第22話 悪魔の証明

避難所が抱える最大の問題。それは密かに身体を蝕む遅効性の毒のようで。それも知らず知らずのうちに侵されていき気付いたら後戻りできなくなるタイプ。


思想汚染とでも言おうか、終末思考的な何かに侵されている人たちがいる。


その人達が悪いわけじゃない。戦争が起こり、さらに訳の分からない事態が起こり、避難生活を余儀なくされている。


本来なら受けれるはずの支援もない。このまま世界が終わるんじゃないかという不安があってしかるべきだし仕方がない。


実際にその思想に染まりつつある人達でもそのほとんどは青だ。


問題はこういった極限状況における集団心理を利用しようと考える人がいること、これも仕方がないと言えば仕方ないんだが。


それでも黄色はいただけないだろ?それは人類の敵であることを示しているのだから。少なくとも俺たちの敵であることを。


革命家君の起こそうとしていた混乱よりもはるかに規模はでかく。被害だって大きなものが予想される。


そしてこの問題の一番の問題は、一見して悪いことをしていないこと。人々を励まし癒している姿に見えて、徐々に集団の心理を誘導している存在がいる。


コレのあぶり出しは普通なら難しい。いや、以前の社会なら警察なりなんなりが操作して、どこかで悪だくみの現場を押さえて、みたいなことも可能だろう。


しかしこの世界では科学捜査は行えず。捜査的なことにしたって人員は全く足りない。他にやることが多すぎるから。


直接的な暴力などがあればそれは簡単な話なんだがこうした水面下での動きを捉えるってのは並大抵じゃない。


そう、普通なら。そして、俺たちなら?


まず悪意の有無という部分が視えてしまう。殺意があったかどうかの判断に何年もかける司法とは違う。色を見て一発。


次に海斗の力。同意があれば意思の伝達が可能なこの力は嘘発見器とはならないが本当発見器にはなる。悪意が無ければその旨伝えて下さい、と海斗が迫ったとして。


同意した場合。伝えられた意思は言葉では泣く意思そのもの。悪意無しで白判定。


拒否した場合。悪意の有無は分からない。いくら悪意が無かろうと変な尋問に従わない人は一定数いる。悪意があれば当然拒否する。


なので嘘こそ判断できないが本当がどうかの方は判断できる。通常なら悪魔の証明とされる、やってないことの証明が行えるというチートな能力なのだ。


「はい、いいですよー、あちらへどうぞ。次の方ー、はい、そうですね。無理にやらなくてもいいですよ。でも、僕の目を見てはっきりと質問に答えていただくだけですから。出来ればやって貰えると助かりますね」


「終わった方はこちらへお願いします。どこか悪いところはないでしょうか?簡単なものなら改善出来るかもしれません」


海斗の診断が終われば雫の治療。


医師はいても薬が不足、というか補充に不安が大きい状況。最低限の処方で済ませれているのだ。普段浴びるように薬を飲んでた層からすれば不安も大きい。


多くはプラセボ、思い込みであるが改善したと喜んでくれているからまあいいだろう。本当の治療も織り交ぜているし。雫の治癒能力だ。


医師看護師などの全面的な協力を得て行う、避難民の一斉健康診断である。


避難生活から一定期間が立ち、汚物の問題は改善傾向であるものの衛生状態がいいわけじゃない。風呂だって入れない。


そこでこの機会に医師も賛成してくれた健康診断を行うことで、これからの季節に流行するインフルエンザ対策などもまとめて。


最後の仕事にふさわしい行いをしている、という訳だ。


受付にて遥香が黄色の順番を後ろに回す。青の順番は特に気にしない。最初にサクラというか軽傷の傷や風邪のものを行うくらい。


そして医師の診断とこの状況でも出来る検査諸々。ここは専門家にお任せすることになったが、そのあと。


海斗の診断である。ここで全く問題ないと判断された人は雫の元へ向かい軽症を癒す。本当に癒えるのだ。演技ではない素の感謝や感激が避難所に溢れている。


そして海斗の診断を拒否したものは保留判定。軽傷を直してもらえないのは可哀そうだが我慢してもらおう。


まあ避難所として行っている検査であり医師の診察からの流れにより思った以上にスムーズに海斗の診断を受けて貰えているが。ここまでの期間、献身的に避難所で役割を全うしてくれた医療従事者たちに感謝である。


「ちょっと、先にやらせてくれない?少し風邪気味で困ってるのよ?」


「申し訳ないけど無理ね。順番は絶対よ? ああ、あそこの童顔マッチョの診断なら先に受けてもいいわよ? ちょうど空いているみたいだし」


「はぁ? いやよ。診察は女性の医師もいるからいいけど。男に診断されるのを強要されるのは不愉快だわ!」


「不愉快では順番は変わらないわ。イヤなら受け無くても結構よ。でも流行病は避難所では危険なの。順番が来たら最低限医師の診断は受けて貰うわよ」


少しトラブルもあるようだが順番は絶対だ。黄色は青のあとだろ?信号機だってそうなんだし。


そうか、男女の問題で騒ぎ立ててきたか。そういうところは本当にアレコレと手を変え品を変え思いつくもんだね。


だが避難所生活にフェミニズムは通用しないんじゃないかな?遥香を見習えよ。


ま、あの女性が本当にそういう思想かどうかは知らん。とにかく状況をなんとかしたいだけと思うね。


健康診断も3日目ともなれば残りの数も減って来るからなぁ。気づくよな。特定の何かが後回しにされているかもしれないってことに。


あ、お祓いも先に受けれるぞ?そっちの効果のほどは知らんが巫女さんにやって貰えばいいだろ?


今回の流れは今の通りの選別によって扇動してる奴らを徐々に追い詰めていく。そうなれば後は、ってわけなんだが。


気にしたのは俺たちの紛れ込ませ方だ。健康診断とセットと提案してくれた市長は非常に優秀だと思う。


雫がマスクしてあまり顔を見せずに対応できるのもありがたいし、そもそもなんかの医療と勘違いしてくれるだろう。


神社や寺の協力も得てそっち方面のフォローもしてるし。はっきりと何らかの異変があることは市長側から避難民全員に伝えられている。


神父さん。牧師さん?分からないがキリスト教も完備。他はちょっといなかったが意外となんとかなっている。


神道って敵が少ないのね。まぁクリスマスやって除夜の鐘突いて初詣する民族だからな。なんかの異変にどっかの神のお祓いを受けるで納得出来るんだろう。雫の治療の神秘性を少しでも分散させることと終末思考への対応。神はちゃんと見てくれてますよというアピール。


最初の数人以外は仕込みじゃないんだけど、順番に誰もが行う行為にあまり疑問を持たないのは日本人特有かもしれんな。市長の力もあるだろう。


情報が正確に伝わっている。だから混乱も少なかった。導きとかかと思ったら伝える意志だったよ市長。



最初は拒否していた人たちも他の人達が問題なく通過し次の日になっても元気、そう。寧ろ元気になってるんだから徐々に海斗の診断をクリアしていく。


この様子を見て心変わりした人もいるかもしれない。黄色はどうするかな?追い詰められた革命家の行動は、歴史が教えてくれているがな。


そもそも搾取してるどころかしっかりと奉仕している行政を打倒してどうするんだ?


不安やひっ迫から発生した終末思考は仕方がないにしてもそれを利用して不毛な革命など必要ないだろうに。


と思うんだが彼らがどうするかは今日か、遅くとも明日には分かるだろう。あとは仕上げを御覧じろってな。


――――――――◇◇―――――――――――――――――


「なんなんだあの健康診断! いや健康診断はいい、今後の避難所の生活に関するアンケート? なんだあの問診だか尋問は。おい、適当にちゃんと避難所生活を送るってことで念じてればなんとかなるんじゃないのか?」


「やめておいた方がいいです。先日のショッピングモールの一件をご存じでしょう? その後の尋問についても。彼らは何かしらの方法で思考を読み取れるものと推察します。あの場で個別に動いては……」


「ならどうする! もう特定されていることもほぼ間違いない。少なくともマークされていることは分かった。どうすれば?」


「役所もある程度は把握してるんでしょう、普段以上に警備が厳しい。市長を打倒しても事態は解決しないかもしれません。ですが一つ提案があります。やつら、というのは先日から警察や健康診断に協力してるグループですが。そいつらも交代で役所の警備に付いてます」


「それがどうかしたのか?」


「奴ら元々は自分たちの拠点とかいうところから通っていたんですよ。この状況で。おそらくここより安全な何かがあるのでしょう。先ほど言っていた通り4人での行動ではなく2人です。今奴らの拠点にいるのは。

 これは、チャンスかもしれません。奴らは色々なアイテムを持ち込みましたが武器となるようなものは無かった。そういった物も、或いは」


「では今夜だな。もう完全に特定される日も近い。その時にどういった対応を向こうが考えているかも、そいつらから聞けるかもしれん。今日だ――」

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