初恋。

恋夢

第1話 汗と恋のニオイは、 声にならない気持ちのカタチ







放課後のグランドには西日が優しく差し込んでいた。


風に揺れる汗のニオイ。ボールの弾む音

仲間の笑い声。

その全ての中に私はいる。だけど


____


私の視線の先にはいつも先輩がいた


「陽菜!集中!!」


その声にふと我に返った


どうしてこんなにドキドキするんだろう。


このモヤモヤの先にあるものは一体。。。


当時の私はまだ知らなかった



これが甘く切ない恋の始まりだって



ボールを拾って先輩にパスすると


彼は優しく微笑み


「ナイスッ」


たったそれだけの言葉なのに胸の高鳴りが止まらない



頭では分かっている。これはただの部活。


ただの先輩と後輩なんだって


でもどうしてこんなにドキドキするんだろう


トクベツなんかじゃないって分かってるのに



なのにあの一言だけで私の世界は鮮やかに色を変え行く


「はーい!一旦休憩ねー!」


監督の掛け声で、部員達がバラけていく


私は少し遅れてベンチに腰を下ろし


冷たい水を言葉にならない気持ちと一緒に流し込んだ


「バカみたい…。」


思わずこぼれた言葉は、誰にも気づかれない


だけどこの胸の奥は何かがじんわりと滲んでいた


きっとこれは汗なんだと思い込むようにした。


「はー!今日も先輩はかっこいいねぇ」


「どの先輩のこと?」


わざと素っ気なく返したのに紬はニヤニヤしている。


「決まってんじゃん!蒼真先輩!!」


名前が出た瞬間心臓が小さく鼓動を早めた



私は無意識にペットボトルのキャップをきつく閉める


「陽菜は気づいてないかもだけどずーっと蒼真先輩のこと見てるんだよ!」


紬の言葉に頬を赤らめながら首横に振った


「そ、それは別に好きとかじゃなくてただの尊敬とかそう言うのだから!違うから!」


そう。きっと違うこの気持ちは【好き】なんかじゃない。


「またそんな事言ってほら見てみなよ先輩仲良さそうに喋ってるじゃん、嫌じゃないの?」


そう言って指さす方には楽しそうに話す先輩と学年1美人な先輩が話していた。


「別に…。」


思わず目を逸らしてしまった。


なんでこんなにチクチクするんだろう


「そんな事より紬は?怜先輩とはどうなの?」


「ど、どうって?別になんの進展もないよ。多分あの人私が好きなの気づいてないもん。」


そう言って紬は膝を抱え空を見上げた。




放課後___


練習後、倉庫前の扉で軽くため息をついた


「たくっ。陽菜ってばまた水筒忘れてる」


ガラッと開けて中に入ると、そこには先約がいた


「あっ…」


棚にボールを片付けて居たのは怜先輩だった

紬は直ぐに出ようと思ったが…


「ん、誰かと思ったらお前か」


「なんですかその迷惑そうな顔は!」


紬は不服そうに言い放った


「悪い悪い。冗談だよ」


怜先輩は子供みたいに笑った。


「手伝いますよ!」


咄嗟に言ってしまった


だってあんな無邪気な笑顔心臓に悪いもん。


「別にいいよ。もう終わるし。」


「でも、私が最後に残ってたし、責任あるから…。」


紬の言葉に怜はようやく手を止め紬の方を見た


一瞬だけ視線が重なり紬の心臓は小さく跳ねた。


「…… 真面目なんだな、意外。」


「え、それ褒めてます?」


「褒めてる褒めてる、多分。」


そんなやり取りをしながら黙々とボールを片付けていたが気まずいと言うより妙な落ち着きがあった。


最後のボールを棚に戻すと怜がボソッと言った


「陽菜のこと、よく見てるよな。お前」


「そりゃあ。親友ですから!」


「そっか…」


そう言った怜の表情は読みずらくて。


でもなんだか少しだけ距離が近くなった気がした。

















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