第37話『アリーナ様は悪い子でゴザルなぁ』
魔力喪失事件について、お父様に報告し終えた私たちは、再び家を出て、旅に出る事にした。
とは言っても、今度は南西、南、南東方向だけれども。
「そうだ。アリーナ」
「はい。なんでしょうか」
「ヘンリーがアリーナを探していたようだ。何か知っているかな?」
「いえ……お義兄様と何か約束をしていたという様な事はありませんでしたね」
「なら、まぁ時間が出来た時にでも会いに行ってやってくれ。冒険者組合にいる様だから」
「分かりました! では調査が終わりましたら、行ってみます!」
「あぁ。それが良い」
お父様に伝えられた事を受け取り、心に刻んでから私はエルフリアさん達と共に以前向かった方とは逆方向に向かって歩き始めた。
まずは、波紋の様に広がっていると思われる魔力喪失現象の調査だ。
「えっと、ここからですと、まずはソレーヌの町に行くのが良さそうですね」
「ソレーヌの町という事は、波紋の内側を歩きながら行く事になりますな」
「はい。ですので、少し街道から外れますが、山間の木々を確認しながら歩いていきましょう。少々長い旅になりますが、焦らず行きましょう」
土の中を動く、魔力を食べる何かが居る以上、あまり焦って移動しても正体を探る事は難しいだろう。
近づぎず、遠すぎず。
どの様な存在か見極めなくてはいけないのだから。
「後は、例の土の下に居ると思われる何かについてですね。周囲を警戒しつつ、怪しい物を見つけたら協力して正体を探りましょう」
「おや? お父上は近づくな。と言っていたのでは?」
「波紋の中心には。という話ですね」
私はニコリと微笑みながらタツマさんの言葉に悪い言葉を返す。
そう。あくまでお父様が言っていたのは波紋の中心には近づくな。というお話だった。
私がやろうとしているのは土の中に居ると思われる何かと接触する事だ。
「アリーナ様は悪い子でゴザルなぁ」
「これもエルフリアさんを守る為です! 相手の正体がわかれば対策も立てられますから!」
「私は、別に襲われても大丈夫だよ?」
「確かにそうなのかもしれません。でも、リスクは減らしておいた方が良いではないですか。ここには頼もしい方々もいます! 私もいます! だから、エルフリアさんが一人の時に狙われるような事が無ければそれが良いと思うのです」
「……むー」
「駄目でしょうか。エルフリアさん」
「……アリーナが一緒に居るなら、良いよ」
「っ! ありがとうございます!」
「私から離れちゃ駄目だからね!」
「はい! 分かりました!」
エルフリアさんはどこか不満そうであったが、私が一緒に居る事で納得して貰った。
本当に優しい方だ。エルフリアさんは。
可能性が薄いとは言え、私が狙われている可能性もあるからと不安なのだろう。
ならば! その不安も含めて全て解決してみせましょう!
色々と楽しい予定は約束していますし。
早くこの事件を解決して、世界を巡りながら色々な事件を解決したいなと思う。
エルフリアさんとなら、きっとどんな事件でも解決出来るだろうから。
「では進みましょう! 険しい道となりますが、えいやー! ほいやー!」
「うん。行こう。アリーナ」
「はい!」
「さ、進むでゴザルよ!」
「いくぞー!」
それから。
私たちは山道を歩きながら木々の調査をして、波紋の境界線を確認してゆく。
「ふむ。ふむ」
「どうでゴザルか?」
「はい。どうやら線は繋がりますね。以前確認した所から繋がって、真っすぐに伸びてます」
「という事はやはり」
「そうですね。波紋は大きな円形である可能性が高いです」
「おー」
「大発見でゴザルな!」
「はい。ありがとうございます。エルフリアさん」
「……ゼェ……ゼェ……よ、よかった、よ」
慣れない山道を歩いて、魔力の調査をしていたからか、エルフリアさんはすっかり疲れてしまい横になってしまった。
私は地面にシートを置いて、エルフリアさんを膝枕しながら、頭を撫でるのだった。
「少し休みましょうか。風も心地よいですし」
「そうですな!」
「では我々は近くを見てきましょう。何か異変があれば、大きな声で呼んで下され!」
「ありがとうございます。カズヤさん。タツマさん」
「お安い御用でゴザル~!」
「では参るぞ! 兄弟!」
「うぉー! 討ち入りじゃー!」
元気なお二人は走りながら私達から離れていった。
そして、残された私とエルフリアさんは静かな山頂で、緩やかな時間を過ごすのだった。
「エルフリアさん。起きてますか?」
「うん。疲れてるけど、眠くは無いから、起きてるよ」
「では少しだけお話しても良いですか?」
「うん。私もアリーナとお話したい。二人になるの、久しぶりだから」
「そういえばそうですねぇ」
思えば、冒険者となってからはクロエさん達と行動したり、お父様に依頼をされてからはカズヤさん達と行動していて、エルフリアさんと二人でノンビリする事は少なかった様に思う。
エルフリアさんはあまり人と接するのが得意な方では無いから、かなり大変だったのではないだろうか。
「申し訳ございません。エルフリアさん。大変な思いをさせてしまって」
「ううん。最近は慣れてきたから」
「それは良かったです」
私は膝枕されたまま、撫でて欲しそうに私を見上げているエルフリアさんの頬に手を当てて、軽く撫でた後、頭を撫でる。
それだけでエルフリアさんは嬉しそうに微笑んで目を細めるのだった。
気持ちよさそうで何よりだ。
「いつか、エルフリアさんにも多くのお友達が出来ると良いですね」
「私は……アリーナだけで良いケド」
「まぁ! それではエルダーくんはもうお友達では無いのですか?」
「エルダーくんも友達だよ!」
「では、私だけ。というのは間違いですね。より多くの、エルフリアさんの事を想って下さるお友達がいる方が幸せでは無いですか?」
「ぶー。アリーナのイジワル」
「ふふ。意地悪でも良いですよ。エルフリアさんが、幸せになってくれるなら」
「……アリーナ」
私は困った様に笑うエルフリアさんの頬に手を当てて、微笑んだ。
だって、エルフリアさんは大切なお友達なのだ。
その幸せを願うのも、お友達として大事な事だと思うのだ。
「でも、新しいお友達が増えたら、アリーナと一緒に居る時間が減っちゃうかもしれないよ」
「そうですねぇ」
「ね? 嫌でしょ? 嫌だよね?」
「私は、それほど嫌ではありませんよ」
「……え」
私の言葉を悪い様に受け止めたのだろう。
ショックを受けた様に固まってしまったエルフリアさんに私はちゃんと意味を伝える。
「エルフリアさん。ここからの景色が見えますか?」
「う、うん。見えるよ?」
「今日ここから見える景色は、私とエルフリアさんだけの思い出なんです」
「え? と、う、うん。そうだね」
「エルフリアさんと一緒に色々な所を旅して、こういう思い出はいっぱい増えていくと思います」
「……」
「この思い出があれば、エルフリアさんとたまに触れ合うだけになっても、私は良いかなと思うのです。エルフリアさんが幸せであるならば」
「……でも、私は寂しいよ」
「なら、これからも一緒に居ましょう。エルフリアさんが満足するまで」
「たぶん、ずっと満足しないよ」
「それなら、それでも良いと思うのです。お母様は結婚してからもご友人の方とよくお話されていますしね」
「……でも結婚したらその人が一番大切になるんでしょ?」
「そうですねぇ。そうかもしれません」
「なら、やっぱり、ヤダ」
エルフリアさんは拗ねた様に足の上でゴロンと転がって、顔を私から逸らした。
そして、ハァとため息を吐きながら、ジーっとどこか遠くを見つめているのだった。
そんな子供の様なエルフリアさんが可愛らしくて、私はエルフリアさんの額を軽く撫でてから手を離した。
しかし、エルフリアさんはいじけたまま私の手をギュッと握ってそのまま抱きしめるのだった。
可愛らしいエルフリアさんを見て、思う。
こんな時間がずっと続けば良いのに、と。
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