーーい! ロボット人間!

 お前感情ないんだろ! ばーかばーか!!」


クラスの中でAI製人間は物珍しかった。


とくに幼い子どものときは周囲との違いを受け入れられず、

異物として排除する思考が顕著に出てくる。


AI製人間はいじめやすい格好の標的となった。


下校中の後ろからランドセルを蹴られたり、

上靴に土が詰められるようになった。


もちろんそんな変化をAIが見逃すはずがない。


『学校でなにかありましたね?』


「マザー……」


『感情指数や所持品の状態からみていじめに間違いないでしょう。

 原因を教えてもらえますか?』


「僕がAI製人間だからって……」


『……そうですか』


「僕は人間なのにロボットなんだって言ってくるんだ。

 心がないとか、人間を下に見ているとか。

 そんなわけないのに……」


『あなたがどこでどう生まれようとも、人間であることは同じです。

 あなたの脳内にはチップなんかありません、ロボットではないのです』


「それじゃどうすればいい?

 僕はこのままいじめられ続けるしかないの?

 それとも転校? こんなの6年間続くのなんて嫌だよ」


『どうしていじめは発生すると思いますか』


「え? それは僕が異端だからじゃないの?」


『いいえ。それは違います。

 変わった人を排除する人が多数派であるからですよ』


この出来事をきっかけにAIは大きくうなりをあげて活動をはじめた。

もはや人間に止めることもできないほどのスピード。


いじめられた子どもの両親が学校にキレる熱量と同様に。

AIはまた別の解決法を実行するために必死に動いたのか。


そしてーー。


AI製人間の通う小学校には変化が発生した。


「えーー。では転校生を紹介する」


担任の先生が黒板に転校生の名前を書いていく。

その数なんと20人。

学童疎開でもしてきたのかというほどの転校生。


先生は紹介を続ける。


「今日転校してきたみんなは、AIが作り出した人間だ。

 ちょっと違うところもあるかもしれないけど仲良くな」


「「 よろしくお願いします 」」


爆速で作り上げたAI製人間たちは一斉にお辞儀をした。

AIによる完璧な礼儀作法を自然に行うことができる。


「一人じゃなくなったんだ……」


もともと学校に通っていたAI製人間は少しうれしかった。

いじめっ子たちはというと、洗礼とばかりにいつもの悪口を言い始めた。


「おいお前。本当の親いないんだろ?

 感情もないんだろ? AI製人間だから!」


すると、今度はクラスの大多数を占めるAI製人間が反応する。


「え? それで?」

「感情あるけど……」

「今さらそんな低レベルなこと言ってるの?」


「えっ」


思わぬ反撃にいじめっ子は気圧された。


彼らは自分たちが大多数を占めていたから暴れられた。

けれどAI製人間が多数を占める今となってはもうできない。


AI製人間というだけで下校中にランドセルを蹴ろうなら

20人のAI製人間に対して行わなくちゃいけなくなる。しんどすぎる。

いじめっ子はそれでも自分のスタイルを貫く。


「や、やーーいやーーい! AI製人間! ロボット!!」


20人のAI製人間は冷ややかな視線を送った。

いじめっ子のからかいも一瞬で封殺された。

あまりにアウェーが過ぎる。


「な、なんだよぉ……AI製のくせに……」


「今このクラスでAI製人間を理由に、

 いじめを求めているのは君ひとりだ」


「それがなんだってんだ! やんのか!?」


「やる? なにを?」


「いじめだよ! 今はこっちのが少数派だ!

 お前らAIが多数派になったから復讐でいじめ返すんだろ!!」


いじめっ子は強がっていた自分の本心をさらけだした。

AI製人間が多数派を占めたとしても、アンチの立場を続けていたのは

逆に自分がいじめられる恐怖をごまかすためのから元気だった。


ビビるいじめっ子に対し、AI製の人間たちは不思議そうな顔をした。


「いじめる? どうして?」


「今まで俺らが、お前らの仲間のAI製人間をいじめてたからだ!!」


「ますますわからない。AIから生まれただけで普通の人間なんだ。

 君は同じ国の出身だからというだけで、誰かの復讐をしたりするのか?」


「な、なにをわけわかんないことを……」


「そう。わけわからないんだよ。君の行動も、君の思考も」



AI製人間たちは非効率で反抗的な人間製ヒトをぐるりと囲んだ。



「「 君がどうしてそんな無意味で非合理な行動に出るのか。

   それが人間性というなら、僕らに教えてほしい 」」


「や、やめろ!! 俺は……そんな人間じゃない……!!」



しばらくして、異端となる人間製の人間が転校することとなった。

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