ミミズク

五月タイム

第1話

 ミミズクが青年を眺めている。森の道を行くブレイブは不安げだ。大岩を目印に右へ進むよう言われたが大岩に行き当たらない。ここまで一本道だったはず。だが、あるいは。


 ブレイブは騎士だが剣を抜けない呪いを受けていた。抜こうとすると恐ろしくなり手が震る。つかを握ることさえできない。神託ではリゲナの村へ向かえば治るらしい。リゲナへ行くのに通るのが今いる森だ。


 進むと住人がいるだろう小屋が見えてきた。道はそこへつながっている。この地に詳しい者に訪ねるのがいいだろう。扉を叩いて声を掛けた。


 中で物音がし少しして住人は扉を開ける。腰の曲がった老婆だ。薄気味悪いが今さら引けない。事情を話すと道に迷ったのだと返ってきた。引き返してリゲナに向かえば森の中で夜になると言う。泊まるよう言われ渋々うなずいた。


 夜は森の幸を馳走になり、マントにくるまって部屋の隅で眠りに就いた。物音に薄目を開けるとロウソク照らされる老婆の姿が。手にするのは人の首だ。呪文のようなものを唱えている。


 剣を抜くこともできない今、見なかったことにしたい。だがブレイブは騎士だ。正義を貫かねばならない。恐怖をねじ伏せて跳ね起きた。


「何をしている!?」


 老婆は不思議そうな顔だ。よく見れば手に持っているのは大きな松ぼっくりではないか。気が抜けて座り込み、事情を話し、謝罪した。老婆は気にしたふうでもない。


「よく立ち上がりなさったね。勇気の印だよ」


 ブレイブは強い眠気に襲われた。思考する間もなくうずくまって眠ってしまう。老婆の優しげな声が聞えた気がした。


 ブレイブが目を覚ますと辺りは明るく森に横たわっている。老婆も、小屋もない。危機を感じ、剣を抜いた。周囲を確認する。背後に大岩があった。他はただの森の中だ。


 そこで気づいた。剣を抜いていることに。震えもない。振れば身になじんだ鋭い斬撃だ。呪いは霧散していた。


 ブレイブを見下ろす枝ではミミズクが様子を眺めていた。

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ミミズク 五月タイム @satsuki_thyme

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