第34話『よくお人形さんとお話していました』

 エルフリアさんとの調査で判明した事実をお父様に報告するべく私たちはミンスロー家へと戻ってきた。

 相変わらず家に入ると、お風呂場へと真っすぐ行く事になり、全身を綺麗にしてから屋敷の中へと通されるのだが、エルフリアさんはまだ慣れていないらしく、お風呂を出てからも、うにょうにょと言いながら左右に揺れている様だった。


「大丈夫ですか? エルフリアさん」

「う、うにゅ……なんとか。アリーナはよく平気だね」

「まぁ子供の頃から慣れてますからね」

「そうなんだ……アリーナは凄いなぁ」

「そうでもないですよ」


 私はエルフリアさんの言葉に笑顔でそっと返しながら、廊下を進んでお父様が待っていると思われる書斎へ向かう。

 しかし、どうやらお父様は不在の様だった。


「申し訳ございません。お嬢様」

「いえいえ。お出かけをしているという事でしたらしょうがないですよ」

「事前に連絡が出来ていれば良かったです」

「でも、お父様も急用で出かけられたのですよね。なら仕方が無いかと」

「はっ。寛大なお言葉ありがとうございます」


 スッと頭を下げる執事さんにお礼を言いながら、ひとまずは自室へと戻る事にした。

 急用で出かけたと言っても、それほど遠くない場所の様だし。

 帰ってくるまで家で待っていれば良いだろうと考えたからだ。


「では、廊下で待っているのも邪魔になりますから、私の部屋に行きましょうか」

「おー! りょーかい!」


 そして、エルフリアさんと共に私は自室へと向かい、待っていただいているカズヤさんとタツマさんに連絡するべくメイドさんにお二人への伝言をお願いした。

 あと、出来る事ならお部屋に来ていただく様にも。

 しかし……。


「お嬢様。どこの誰とも分からぬ者を。しかも男性を部屋に招くのは非常に良くない行為です」

「そうですか? では、客間に呼んでいただいて、私がそちらへ向かうというのはどうでしょうか」

「客間は現在奥様とお客人様が使用しております」

「あら。それは困りましたね」

「まぁ、どこか外で待たせておけば良いかと思います」


 私はうーん。と考える。

 このまま家の外に追い出すのは申し訳ないし。

 でも、客間も私の部屋も使えないし。


「ならさー」

「はい?」

「お庭に来てもらえば良いんじゃない?」

「それは、失礼ではないでしょうか?」

「大丈夫だよ。だってほら、四人で旅してた時は街道の外れで座ってたじゃない」

「それは……確かにそうですが」

「駄目って言われたら、その時考えれば良いと思うよ」

「……それも、そうですね」


 私はエルフリアさんの提案に頷き、部屋にある庭に繋がる大きな窓を開いて、カズヤさんとタツマさんを呼んで貰う。

 お二人は快く、部屋からすぐのお庭に来てくれるのだった。


「お邪魔するでゴザルよー」

「二回目の初めまして。ですな!」


「お二人とも。申し訳ございません。この様な招き方をしてしまい」

「いやいや。庭に招いていただいただけでも感動でゴザルよ」

「むしろ今でも良いのかと疑問ですしなぁ」

「そんなそんな。何か不便があったらすぐに言って下さいね」


 私とエルフリアさんは床に座りながら、お庭においたシートの上で座るカズヤさんとタツマさんに話しかける。

 まぁ、エルフリアさんはお話するよりも疲れている様で、私に寄り掛かってぐったりとしていたが。


「しかし、庭が広いですなぁ。アリーナ様もここでよく遊ばれたのですか?」

「そうですね。天気が良い時はよくお友達と一緒にお話をしていました」

「おぉ、お茶会という物ですか?」

「あ、いえ。そういう会では無くてですね。昔から一緒に居たお人形さんが居たのですが、その子たちと一緒に遊んでいたのです」

「それはそれは。良いですなぁ。実に楽しそうだ」

「はい……そうですね。特に子供の頃はお人形さんが喋ると本気で思っていまして。よくお人形さんとお話していました」

「お人形でも心があれば、喋るんじゃないかな?」

「……そうですね。確かにそうかもしれません。エルフリアさんもエルダーさんと良く喋ってましたものね」

「そう! エルダーくんは物知りだから色々教えてくれるんだよ!」


 ニコニコと楽しそうに語るエルフリアさんに私も思わず笑顔になってしまう。

 カズヤさんとタツマさんも実に楽しそうだった。


「皆さん。ちょうどお話に出ましたし。私のお友達を紹介しても良いでしょうか?」

「見たい! アリーナのお友達!」

「えぇ、えぇ。是非とも」

「我らもご挨拶をさせていただきたいですな!」

「では、ちょっと待っててくださいね!」


 そして、私はせっかくだからとベッドの近くに飾っていたお気に入りのお人形さん達を連れて来る事にした。

 せっかくだから紹介したいと思ったのだ。


「はい。こちらが私のお友達です。クマのベア君。大鳥のガーちゃん。それに何でも知っているシルヴィアちゃんですね。後は、タヌキのぽんぽこ君、キツネのコンコンちゃん、イヌのワンワン君ですね」

「たぬき?」

「はい。タヌキという生き物らしいです。お兄様が教えてくれました」

「へー。なんか面白い顔してるね」

「ふっくらしてて可愛いですよね」


 私はぽんぽこ君を抱きしめながら微笑む。

 そんな私を見てか、カズヤさんとタツマさんが微妙な顔をしていた。


「タヌキにキツネにイヌ。完全にコックリさんやないか」

「こっくり?」

「そう。我らの地方に伝わる怖い話ですな。タヌキやキツネは人を化かすと言われておりまして……人形であっても何かしら影響があるかもしれませぬ」

「まさか異世界でコックリさん型の怪異を見るとは思わなかったが……」

「いや、しかし、コックリさんなら喋りだしてもおかしくはないぞ」

「確かに」


 二人が話している事はイマイチ理解が出来なかったけれど。

 何となく今になって昔に起こっていた事の原因に触れたような気がした。


 どうやらタヌキ君とキツネちゃんはしゃべる生き物であったようだ。

 そして、その影響は強く、お人形になっても喋る可能性があると。


 凄い事だ。

 凄い事だった。


 私は確かにお人形さんと話をしていたのだ。

 それは、とても感動的な話であった。


「……そういうお話なら、また皆さんとお話が出来るかもしれませんね」


 私はお友達を抱きしめて、目を閉じる。

 どこからか、あの時の様に声が聞こえてこないかと。


 しかし、少しばかり待っていたが、声は聞こえず、私はまたいつか聞きたいなと思いながらもお友達をまた床に下ろすのだった。


「まぁ、もしかしたら喋るのに条件があるのかもしれませんんぞ」

「条件、ですか」

「そう。以前アリーナ様がお声を聞いた時は、どの様な時間、どの様な場所だったのですか?」

「時間は……多分昼間ですね。いつも日が出ていましたから」

「ほう」

「場所は……お庭でした。外の方がお話がしやすいという事で、よくあのお庭の端にある木に寄り掛かって木陰でお話をしていましたね」

「外の方が良いという事は……やはり動物霊なのか?」

「まぁその可能性が大きいだろうなぁ」


 お二人は私の話した事から、色々と状況を察したらしく、話をした原因について考えてくれていた。

 私はそんなお二人の話を聞きながら、ぽんぽこ君を両手で持ちつつ、ジーッと見ているエルフリアさんに話しかける。


「可愛いですか? エルフリアさん」

「うん。かなり可愛い」

「気に入っていただけて嬉しいです」

「ね、ね。アリーナ。今度、エルダーくん達を連れてきても良い? 一緒に遊ぼうよ」

「はい。それはとても良いですね」

「やったー。じゃあ、魔力の事件が解決したら、連れて来るねー! きっと仲良くなれるよ! エルダーくんは優しいし、頭が良いんだ!」

「それは素敵ですね。では、お友達を集めてのお茶会を開きましょうか」

「うん!」


 満面の笑みで頷くエルフリアさんに、私も微笑んで、未来に楽しい気持ちを送った。

 早く魔力喪失事件を解決して、エルフリアさんと共にお友達会を開きたいものだ。

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