第四十話 野望
夜が明けるとテレスミクロ指揮の元、王国軍は共産国の城塞都市へ足を進めて行く、そこには剣聖隊が七人揃っており、王族であるラスティーネの姿も見える、他にもライノックとセブラブが居たり兵士の数も多かった、この事から大規模な戦いが予想される。
城塞都市の城にはワタナベらが既に帰還しており、王国との激突に備えていた。
ロート王は城にて兵士達に演説を行い、士気を上げていた。
「我々グランハース共産国は今日に至るまで大陸の頂点に立つ、王国と帝国の二大国家に牛耳られて来た、政権こそ変われどあの二国がある内は真の平和は訪れないだろう、現在スフィアーネ女王が王国の統治者として君臨しているが所詮エルスター教信者による偶像崇拝の対象に過ぎん、悪魔との信頼関係を築いてもいずれは反発し内乱が起きるのは確実だ!もし、我が国家が負ければ奴らの言いなりになり、内乱というくだらん、自国の鎮圧へ駆られてしまう、王国は内側の破滅を抑えることは出来ず、それを繰り返し長年の年月を経ていずれは今回の戦いに参加する兵士諸君の子供まで巻き込まれるのは想像に硬く無い!帝国に至っては、ハルゲン公爵という無能が政治を行い、現に我々グランハースの犬へと成り下がった!そんな二大国家が今!国家としての機能を失っているのが最大のチャンスなのだ!この戦いに勝てば、グランハースは頂点に立つことが出来る、武力によって捩じ伏せた平和は皮肉にも束の間の平和を与えてくれるだろう!私に使える者どもよ、どうかその命を私にくれ!」
共産国兵士は演説を聞き終える壮大な拍手喝采が聞こえる、皆ロート王を支持する人間であることが分かる。
「お疲れ様です、陛下。」
キュキュルスも拍手をして話す。
「所詮、私は悪魔の打倒以外考えていない、彼らには悪いが利用させてもらう。何のために徴兵制を採用し今日まで闇の魔術への理解を寛容にさせたか……妹と親を破滅に導いた不法とも言える悪魔の存在を許さんからだ。」
「あなたは復讐しか考えていないのか……」
ドルクは哀れむ感じでロート王を見る。
「そうだ。スフィアーネの一族は悪魔を倒せる力を持ち得ながらそれを戦いに使わん、ならば誰かが利用しなければなるまい。悪魔は強大だ、多少の犠牲は厭わん。」
ドルクはロート王の迷いの無さに少し寒気を覚えたのと同時に騎士として使えていたゲルマルク皇帝の仇を取れるのはこの人しかいないと思ったのも事実だった、ドルク自身ついて行くのが正解かどうか分からなかった。
ドルクが城の屋上へキュキュルスと共に移動すると、兵士の声が響いていた。
「戦える奴は総動員だ!学徒兵は高学年まで出せ!」
そこには10代の若い兵士がゾロゾロと多く隊列をなしていた。
ドルクはあることに気づく、学徒兵だが、身体中に紋様があるのだが既視感があった、ゴメリウスの実験室にあった小さい穴だ、そこにあった大量の子供の死体だがその紋様と酷似している。
「おい、キュキュルス。あのガキ共が使う魔法は?」
「ああ、気づいたか。天性も闇も使える。今期から学徒兵全員が強制的に付けれるんだ、前みたいに体が耐えられなくて死ぬことがない、魔女達の実験の成果だね。」
「俺は、何が正解なのか分からねぇよ。」
「僕も分からないさ、上の人間に支配された奴がどうこう出来る問題じゃない。」
キュキュルス自身もこれには反対してるらしい。
共産国兵士が敵襲を知らせ鐘を鳴らす。
「敵が中に入ってきたぞ!」
それと同時に無数のアンデットが召喚され、円形の城塞都市の城に位置しているとこに堅牢な落とし格子がある、そこを突破すると都市と王宮がある訳だが、そこ付近には共産国兵士がびっしりと守りを固めていた。
王国軍が城塞都市に入ると中央には剣聖隊を主軸に突破するようで、両サイドは四千規模の兵士が城を挟むように進行するようだ。
中央こそ、兵士に固められアンデットも複数いる、両側と他はほぼアンデットによって敷き詰められている状態だ。
アンデットの大群を前に王国の聖職兵は天性の魔法を利用しアンデットを浄化するも、建物から共産国兵士が顔を出し、銃で撃たれてしまう、このことからアンデットは一つの囮の可能性が出てきた。
この戦い方はかなり有効であり王国軍はかなりの痛手となっている。
「お前ら、近くの建物に敵はいないな?」
テレスミクロが周りの兵士に確認をとっている、剣聖隊は一塊で動いており、厳重に何かを守っている動きを見せる、兵士の数は二千人規模で主力を全面に出す陣形だが何を企んでいるだろう。
「よし、ここ一帯のアンデットを浄化するぞ。都合良くアイツらは表立って行動してやがる。」
重装兵が姿を現しアンデットの群れに突っ込んで行く、そこにはラスティーネが守られる形で進行している。
アンデットの真ん中まで着くと重装兵の真ん中から光の柱が空に向かって伸び始める。
城塞都市全体のアンデット達はなす術なく浄化されていき、一般の兵士も目をくらませる程の光だった。
王国軍側には闇の魔術やハセクやクフラクみたいな悪魔と契約してる人間もいるためテレスミクロの合図と共に近くの建物で光を受けないように動いた。
「うーん、少し参ったな。眩しくて射抜けないのと、奴らは初めから中央突破しか考えてないな。」
キュキュルスは頭を悩ませていた。
「でも、両サイドは直ぐにでも壊滅かな?」
王国には剣聖率いる中央突破組が今回の要であり、左翼と右翼の進行組も作ったがこれらは敵を中央に入れないための抑止に過ぎない、別行動としてカラスが動いておりアンデットの発生源であろう王宮の例の部屋を目指している。セブラブは左翼に務めライノックは友達の帝国兵士と右翼を務めていた。
ロート王は圧倒的な殲滅速度に驚いていた。
「何?!アンデットが全滅だと?この数だ……ローザの身が持たん。」
王国軍の侵攻は止まない、共産国の建物から銃を撃って戦う戦術は見切ってしまったし囮であるアンデットも少量しか召喚できてない、ラスティーネという隠し玉が出てくるとは誰も予想できなかったようだ。
左翼側には天性と闇の魔術を使える学徒兵が出現しており、足止めを食らうことになる。
「セブラブさん!案外こっちも本気やらないと負けますよ?!」
王国兵士は子供相手に引けをとってしまう。
「拘束は難しいようですね……」
まず、相手が強すぎる事にある、闇と天性どちらも使える故セブラブの闇の魔術は物を選ぶし敵は敵でトリッキーな技ばかりで翻弄されてしまう、傷をつけても直ぐに回復し立ち直りも早い、隙がなさすぎる。
「研究がここまで進んでるなんて……」
セブラブの周りの兵士達が次々と倒れていく、彼らは姿を消す魔法で背後に忍び寄り暗殺していく。
一度距離を置こうと動こうにも先回りされてて動けないしこちらを一人残さず殺す気のようだ。
「これしか方法がないなら……」
セブラブは学徒兵の下に巨大な魔法陣を形成すると、学徒兵から浄化煙が立ち込める。
「おい、早く魔法陣から離れろ……」
彼らは毒に侵されるかのように、次々と倒れていってしまう。
「セブラブさん一体何を?」
「彼らの有する闇の魔力を暴走させました、すると天性とのバランスが崩れますので常時保っていた力は失われ徐々に浄化されていきます。」
学徒兵は魔法陣を避けながら動いている、浄化された人は殆どが死にかけてる状態だ、これがもし闇の魔力の暴走ではなく、弱体化であれば間違いなく即浄化され死んでる、あえて殺さないのはセブラブの良心のようだ。
学徒兵が近づくなり、セブラブは魔法陣を作り出し牽制に出る、周りの王国兵士が敵の動きを読んで何とか倒す。
戦況は五分五分に持って行っている。
一方ライノックの方は順調であり、敵は銃撃戦を読まれてしまっている為白兵戦に持ち込む、軍事国家とだけあるため一人一人の強さは並大抵ではない、だが、ライノックの前ではその強さは意味をなさないだろう。
ライノックは前方の敵を斬り捨てて進んでいく、剣でライノックの攻撃を防いでも剣と一緒に斬られてしまう。
そんな無茶な戦い方をしていればライノックの持っている剣もボロボロになっていく為、ライノックは常時六本近く剣を装備している、壊れるたび剣を変え相手を血祭りに上げていく。
「おーし、帝国兵士の中でも俺は別格だぜ。」
ライノックは直ぐに調子に乗り敵を切り伏せていくと、目の前に見覚えのある人影を見つける。
「さすがだな、コツも掴んでるみてーだし。」
ドルクが姿を現しライノックを称賛する。
「師匠、なぜ共産国なんかに……」
「ガキには分からねぇさ、大人の都合ってもんがあんだ。」
ドルクは剣を構えるが、背中に身長と同じくらいの棒状の物が布で包まれていた、他にも武器があると見て良いだろう。
「死にたくねぇ奴はこの城塞都市から引きな!後ろ向いて走る奴は特別に見逃してやる。」
ドルクの忠告は誰も聞かず、王国兵士は皆武器を構え始める。
「残念だよ、特にライノック……お前は。」
ドルクが一番前にいるライノックに信じられない速さで詰め寄るが斬る対象はライノックではなく後ろの兵士達だった、後ろを振り向いた頃には首は飛んでいて現在ドルクがどこにいるか分からなかった。
「こっちだ。」
ドルクは建物の上にいて王国兵士の首を見せつける。
「皆んなこうだぞ?良いのか?」
どうやって移動したのか皆目見当もつかなかった、ある意味強者感としても空気も感じれる。
ドルクが下に降りると王国兵士が戦いに挑むが呆気なく殺される。
建物の隙間から共産国兵士が使ってた銃を使っても剣で弾かれるし、後ろから斬りかかっても確認もせず殺される始末だ。
「じゃあ、容赦はしねぇぞ。」
ドルクが目の前の兵士のに飛び込んで顔を掴み持ち上げる、それを盾にしながら次々と殺しにかかる兵士を斬り殺して行く、遠くの弓兵が攻撃すると分かると盾にしていた兵士を投げて攻撃を阻止して、その隙を狙って一気に詰め寄っても魔法で吹き飛ばされる、王国兵士は手も足も出ない状況だ。
何よりも、今ここには敵がドルク一人であり、数で当たっても彼を殺す事など不可能だということだ。
「来ないのかライノック?」
ライノックは目の前の強者に怯え始める。
ドルクはライノックに詰め寄ると、周りにいた王国兵士が近づけさせまいと阻むも案の定殺される、数が複数で来ると兵士の首を魔法で締め上げ周りに飛ばし一切近付けないように立ち回り始める、そんな中でも後退りをするライノックへ歩み寄っていく。
「お前は弱者だ、お前は俺のようにはなれない。」
ドルクに果敢にも挑む王国兵士はいるが、痺れを切らしたのかドルクは強力な重力魔法を周りにかけ屈服させる。
建物もその重さに耐えきれないようで崩壊していく。
「戦いたくないなら、逃げるが良いさ。俺の負担が減るからな。」
ドルクが重力魔法を解くと四人の共産国兵士がドルクに伝令を伝え始める。
「ドルクさん、剣聖隊が最後の防衛ライン突破致しました。今すぐに応援を……」
「そうか……俺は奴らも殺さねばならないか……」
ライノックはその話を聞いても体が動くことは無かった、死ぬという確信をドルクが押し付けてくるからだ。
「ライノック……待ってるぜ。」
それだけ言い残すとドルクは去って行ってしまった。
「ハァハァ、ライノック……大丈夫か……これがドルクさんの本気か……?」
友達の帝国兵士はさっきの重力魔法で疲弊しながらライノックを気遣い始める。
「いや、あれは本気じゃない……あれは遊んでるだけだって……」
ライノック自身ドルクの本気の強さを知ってはいるらしいが、彼が背中に装備していた武器、あれは帝国の国宝らしく魔剣の一種らしい、武器に頼るのは柄じゃないと言うので使った事はドルクもないとか、恐らくドルクの本気はあの剣を使う時だろう。
「は、早く……伝えなきゃ……あの人は本気で死を望む人間は一人残さず殺す気だ……」
「お、おい待てライノック、お前まで行く事ねぇって、剣聖隊に任せれば……」
「待ってると言われたんだ、弟子である俺が行かないと顔向けできるか!」
ライノックは恐怖しながらも足を進めて行く。
四十一話に続く……。
世界設定:魔女の実験と天性と闇の混合
何回か話に登場している魔女の実験だが、その内容は天性と闇を混合させる事による、すると何ができるのかだが、基本的にはどちらの魔法も使える事が出きる。混合具合は比率によるもので、天性の力が強すぎても弱すぎてもダメだしこの逆も然りである、バランス良く力が均衡に保てればどちらの力も使える、今回セブラブのように闇の力を強くするとバランスが乱れ一方的に闇が浄化される仕組みだ、どちらにせよ闇は浄化される運命にある、では共産国が一般的に付与できるようになるまでの実験過程だが、実験対象に先に闇の魔術を授けてその後に天性の魔法を付与して耐性をつけることから開始された、だが魔女の研究の進歩によりこれは耐性でなんとかなる物ではなく比率であることに気がついたようだ、ヒルブライデは被験体3号ではあったがこの時までは耐性や性質による物だと思われていたようだ、そのため最初の段階では犠牲者は多くなっている。因みにマーヤだが彼女は被験体4号だ、実験の方法だが至ってシンプルであり、闇が浄化されそうになって死にそうになるのでバケツに入った回復薬やら魔法に頼らない回復をひたすら浴びせ続けるようだ、基本的に本人が壊れるか結果が出るまで生かさず殺さずである。
読んで頂きありがとうございます、これからもよろしくお願いします。
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