若し『ダゴン』の主人公が日本人だったら
伽図也
⒈ 若し『ダゴン』の主人公が日本人だったら
船は間も無く解放された——私を除いて。不味かったのは、私が軍籍で在った事だ。海技士資格を得る目的で志願入隊した故で、身分は既に予備役なのだが、諜報任務を疑われ、身柄を拘束された。
敵は礼儀正しく、
艦は良く整備されて居り、特に
食料節約の為、魚を釣って食った。火は無いので
更に心配なのは飲み水だ——蓄えが尽きた時が私の最後だ。
三日目かの朝か、
手に取り——口にする、と……悪くない味だ——いや、美味い! 味迄もが其の物、処か、上物ではないか。此れは行ける。暖かい御飯が欲しく成った。いや、冷や飯でも良い。後は削節を
理由は兎も角、
問題は
見た目に加えて匂いも
とも在れ、
月明りを頼りに『巨大な海苔巻の表面』を歩んで往く。
途中に『干物』が点々と転がって居たので試しに摘まんで見ると、意外に行ける。地面の海苔を剥がして巻くと一寸した珍味だ。酒が無いのが惜しい、等と言って居られない。腐って居ないのは強い日差しでの急激な水分蒸発で塩分が濃く成った所為なのか。但し
其の先に待って居たのは——
火口——矢張り此処は隆起した海底火山なのか。にしては地熱が無い。噴火の兆候も形跡も見えない。だが
朝を待つか——と思った
水が有るなら、幸いだ——確かめねば
……
『竜宮城』——然んな言葉が脳裏を過る。
……
私は慌てて、だが静かに、岩陰に隠れる。そして息を潜めながら様子を見る。大河童は石碑を抱き抱えた
『
急に暗くなった。月が雲に隠れた。ぽつりぽつりと水滴が落ちて来た。波の
舟は再び海面に居た。私は舟を大幕で覆い雨を凌ぐ。又、出来るだけの雨を樽に貯めた。
私は無事日本に帰って来た。軍や警察に諸々聞かれたが、『海神様』の件は伏せて置いた。
袋に詰めた海苔も調べた。殆ど嵐で流されて仕舞い、残った僅かな量を大学に持ち込んだが、近海の物と同種で
遂に帰国が許されたのは
案の定、私の乗る船は米軍の夜襲に合い撃沈された。黒い波間に飲まれる最中に、私は
私は死ななかった。近隣の小島に打ち寄せられた。何故か周辺に都合良く水や食料が共に打ち上げられていた。
帰国した私は故郷の漁村に向かった。父母は既に他界し、兄弟等は
預金封鎖された間は家庭菜園と磯釣りで食い繋いだ。何故か魚は欠かさず捕れた。余った分は近所に分けた。
其れでも金は要る。だが年齢的に就ける職は無い。私は自宅を担保に得た資金で地元に水産会社を立ち上げた。事業は戦後景気に乗って順当に拡大し、私は一財を成した。だが
或る夜、何者かに付けられた。取引の都合で帰りが遅く成り、港の近くを歩いて居た時だ。
翌朝サイレンの音に目を覚ますと、
何時しか私は祟り神と恐れられるように成った。人殺し共が良く言う——想像通り暗殺に失敗した商売敵の
老いた身には
——
※ 此の物語はフィクションで在り、実在の人物・団体とは一切関係有りません。
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