第三十五話 老師
王国では老師率いる共産国の軍対王国軍とオロバスとその悪魔達が死闘を繰り広げていた。
「うわああああああ!!」
共産国の兵士は圧倒的な数の兵士と一人で一軍並みの強さを持つ老師を持ってしても苦戦を強いられていた。
「老師!東側から肥満の巨大サキュバスが攻めてきます!!」
「なんじゃそりゃ!!」
遠目から見ると妖艶とは程遠いほど肥満であり、顔もドブガエルと言って良いほど美しくはなかった。
彼女?は巨大な棍棒を振り回しており血がこびりついていた、大陸の中でも共産国の兵士は強いはずだが、そんなものは物ともせず兵士を虫のように潰して前進する。
「どうなってんだ?!サキュバスは魔法に特化してんじゃないのかよ?!」
「知るかそんなもん!いいから守りを固めろ、老師の元まで行かせるな!!」
「あんた達、奥に強力な魔力を宿している奴がいるわ〜そこまで来たら結界を貼ってちょうだいね〜。」
「はい、店長。」
この肥満のサキュバスは察しの通りライノックの友達を食った本人で間違いなく、彼女?は他のサキュバスと違い属性魔法は宿しておらず、パワーで押し切るタイプの戦い方をする、だが、魔力はサキュバス由来のもので身体強化はライノックと同じぐらい強力な物だった、ただし魔力が強力の割には何故か魔法耐性がないので簡単にマジックジャックされたり、天性魔法相手では他サキュバスより簡単に浄化される、挙句闇魔法の耐性があっても多少のダメージを受けてしまうこともある。
「くそ、舐めおって!」
老師は王都全体に雨を降らせ始めた。
かなりの大雨で直ぐに水浸しになる。
「お主達!濡場の無いところを探せ!直ぐに動ける者は避難せよ!時間がない、巻き込まれても知らんぞ!!」
老師は杖から雷を溜め始める。
「やばい、巻き込まれるぞ!!」
兵士達は建物に隠れたり、老師から距離を大きく取るもの者もいた、若い兵士は焦りから地下へと続く割れ目に入り高低差があるため大体が落下死した者が多く生き残っても大怪我で終わってしまう。
「喰らうが良い!」
老師は雷を放電し濡場全体に稲妻を走らせた、感電率が高く王国兵と悪魔は苦しみ始め大体は死に生き残っているのは魔法への耐性があったり魔導兵にバリアを張らせて守ってもらって難を凌いでいた。
「大丈夫ですか店長。」
「助かったわ〜」
サキュバス達付近は協力して巨大なバリアで防いだものの老師の魔法は強大でバリアが削り取られ周りの建物が少し倒壊した程度で助かった、これが早く削り取られていれば命はなかった。
「しぶとい奴らじゃ……」
老師は力をまだ温存しているようで、強力な魔法をいくつか残していると見て良いだろう。
「将軍、共産国の魔術師が魔法を放ったようです。共産国兵士も巻き込まれたようでして、敵味方共に兵士の数が減少したようです。」
「さすがは老師、強い。」
「魔力波がこちらにも届いています、建物にヒビが入ってますし。」
「増援を出し、負傷者をこの城まで退避させよ悪魔にも怪我人がいれば同じ治療させよ。」
王国にはまだ兵士に余裕はある、消耗戦に持っていけばなんとかなると将軍は考えてはいるが、老師がどのような魔法を使ってくるのかも分からない、先程の魔法もそうだが巨大な火の玉といい生成魔法の一つだが大業を続けて二回など常人ではない、血に流れる魔力が強大すぎて少ない血液で凄まじい魔法を使えるのだろうか。
「今のは危なかったわ〜」
「出おったわい、バケモンが。」
「あんたに言われたくないわ〜」
隠れた共産国兵士達が建物から顔を出したりして姿を現すが数がかなり少ない、地下に落ちていった人は当然上に上がってくることはない。
「おのれ王国め、悪魔と手を組むなど……こんなにも上手く行かぬとは……。」
老師はいつでも大魔法を放つ準備はできているが、これ以上は兵を消耗させ挙句巻き込むことも考慮すると敗北が確定する、老師一人で挑んでも肉体的には普通の兵士の方が勝る、物量で来られて負けだ。
そもそも情報戦で老師は負けが確定していた悪魔がまさか王国と手を組み戦いに参戦するなど老師は予想できなかった、戦いであれば予想外なことは多く、いずれも対処できる気概の持ち主だった、今回は上手く行きそうにないようだ。
「万事休す……じゃがな!」
老師は再び杖を構え始め戦う準備に入り始める。
「お主達、武器を構えろ!!王のために忠誠を誓うのだ!!」
少数ながらも己を奮い立たせる、共産国の兵士は死んでも噛みつく程に闘いへの執着が厚かった。
老師の周りにいた兵士が捨て身で突進してくるが、王国兵士と悪魔で白兵戦に持ち込んでいった、肥満サキュバスは敵を物ともせず流れ作業のように潰して回って行く。
目の前の兵士を潰していくと何やら老師が魔力を溜めていた。
「皆さん、放たれる前に倒してしまいなさい!!」
それを見かねたオロバスが周りに指示を仰ぐ、明らかに危険であり魔力がビリビリと王都中を駆け巡る。
「将軍!また、魔術師が大技を……!ここまで巻き込む程の威力ですよ!!」
それは、老師がいる所から王城までかなり距離がある、老師は王都全体に強力な魔法を仕掛けようとしている。
「これが最後じゃ、全てを覆い尽くす氷の魔法を今ここに!!」
老師が地面に杖を当てるとそこから氷結していき地面から巨大な氷塊が押し寄せる。
「飛べない方を上に!!下から離れて!!」
オロバスは指示を飛ばし空を飛べる悪魔は王国兵や飛べない悪魔を抱き抱え空へと避難した。
「早く上に行きなさい!」
肥満サキュバスは前に立ち上へ避難するも間に合わない悪魔を守るため次々来る氷塊を破壊する。
王城にも巨大な氷塊が流れ込んできた。
「お前達はなるべく上の階へ行ってろ!」
軍部管理官は急いで王城の外に飛び出し強化魔法を足に付けて、送った増援まで足を走らせる。
「お、おい!氷塊が……!」
援軍部隊は押し寄せる氷塊に恐れ足がすくんでしまう。
後ろから軍部管理官が飛び出し、剣を抜き強力な一撃を氷塊に浴びせる。
氷塊は見事に割れ粉々になる。
「しょ、将軍〜!!」
なんとか、命を助けることはできたが、この攻撃に巻き込まれた者は少なくなかった、都市全体が氷結に覆われ、時間が経つと王都内の気温が著しく下がった。
都市の破壊も相当なもので、復興までかなり時間がかかると予想される。
「あなた、本当に化け物ね〜」
「お主に比べたら、ワシは……。」
老師の体力は限界になっていた、今まで大技を繰り出していても息切れ一つ起こさなかったのに急にその様子は一変した。
老師が地面に足をつくと懐から、いくつか小瓶が出てくる。
「魔力増強剤ね〜」
「そうじゃ、元気の前借りじゃよ。どの戦いでも世話になったわい。」
大技を多く繰り出してもケロッとしていたのはこの薬のおかげだった、だが非常に危険であり、老師の言う通り元気の前借りのため多くのめばその分体調不良を起こしてしまう、魔力が少ない者が飲めば確実に死ぬ代物であり、生まれつき魔力が強大な老師は何本飲んでも死には至らないが確実に寿命は縮んでいた。
ライノック一行は急いで王国に向かって行き、増援として駆けつけていた。
「な、なんじゃこりゃーーーー!!」
ライノックが目にしたのは城壁から飛び出る多くの巨大な氷塊だった。
ライノック一行が王都に着く頃には夜になっており、あたりは真っ暗だった。
「おーい大丈夫か!」
ライノック達が心配し周りに声を掛けると、王国兵士達が顔を出す。
「ああ、剣聖隊の皆さん、ここまで大丈夫でしたか?」
「いや、こっちのセリフだろ!」
ライノックが思わず突っ込んでしまった、後々王国兵士にここでの出来事を説明された。
三人は驚愕し、増援として兵士も携えて来たが、ちょっと無駄足だったかもしれない、悪魔にも助けられたし関係は良好であると考えられる。
「それで、なんの用でしょうか?」
王国兵士が本題を切り出すと、ここに来た訳をハクレが説明してくれた。
「実を言いますと、飲み物は残ってないかもです……。」
辺りを見渡せば建物の殆どが倒壊していた、酒屋や井戸も破壊され悪魔襲撃よりも酷いものだった。
それに加え、この巨大な氷塊のせいで井戸の水は固まり水を汲むことが出来ない、魔術師が炎の属性魔法で溶かしているが取れる量は少ない、それに王国兵士自体さっきの戦いであらかた失っておりこれらの氷塊を溶かすには人が足りない程だった。
ライノック達は王城にいる軍部管理官に相談をしに行った。
「ほう、飲み物がないと……」
「ええ、水の量も少ないですし、いつまで保つか……。」
ハクレは無くなった原因を話し相談する。
「飲み物以前に食料すらも私達は困っている、兵士の数と捕虜の数全部合わせても何日もつか……。」
軍部管理官も困っているようだった、食料問題に直面している今、兵士の士気は下がるし活動にも支障が出る、病気にもなりやすいし悪い事しかない。
「近くの村に行っても避難すると同時に食料まで持って行ってますよね……。」
「ああ、遠くにある王国の城塞都市アルファムまでは遠いし参ったな。」
そんな時、扉を叩く音が聞こえた。
「失礼します、軍部管理官殿。おや、あなたはライノック殿ではないですか。」
「ああ、オロバスさん何故ここに?」
「私はただ、今日の戦いの加担について説明しに来ただけですよ。」
「そうだ、オロバス殿飲み物のことだが……」
軍部管理官がライノック一行がここに訪れた理由を話す。
「なるほど、なら私達の出番ですね。」
オロバスが自信満々に答える。
ライノック一行は地下都市へと足を運ぶ、幸い地下だけは氷塊の餌食にならずに済んだ、中は悪魔街と変わらず紫色の炎が道を照らしてくれている。
「ん?あれライノックじゃない?」
話し声が聞こえると思いその場所を見るとサキュバス達がいた。
「きゃー♡今日も好青年ねぇ。」
色気がムンムンとしているが、彼女達の正体をライノックは知っている。
「はは……どうも……」
「ライノックモテモテですね。」
エレスは思ったことを話す。
「皆、分からないよ……多分……」
ライノックの表情は青ざめていた。
娼館だが建物がそのまま下に移転されたようだ、前と変わっていない。
「た、助けてくれーーーー!!」
娼館に老人の声が聞こえるが、客だろうか?
「店長ってば今日は長いわね、もう六時間は経ってるわ。」
「ライノックも今日は来てくれるんでしょ?」
「いや、すぐ戻らなくちゃいけないんで……」
「そー残念ね。」
「ちょっとぐらい良いですよ、男の子ですから私達はオロバスさんと話をするだけだし。」
ハクレは理解があると言わんばかりにライノックを差し出す。
「勘弁してくれ……。」
ライノックは無事に逃れることに成功しオロバスのいる建物まで足を運ぶ。
「我々、オロバス商会が人間のために商品を色々と開発しているんです。」
「商会になったんですか?」
「ええ、ギルドのような経済独占もしませんし誰にでも隔てなく商売するつもりです。」
「「「へぇー」」」
色々と説明された。
「そこで、今回私達が作ったのはこれ!」
オロバスはミニマムサイズのマスコットみたいな悪魔に酒の樽を運ばせる。
「これは酒樽ですか?」
「ええ、ですが製造時間を見てください。」
「時間?」
タルに書かれた数字を見ると数時間前が記されていた。
「これは短時間熟成酒とでも言いましょうか、どんなお酒も熟成までには最短で数週間要します。ですが悪魔が持つ闇の魔術に対象物の時間を進める魔法がありました、これを使って短時間で熟成しお酒を大量に量産します。」
「魔法が使われてますよね?体に害は?」
「大丈夫です、あくまで時を進めただけ、アレルギーの心配もありません。」
「今、どれくらいあります?」
「大量にありますよ。」
オロバスの協力により、飲み物だけは大量に手に入ったが問題は食料だった、腹が減っては戦は出来ぬというが、このままでは短期決戦に持ち込むほか無くなる。
ワタナベの時もそうだが、相手が来るまでじっとしてる事があった、このような事がまた発生したらこっちから積極的に攻めに行くしかない。
ワタナベの砦から食料はあったものの量的には少なかった、元々捨てる予定だったことが伺える。
このことから、次の砦でも奪える物は少ないと考えられる、テレスミクロの予想では敵はすごいスピードで攻略しているので砦には固執しないだろうとのこと。
常にワタナベ以外が動き回っていると想定しているようだ。
その予感は的中しており、テレスミクロの予想は見事に当たっていた。
「おうおう、敵が多いな。」
ワタナベから奪取した砦から共産国の軍勢を眺めると、一人明らかに強者であるオーガがいた。
三十六話に続く……。
世界設定:水と魔法耐性について
前の回でも話した通りこの世界でこの文明であれば水は貴重なものと言える、ただここで疑問視されるのが生成魔法で氷結を作り溶かせば水を生成できると思う方も少なくないと思うが、これらの生成魔法には人間の血液によって生成されている、そのため元は血液のため魔力を通して変換しているに過ぎないので飲めば感染症のリスクであったり腹を壊しやすくなる、一方で魔力に適性がない人も存在する、その人間は生成魔法さえ使えてもすぐに血液を消費してしまうし、出せる生成魔法の量も少ない、物を動かすにも少ししか動かす事ができないためこの世界では生きづらい人間だろう、そういう人間は商売など魔法に囚われない職で食っている。話は戻るが魔力に適性がないので耐性もない、そのような人間が魔法によって変換した水を飲めば間違いなく腹を壊す、魔力に適性の無い人間はマジックアレルギーという症状を持っており魔力を過敏に受けすぎると、くしゃみや咳、発疹など普通のアレルギーと同じ症状が現れる、その強さもさまざまで魔力に触れる量で症状の重さが違う、耐性がつく人間もたまにいる。種族によってもさまざまで予め魔法と縁のあるエルフは魔力に優れているため耐性もあるしアレルギーを持っている人が少ない、逆にドワーフやオーガ、はなりやすく獣人は人間と同じぐらいである、獣系のモンスターや時にドラゴンもなるとか。ちなみに悪魔はならない。
読んでいただきありがとうございます。城塞都市の話が出ましたがこのパートでは出番はありません、次のパートで出て来ます。だいぶ、考察も捗ってて楽しいです。これからも考えて作っていきます、よろしくお願いします。
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