第29話『今日はなんのお菓子を食べるの?』
世界に何か大変な事が起こっている!
かもしれないという事で、私とエルフリアさんは二人旅を始めたのだが……。
正直なところ、その旅路はかなり地味な物であった。
二人で街道をテクテクと歩き、途中にある木や石や建造物の魔力量を確認して、細かくデータとして残す。
数値にするのは難しいため、何となく、向こうよりは高い。向こうより低いというエルフリアさんの言葉を聞いて、それとなく数値を設定してゆく旅だ。
一個一個丁寧に作業してゆく為、大変時間が掛かる作業である。
そういう事から、この旅が二人旅で良かったと私は心の底から安堵するのだった。
二人旅というのは良いものだ。
疲れたら二人で街道から外れた草むらで横になって休んでも良いし。
お腹がすいたねという事で、ご飯を食べても良い。
四人旅や三人旅だと気を遣ってしまう事も、二人旅ならエルフリアさんと気持ちを合わせれば良いだけだから非常にやりやすいのだ。
「エルフリアさん。疲れてませんか?」
「うん。だいじょーぶ! たのしいよ!」
「それは良かったです」
「でも、アリーナが疲れてるし、ちょっと休もうか!」
「ありがとうございます。エルフリアさんは優しいですね」
「えへへ」
はにかんで笑うエルフリアさんに感謝を告げながら、私は街道から外れて草むらの上で座り込む。
そして、飲み物を容器から取り出して、コップに入れながらエルフリアさんと共に飲んで、ホッと息を吐いた。
「今日はなんのお菓子を食べるの?」
「何にしましょうか。色々とありますが、クッキーやドーナッツ。パウンドケーキもあります」
「んー。どうしようかなぁ~。アリーナは? アリーナは何を食べるの?」
「私はクッキーにしましょうか」
「じゃ、私もクッキー!」
エルフリアさんは楽しそうにはにかみながら、クッキーをつまんで口に入れてから微笑む。
お茶を飲んで、クッキーを食べて、頬を抑えながらニッコリと笑うのだった。
私はそんなエルフリアさんを見てから、地図を広げて、ここまでの調査状況を確認する。
「んー」
「どうしたの? アリーナ」
「いえ。それが……調べている間に気になる事がありまして」
「キニナルコト?」
「はい」
私はエルフリアさんにも地図が見える様に動かしてから、おかしいなと感じる部分を指差して共有してゆく。
まずは私たちが今いる街道。
そして、次に私たちが以前辺境の村へと向かった街道。
「見て下さい。今私たちが居る街道は魔力量の減りが少ない。つまりは魔力が多く含まれている木々が多いんですね」
「うん」
「しかし、私たちが以前通った街道では、多くの魔力が失われています。これは、何故か」
「なんか魔力を食べちゃう奴が通ったとか?」
「そういう生き物が居るのでしょうか」
「しらない。見た事ないよ」
「うーん。なるほど」
しかし、流石はエルフリアさんだ。
非情に面白い発想を出してくれる。
魔力を食べる何か、か。
それなら理屈が通る様な気がする。
だから街道沿いに魔力が減っているのだ。
そして、その魔力を食べる何かは街道を進み、橋の魔力も吸い尽くして……村の魔力も奪った。
だからがけ崩れが起こった!
……。
いや、それだとおかしい事になってしまう。
だって、私たちが村へ行った時には橋がまだ壊れていなかったのに、村ではがけ崩れが起こっていた。
これでは順番がグチャグチャだ。
あ、いや。
違うのか。
逆なんだ。
私達が村へ行った時に、もしかしてその何かは村を離れたのではないだろうか?
つまり、半年前に村へ行って、山で沢山の魔力を食べていたその何かは、私たちが来た事で村を離れた。
そして、街道を通って逃げる際に、付近の木々から魔力を奪い。
更に、橋の魔力を奪いつくして、そのまま橋を壊してから街道を街の方へ走り抜けた。
と考えるとどうだろう?
実にすんなりと状況が揃うじゃないか。
「凄い! エルフリアさん! 真実に近づいたかもしれませんよ!」
「ふぇ?」
「もしかしたら今回の魔力消失現象ですが、魔力を食べる何者かがいる可能性があります」
「ほんとにー?」
「まだ確証はありませんが、自然の現象と考えるよりは、非常にそれらしいのでは無いでしょうか」
「そうなんだ」
「はい。なので、これからは魔力量の調査と同時に、動き方を見るという事も大事かもしれません」
「おー。すごい!」
「全部エルフリアさんのお陰ですよ」
「でも私は呟いただけだし、アリーナが推理してくれたから分かったんじゃないかな!」
「ふふ。ありがとうございます。では二人で頑張ったという事で!」
「おー! そうしよう!」
私はエルフリアさんと手を握り合いながら、笑い合う。
エルフリアさんはやっぱり凄い!
こんなにもアッサリと真実の尻尾かもしれない物を見つけてしまうなんて!
が、とは言ってもだ。
これが全ての真実という訳ではないと思うのだ。
あくまで可能性の一つ。
あくまで真相に近づく為の尻尾。
謎を解き明かす為に必要な一手とでもいう物だ。
だから、私は油断せずに、別の可能性を探りながら、エルフリアさんの見つけてくれた尻尾をしっかりと掴む。
それが何よりも大事なのだろうと思う。
「色々と調べたい物も出来ましたし。次はどこへいきましょうかね」
「んー。どうしようか」
「例の魔力を食べている何者かが向かいそうな場所というのも良いかもしれません」
「良いの? そんなテキトーな感じで」
「はい。大丈夫ですよ。ひとまずは色々な所を調べる必要がありますし。何か可能性があるのなら、そこから調べるのも良いですからね」
「そうなんだ」
「ですので、次はどこへ行くか。エルフリアさんが決めて頂けると嬉しいです」
「んー! じゃあ、美味しいモノがある場所に行こう!」
「ふふ。良いですね。では木造の建物が多く、かつご飯が美味しい場所に行きましょうか」
「わーい! やったー!!」
エルフリアさんはとても嬉しそうに笑顔を零しながら両手を上げた。
その楽しそうな姿に私も笑みをこぼしながら、地図を見て、次なる目的地を探す。
「えー、と木造の建物が多く、ご飯が美味しい街は……」
「それならネーリンの街が良いと思うでござるよ」
「あぁ、ネーリンの街ですね。それは確かに良いですね!」
私は提案された街の名前に大きく頷いてエルフリアさんの方を見た。
しかし、エルフリアさんは黙って首を横に振る。
「エルフリアさん?」
「私は何も言ってないよ」
「え? では今の声は……」
私は周囲を見て、声の主を探し、その人を見つけた。
森で出会い、ミンスロー家で殿下の暗殺計画を口にしていた人たちが私たちの目の前、街道の真ん中に立っていた。
「あ、あなた達は!」
「いやぁ、久しぶりでゴザルよ」
「こんな所で会えるとは……これぞ運命」
「この人たち、誰? アリーナ」
「殿下の暗殺を考えていた人たちです! エルフリアさん! 捕まえましょう!」
私はエルフリアさんと共に立ち上がりながら魔法の準備をする。
殿下をお守りする為にも、危ない人は捕まえなくては!
「ちょ! ま、待って欲しいでゴザル!」
「……なんでしょうか」
「拙者たち。レスター王子の暗殺なんて考えてないですぞ!」
「そうなのですか?」
「そう。あの時はつい妙な事を口走ってしまいましたが、レスター王子はこの世に必要な存在ですからな!」
「ふむ」
焦った様に言葉を繰り返す二人を見て、私はふむと考える。
お父様に会った時、殿下が何者かに危害を加えられたという話は聞かなかった。
ならば、この人たちの言っている事は本当なのかもしれない。
でも……。
「そ、その目。まだ疑われておりますな」
「信じて下され! 幼き少女にその様な目を向けられるのはしんどいでゴザルよ」
私は彼らの心に殿下への敵意があることを確認し、どうするべきか悩む。
敵意はあるかもしれないが、具体的な行動はしていないのだ。
なら、思うだけなら……でも、殿下が危ないし。
「エルフリアさん。ごめんなさい」
「ん? どうしたの? アリーナ」
「申し訳ございませんが、二人旅では無くなってしまいそうです」
「え!」
「お二人が安全かどうか! 見極めさせていただきます!」
「え?」
「それは……まさか!」
「はい。私たちの旅に付いてきて貰います!」
「「「えー!?」」」
エルフリアさんには申し訳ないけれども、このまま見逃す事は出来ないのだ。
私は大きく頷いて、申し訳ないですが! と三人に改めて告げた。
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