第四十二話 復活
キュキュルスの攻撃によりラスティーネの心臓は射抜かれた、距離もそこそこあるにも関わらず中心をしっかり掴んでいる、もし城の方から撃っているのであればラスティーネは豆粒程度しか見えて無いはずだ。
「現状、アンデットの脅威と言えるラスティーネは死に……元剣聖隊隊長だったヒルブライデも虫の息だ、他にもさっきの光で疲弊している奴が居るみたいだな……」
キュキュルスの目は遠くの物が見える、城の上からよく観察しているようだ。
「さて、ドルク……君はこの状況で降るか降らないか……」
王国側では皆建物の影に隠れキュキュルスの射線上に映らないようにしていた、ラスティーネの死体はそのままにし、他に治療を受けていた動けない兵士もそのままだった。
「怪我人を回収しないとヤバいですよ。」
弱ったセブラブがテレスミクロに話す。
「いや、待て待て。そんな事より姫だ……まだ生きているはず。」
「彼女は死んだよ、アンタの勝手な指示で前に出すから。」
ハセクは不機嫌そうに話す。
「仕方ないだろ?姫が居なかったらここまできてねえ!」
こんな状況でも年長者が言い争いを始める。
「アンタら俺らより年上だろ?!落ち着いて状況見ろよ!」
クフラクがイラつき始め割って入る。
ラスティーネは王国の大将みたいなものだ、敵の王族を倒したとなれば戦況は一気に傾く。
「あーあー聞こえるか王国諸君、私はロート王に使える者だ。ラスティーネ姫はたった今死んだ。指揮官は大人しく聞き入れ全体に降伏命令を出せ。実行しないなら、中央にいる大量の動けない怪我人を一人ずつ射抜く。アンタらに良心がある事を願うよ。」
キュキュルスは音声拡張石という物で全体に降伏せよと訴えているようだ。
「動きはないか……」
キュキュルスは弓を構えて標的を射抜く、中央にいる怪我人を一人ずつい抜いていった。
「このままだと、ぶっ倒れてるヒルブライデまであぶねーや。」
テレスミクロは打開策を考えていた。
「さて、そろそろ剣聖隊の子を殺すか。よく見たら、うちの魔女達の被験体みたいだな……今、楽にしてやるよ……ん?」
キュキュルスがヒルブライデを射抜こうとすると、倒れていた人間が起き上がるのを目撃する。
その正体はラスティーネであり、矢は完全に心臓を射抜いている。
「傀儡化か?汚い真似を……」
キュキュルスは標的を再びラスティーネに移す。
ラスティーネは刺さった矢を無理やり引き抜こうとする。
「おい、テレスミクロ!不敬だぞ!」
ドルクはラスティーネの前におり状況が飲み込めないでいた。
「わ、私じゃねーよ!指示もしてねーし!」
ラスティーネが己に刺さった矢を抜くと刺さった場所に手を押しあて自己回復する。
「ん、傀儡化じゃない?回復なんかできる訳ない。おかしいぞ……」
キュキュルスはありえない光景に驚いていた、傀儡化は闇の魔術のため、傀儡化した対象を天性の魔法で回復することは不可能だ、しかも死んでる状態では尚更である。
「ラスティーネ虐めるの許さない。」
ラスティーネ本人がそのような事を口にすると城の周りから樹木が飛び出て城を掴み下へと引きずり込まれる。
「どうなってんだ?!」
キュキュルスは射抜こうとするが城が揺れるため狙いが定まらない。
「悪魔と同等な力だぞ……契約でも結んだか?しかし……矛盾する……」
キュキュルスが考えていると、城は半壊し地面にめり込む形になる。
「何が起きた?!」
「陛下!キュキュルス殿がラスティーネを射抜きましたが、死んでおらず。闇の魔術を使い城を半壊させたようです!」
「意味が分からん!私が前へ出る!」
ロート王と兵士達は混乱しており、状況が飲み込めない。
城の半壊を見ると王国軍の士気は少し上がったようだ、右と左から挟み撃つ部隊は侵攻を再開した。
「オウコクメ、アソビガスギルゾ。」
ワタナベは城に接近する兵士に立ち向かって行く。
城の中はいつ崩れてもおかしくないので、中にいた兵士は全員外へ出て王国軍を迎え撃つのだった。
「お前達!絶対に都市への侵入を許すな!ローザには悪いがアンデットを多く出すよう伝えろ!」
「伝令!既に王宮内に敵の暗殺部隊が侵入し王妃を人質に……」
「何?!いつの間に?!」
一方共産国王宮内ではヘルヘイトスとオーフェンスが侵入しローザ王妃を人質にしていた、例の部屋に立て篭もりドアを開けたら命はないと共産国兵士に伝える。
ちなみに例の部屋だが、魔力を増大させる部屋のようでローザはそこに閉じこもり大量のアンデットをここから召喚していたようだ。
「あ、開けたら王妃の命はな、ないですよ!殺されたく無かったら近づかないでください!」
「おい、そんな下手な脅し方あるか!アシュロンさん達が任務を遂行するまで持ち堪えろよ!」
「じゃあ、早くしてくださいいいいいいい!!」
オーフェンスは抜け道を探していた、ドアを開けるなと言ってもそんなん待ってくれる訳はない、王国の使者として向かった時に部屋が外へ繋がっていると聞いた、脱出用の部屋としても機能しているらしいのだが、中々見つからない。
「探しても無駄だ、そんな簡単には見つからん。」
ローザ王妃は諦めろと諭してくる。
「ひ、人質は黙っててください!」
「ほう、人を殺した事がないのか……手が震えておるが……」
「な、何を言って……暗殺ぐらい出来ますよ!」
「お前、失敗して帰ってくるじゃねーか!」
「う、うるさいです!」
「やかましいわ!小さい部屋で騒ぐな暑苦しい!」
ローザ王妃も口喧嘩を聞いてて頭にきたようだ。
「す、すいません!」
急に怒ったローザ王妃にびっくりし尻餅をつくヘルヘイトスだが、どうやら尻餅をついた場所がスイッチのようで部屋が振動し始める。
「そんな事があるか!」
「よくやったヘルヘイトス!」
彼女の豪運により、彼らの任務は上手くいきそうだ。
「よし、部屋へ突撃を仕掛ける!」
共産国兵士は王妃のいた部屋に突撃をかけるが中には誰もいなかった。
では、彼らはどこに行ったのか。
「なるほど、転移魔法か。中にいる人間は全員飛ばされるわけだ。」
彼らは外へ飛ばされており、遠くに共産国の城塞都市が見える。
「あの部屋はアンタの魔法で動いてる、共産国兵士があの部屋を使ってここに来る事はねぇな?」
ローザ王妃はダンマリを決め込むので間違いはないだろう、アシュロン達が上手く行かなかった場合を考えて、彼らは城塞都市へ向かいローザ王妃を人質としロート王と交渉するよう動き始めるのだった。
ロート王に伝令を伝えた兵士は静かに懐に隠し持ったナイフに手をつける。
「私とキュキュルスで中央にいる剣聖隊を倒す、残った兵士は両サイドを攻める王国兵を対処しろ、右はワタナベが応戦しているはずだ、左を集中的に潰せ。」
ロート王は背中を見せて周りの兵士に指示を出し始める、このチャンスを逃すわけにはいかない。
共産国兵士になりすましたアシュロンはナイフを手に持ちロート王の背中に突き刺そうとするとロート王は後ろなど見ずに手でガッチリ抑える。
「それと、ネズミの排除もしろ。王宮内に侵入しているのだ、他にもいる。」
ロート王はアシュロンの方を向くと闇の魔術をかけ始める。
「味方は何人いる?」
「三人います。」
「どこにいる?」
「二人は王宮にもう一人は独自で行動を取ると……。」
「もう一人いるのか。」
ロート王はこれ以上は使えないと判断すると剣を突き刺しアシュロンは息たえた。
「進行せよ!」
ロート王について行く兵士は中央に集中する王国軍を倒しに向かう。
「全くやってくれるね。」
キュキュルスは半壊した城の下敷きになったが、かろうじて生きていた、弓を構え始めラスティーネに再び狙いをつけると。
「そうはさせないわよ。」
ドラグが毒のついたナイフでキュキュルスを襲う。
「邪魔しないでほしいな。」
「悪いけど、ここで姫が死んでは未来はないわ。」
「どうだろう?そのためには時間がかかる。待ってられないんだよ俺たちは。」
「手段を選ばない事には賛成するけど、いささかアンタの王は犠牲の多い道を選ぶわよ。」
「それがどうした?結果より過程が大事ってか?」
「やっぱり強引なやり方じゃあ、ただの綱渡りよ。時間をかけるのも大事ね。」
「かもしれない。」
キュキュルスは短刀を手にしてドラグを良く観察し始める。
「いやーん、やめて♡熱い視線は警戒されるわよ。」
「知ってるよ、わざとさ。」
「口説き慣れてるわね、ちょっと怖いかも。」
テレスミクロの所ではロート王が兵士を率いてこちらに向かってきているのが確認できる。
「お前達、こっちも行くぞ!」
テレスミクロ達も兵士を率いてロート王と激突する。
ハクレとアルスもそれに続こうと動くがラスティーネがアルスの袖を掴んでくる。
「アルス、」
「ラスティーネ姫ではない……これは……」
「多分テレスだと思う……」
クフラクが見かねて寄ってくるが、そうなのだろうか……。
「うん、そう。」
「本当に……。」
しばらく思考するが、確かに口調やらはそれに近い。
彼女は瓦礫の下敷きになり死んでしまったはずだ、普通だったらありえない。
「俺はテレスを信じるよ、こうして戻って来たんだ。」
クフラクが嬉しそうに話す。
「とりあえず、アルスは行ってくれ。僕たちは今弱っているけどテレスの側から絶対離れない、頼んだよ。」
ハセクも顔をだしアルスを前線に行くよう指示する。
現在前線にはテレスミクロとハクレがおり、残りはテレスを守る形で後ろに固まる、まだ治療できてない兵士も多く、守りを固めなければならない。
アルスは前線に出てロート王と対峙する、勝利は目前まで迫っているのかもしれない。
四十三話に続く……。
世界設定:傀儡化について
この世界において傀儡化がある、それは闇の魔術によってできる魔法であり、主に死体や人形なんかにも適応する。闇の魔術以外でも物理的に魔法で動かす方法もあるが、面倒なのでやる人はあまりいない。では、闇の魔術とでは何が違うかだが、傀儡化させれば対象に命令し勝手に動いてくれる、普通の魔法では自分で動かす必要があるため手間がかかるとう訳だ、傀儡化された者は天性の魔法で浄化が可能であり解かれてしまう、あるいはボロボロにして動けなくする方法もある。魔法使用者の魔力が強ければそれの持続時間が伸びたり、人ではないドラゴンでも傀儡化できる。基本死者を弄ぶような事なので周りからは良い印象は受けないようだ、なのでモラルのある闇の魔法使いは死体ではなく人形を使ったりしている、基本生き物や生きている者を連想出来るものであれば傀儡化は可能である、なので元々生命の宿っていた死体は扱いやすいのかもしれない。
読んで頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
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