第五十三話 可能性

 独立国家サリパスを制圧して数日と経った頃、帝国領ニーナ家ではクフラク達がルミナスを護衛していた。

「ルミナス、今日は何して遊ぶ?」

「今日はね、お馬さんに餌をやりに行くの。」

「分かった一緒に行こう。」

 サリパスの制圧が終わった後、報告書が出てきた、文の内容は鍵とサタンの目論見だ、アルスがアレクから引き出した情報になっている、アルスが情報を引き出したとはどこにも書いてなくクフラクと報告書に目を通した者はアルスの存在を知らない。


 クフラクはルミナスを連れて馬小屋に向かうとドラゴンを飼育している小屋を発見する、ニーナ家は意外と広い。

「だああああ!落ち着けって!」

 ニーナ家に仕える人だろうか、ドラゴンの世話をしているが手を焼いてるようだ。

 ドラゴンが暴れ出すと、小さい飼育員が尻餅をつく。

「危ない!」

 クフラクは咄嗟に前へ出て飼育員を庇い始めると闇のオーラを出して威嚇する、これは生き物には有効でモンスターや野生動物に襲われないために活用する人が多い。

 ドラゴンは大人しくなって身を縮こませた。

「大丈夫?」

「お、お前……なんでサタンの……」

 飼育員もとい子供のエルフはクフラクを見て恐ろし驚いていた。

「てか、見たことあるような……。」

 クフラクは記憶を探り始める、この子供のエルフは会話こそしてないが実は一回会っていたのだ。

「思い出した……ヒルブライデさんと話してた奴か。」

 クフラクは思い出したようで当時ヒルブライデの隣はクフラクが収監されており、事情聴取のためこの子供のエルフが連れてこられたのだ。

「おーい、大丈夫か!?」

 騒ぎを聞き付けたライノックが現場に来たようだ。

「おい……ライノックなんでこいつがいんだよ……。」

 子供のエルフが震えながら話す、どうやらクフラクがニーナ家に訪れた事は分からなかったようだ。

「なんだよ……メイフィス。クフラクが来ることは前々から主人が言ってただろ?」

 どうやらこの子供のエルフはメイフィスという名前のようだ、前々から名前が気になってたんだよな……。

 一旦落ち着きメイフィスと話す、ルミナスはライノックと共に馬小屋へ行って餌を与えるようだ。


 二人が馬小屋に行ってる間近くに椅子があり腰を落ち着かせる。

「驚かせてごめんね。」

 クフラクはメイフィスに謝罪する。

「いいや、助かったよ。最近はドラゴンを手懐けられないんだ。」

「ドラゴンを扱えるの?」

「俺はドラゴンテイマーっていう職業なんだ、今じゃ珍しい、エルフだったら俺だけかも……。」

「他にいないの?」

「居たけど……死んだんだ。弟なんだけどね。」

「そうか……」

 クフラクはなんて声を掛ければいいか分からなかった、ましてや喋った事のない相手なら尚更だろう。

「君が現れた時、今度は僕が殺されると思ったんだ……僕の弟は魔女の実験の被験体2号……僕は失敗作ではあったけど命は助かったし闇と天性の割合が低いから紋章も出ずに後遺症が出なかった。運よく生き残った僕をサタンの使いが殺しに来たと思ったんだ。勘違いしてごめん……。」

「魔女……あいつらのせいで……。」

 クフラクは再びテレスの事を思い出す、共産国の時以来ラスティーネから出ていない、どちらにせよ彼女の体は無く魂だけが動いてる感じがする、彼女の人生を奪った事に変わりはないのでクフラクはそれを許せなかった。

「結局俺達……いや被験体とその被害者全てはサタンによるものだった。ベルゼブブを仲介としてたようだけど、サタンの目的は分からないまま……。」

「それなんだけど、ちょっと明らかになってきた。」


 クフラクは報告書の話をする。

「それが本当だったら、僕たちはなんの為に生まれてきたんだろう……。」

 メイフィスはさらに落ち込む、世界を滅ぼすというのだから、少なくとも被験体達の犠牲はなんだったのだろうか。

「メイフィス……一つ質問だ。テレスは何者なんだい?そしてルミナスは?」

「当時君達がテレスと言って保護してた子は僕達被験体のコピー、君が独房にいた時と同じ内容だ。詳しく話すなら、ある程度闇と天性の比率が分かって一発で僕たちみたいな被験体が出来ることだ、いつもみたいに闇の魔力を授けてその後に天性の魔法を付与し回復薬の入ったバケツを何度も何度も浴びせ続ける必要がなくなったのさ。だから共産国の学徒兵が急に天性と闇の魔力が使えるようになったろ?テレスは一発でその天性と闇を保有出来てるか、様子見とする試作型かな。」

 クフラクはテレスの正体が分かり合点がいった、急にヒルブライデがテレスを魔女の実験室から連れて行き王都へ放置した、右も左も分からない彼女を魔界から悪魔は監視していたのかもしれない、案の定彼女は天性の魔法で植物を成長を促したり、悪魔に囲まれた時は闇の魔術か不明ではあるが強力な魔法で周りの建物を崩壊させた、まず悪魔が彼女を魔界に連れて行こうとしたのも、何かありそうだ。

「えっと後はルミナスだよね。彼女は正直よく分からない、君の言ってた報告書にはサタンの娘って事になってるけど本当かどうか調べようがないんじゃないか?彼女は確かにサタンと同じ魔力を持っている、正直強いし暴れでもしたら手は付けられないかも……ただ一つ妙なところがあってさ、さっき話をしていたテレスと魔力の質が同じなんだ、兄弟がいた俺だから分かるけど、それに近いと思う、あの二人は何か関係があってもおかしくはないんじゃないか?」

 ルミナスは未だに謎が多い、メイフィスの考察が本当ならテレスはやっぱり悪魔にとって必要なものだったと考えられるが遺体は回収されてない。

「色々ありがとうメイフィス、助かったよ。」

「いいよ、これからは皆んなの為に頑張りたいんだ、前みたいに悪魔の囁きには騙されない。」

「囁き?」

「ああ、弟を返してほしくば協力しろってね。唯一の肉親だから周りが見えなかった、故郷は遠い昔に焼かれてるしね。」

「そうか……」

 話を終えると馬小屋からライノックとルミナスが出てくる、餌やりは楽しかったのか顔が生々していた。

「楽しかった?」

 クフラクはが質問すると元気良く「うん」と返事してくれた。


 ルミナスと遊び時間が経過する、その頃ニーナ家に客人が来たようだ。

「おお、バルキルウス殿久しいですな。」

 正体は黒死隊だった、遠征をしていたらしく各地の信仰騎士、悪魔崇拝団体を討伐していたようだ。

「バルキルウスさん!」

 ライノックはそれに気づきバルキルウスに近づく。

 ニーナ家はだいぶ賑やかになっていった。


 ニーナ家屋敷ではルミナスは自室で寝ておりクフラクは屋敷内をブラブラしているとキーウィと女性を発見する。

「あ、キーウィさん。」

「お、クフラクじゃん。背伸びた?」

「はい、少しだけ。久しぶりですね。」

「まぁな、色々あって会うこともねぇし。顔見知りは居なくなるわで悲しいよ。」

「そちらの方は?」

 クフラクは女性の方が気になった。

「私はマーヤ、キーウィは私の姉で今は黒死隊と共に行動してます。」

 袖から見える腕には紋章があり、所々にアザも見える、紋章から察するに彼女は魔女の被験体だろう。

「何ジロジロ見てんだ?妹に気でもあるの?」

 キーウィは怪しい目で見てくる。

「そんな気ないですよ。」

「なんか昔と違ってガキ臭さがなくなったな。」

「そうですか?」

「そうだよ、いつもだったら。「そ、そんなわけないだろ!!」って言うだろ。」

「そうかなー」

 精神年齢でも上がったかな、よく分からないや。


 夜になり入浴する、入浴場は男女で分かれている、金がある屋敷であるとつくづく思う。

 ルミナスは今まで女性の使用人によって入浴していたが今回はキーウィとマーヤがいるため彼女達と共に入るようだ。

 クフラクはライノックとメイフィス、黒死隊の三人とで入る、なんか賑やかになりそうだな。

 脱衣所で服を脱ぎ湯船に浸かる、風呂の仕組みだが予め水をマジックアイテムの容器に多量に入れ浴槽に繋げる、繋げている所に熱を発する魔法石を組み込めばいつでも熱い湯が出るわけだ、魔法ってのは便利で都合が良い。

 クフラクは湯に入りのんびりしていると扉が開きバルキルウスさんが出てきた、一瞬女性と勘違いしてしまうほどの美貌の持ち主だ、いつもはフルフェイスの兜で分からないが、ギャップの差に驚いてしまう。

「隣失礼するよ。」

 バルキルウスはクフラクの隣に浸かる。

 しばらく沈黙が続くとバルキルウスの方から話が始まる。

「調子はどうだ?ルミナスちゃんを守れているかい?」

「はい、守れてます。ただ、いつどこで狙われているか分からないので。」

「そうだろうな……彼女は鍵だ。報告書の話が正しければ彼女は狙われて当然の存在だ、一番最後の項目にある、使えば消滅すると……彼女の人生は使われて当然とでも言うようで私は憤りを感じるよ。」

「ルミナスを消滅させて世界を救う事は正解なのかもしれない、けどもやるせ無い気持ちが……」

「私もね正解は分からない、正しいかどうか。あの子を見てると妹を思い出すよ。」

「ヒルブライデさんですか?」

「ああ、私の不徳で彼女の人生は決まってしまった。アルスからは腹を割って話すように言われたがそんな勇気は私にはなかった。正直に言うとね当時の私は帝国よりも妹を心配していた、彼女の人生は彼女自身で決めて欲しかったのだ。アルスと共に軟禁された施設から出た時は心底嬉しかった。」

「ルミナスに人生の選択を選ばせられるでしょうか?」

「どうかな……私だったら三つ目の選択を探すかな。」

 暖かい湯が冷めるよな話になった、彼女は悪魔だから死という概念はない、消滅し再び顔を表すが、それはクフラクが死んでる時代に顔を出すかもしれない、復活するとしても彼女の人生を彼女自身で決めさせないのは良い気持ちにはならない。

「湿っぽい話になったな。すまない。」

「いいえ、むしろ話を聞いてよかったです。」

 良い感じの話をしていると後ろからガララと扉が開く音が聞こえる、ライノック達が来たのかな?

 振り返るとそれは男にとって恐ろしいものだった。

「な、なんで……ここにいるんだよーー!!」

 キーウィ一行だった、それはこっちのセリフだよ……。


 一方ライノック達は……。

「なんか逆になってね?」

 ライノック達が浴室に向かおうとしたが、男性と女性の看板が逆になっていた。


 再び、浴室では……。

「ち、違うんだ!聞いてくれ!」

 バルキルウスが弁明しようとするが、話なんて聞いてくれない。

「ウッセー!シスコンが!!」

 キーウィが桶を投げるとバルキルウスの頭に当たり気絶し湯船に浮かぶ、所詮強者も女性の前では敵わないのだ。

「クフラクも一緒に入ろ!」

 ルミナスは状況が分からないのか、クフラクに近づく。

「まぁ、姉さん。クフラク君はまだ子供ですよ。」

 マーヤがキーウィを諭す。

「分かってるよ。」

 クフラクは固まっていた、そして動かない。

「なんか様子がおかしくねぇか?」

 キーウィが近づくとクフラクはのぼせていた、どうやら16歳には刺激が強いようで気が気でなかったようだ。



 クフラクにとって今日は充実した1日になった、でも油断はできない、すぐにでも脅威は喉元まで迫っているのだから。


 

 五十四話に続く……。



 世界設定:キャラクター


 メイフィス、彼はエルフであり初期の段階では明かされていなかった。初登場は十二話と何かと最初の方で出ており、作者が扱いに困っているキャラクターでもある。理由としては名前が全く思いつかいない事であり、立ち回り方に苦戦してた。弟がおりそれが魔女の被験体で2号となっている、弟は後遺症で死んでおり兄であるメイフィスは同じ被験体ではあるが失敗作で後遺症で死ぬ事はなかった、彼らの出身はドラゴンと共生する森で生まれたエルフの種族であり、ドラゴニックエルフといわれている、ウッドエルフと同じく森での生活圏で活動してるため原種に近いとされており、エルフの中でも神聖な類とされている。だが、大昔どこかの国が彼らを危険視し森を焼き払った、ドラゴンという強大な力がある以上侵略を恐れた国が起こしたとされる、生き残ったドラゴニックエルフ達は皆類稀なる魔力を秘めている、なので高値で人身売買されてしまう、用途は様々で奴隷や戦闘の強制参加、彼らの骨で繋ぎ合わせた魔力を秘めた武器、魔剣など様々だ。大昔の出来事なので一般の住民は神話程度の眉唾物だと思っている、彼らの骨で使った魔剣は魔力で強固なものであり壊れる事はない、なので皮肉にも後世では伝説の武器として語り継がれている。因みにメイフィスの趣味はドラゴンの研究で部屋にドラゴンの卵が孵卵器に多く入ってる。



 読んでいただきありがとうございます、上記にも書いてますがメイフィスで苦戦してました、なので所々存在が曖昧だったと思います、名前を入れようとしても変な感じがしたのと、単に思いつかなかっただけです、計画のなさに毎回落ち込みそうです、最終回までもう少しですので読んでくださる方は引き続きお付き合いください、よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る