第二十話 遠く及ばず

 王国側では……。

 魔界の門が開かれ王都に大量の悪魔が舞い降りていた。

「クフラクこっちだ!」

 アルバートが誘導する。

「は、はい!」

 悪魔に見つからないよう、小さな路地を走っていく。クフラクの周りにはアルバート、ハクレ、キーウィ、同じく護衛対象のテレスがいた。

 キーウィがポケットから小さい水晶玉をいくつか取り出し空へ上がって散っていった。

「状況はどうだ?キーウィ。」

 アルバートが聞く

「多くの悪魔が地上にいるね、王国のギルド連中が応戦してるよ。」

 キーウィは水晶玉を覗かせながら話す。その水晶玉からは上空に散っていった、水晶玉と中継されており状況を確認できる。

 その後、水晶玉から声が聞こえてくる。

「キーウィ!王城近くまでこい!ラスティーネ姫と一緒に例の二人も回収する!」

「了解ス。」

 キーウィがアルバート達を見て話を始める。

「聞いての通り、王城付近に向かうよ。」

 こうしてクフラク達はうまく隠れながら王城に進むのだが。


「あそこにエレス。」

 テレスが病院を指差す。

 走ってる途中にエレスが入院をしている病院を見つけた。

 病院を見ていると職員とギルドから派遣された人が避難誘導をしている。

 クフラク達は病院前の職員にエレスが避難されたかどうかを聞きにいった。

「エレスさんは自力じゃ動くのが難しい。すまないが……それで患者の足を引っ張るわけにはいかない。」

 職員が申し訳なさそうに話す。

「すまない、キーウィ……私はエレスを助けに行く。」

「なら私も行きます。中にはエレス以外にも動けない人がいるんで。」

 ハクレもアルバートについて行くことになった。

「良いって、あとは私と帝国に任せな。」

 キーウィが自信を持って応える。

 アルバートがクフラクの肩をガッチリ掴む。

「クフラク、テレスは任せたぞ。」

「大丈夫、何かあったら僕が守ってみせる!」

 こうして、別行動をとった。


 この後悲惨な運命を辿るとも知らずに。


 王都病院内……。


 アルバートとハクレは病院内を散策していた。ギルドから派遣された人達も協力するそうだ。

「外の方はどうですか?」

 アルバートが冒険者ギルドの人間に聞く。

「あらかた、避難が完了したようだ。組合のおかげだ。」

「問題はこっちだ。」

 別の冒険者がドアを開ける。

 そこには意識が戻ってこない者や体の自由が効かない者、はたまた老人や足の怪我がひどい人などの動きに問題がある人がそこの部屋に集中されていた。

「職員が意図的にこの部屋に入れたんですね……。」

 ハクレが察したように話す。

「一人ずつ運びましょう、馬車を用意してまとめて載せます。」

「わかった。」といって冒険者が何人か外に出て馬車を持ってくるようだ。

『しかし、これでは時間がかかってダメか……。一人ずつ背負っていってもここにいる人達は……』

 頭を悩ませながらも一人ずつ外に運ぶアルバート。


 その時、強そうな黒いドラゴン一匹とガーゴイルの群れが襲ってきた。

「冒険者の皆さんは早く患者を馬車に乗せてくだい!」

 アルバートが指示をする。

 戦士ギルドが優先的に前に出て戦っているが、守りきれなかったようだ。それほどまでに敵は数で潰そうとしている。


「アル君!」

 ハクレが飛び出るが。

「ダメだ!馬車の近くに居てくれ!護衛が居なくては患者も全部終わりだ!」

 アルバートが説得し敵の軍勢に単身で挑む。

 ガーゴイルは槍を持っているものもいれば剣や斧を装備しているものが居た、裸で色が黒くコウモリのような羽が生えている。

 アルバートは以外にも苦戦していた、敵が多数の時はソルブの型は不利である。そのためエルシドに変えて戦っているが、数多く敵を倒すと同時に切り傷を負っていた。

 一度バーラスの型で対応しようとしたが己を守りながら戦うと時間がかかってガーゴイルが馬車を襲ってしまう。

 アルバートは捨て身をとったのだ。


「アルバートさん終わりました!早く戻って!」

 冒険者が話すが。

「構うな!そのまま行ってくれ!」

 アルバートがそのまま馬車の護衛に入ると追われてしまう。そのため残る事を決意した。

 ハクレは心配そうにアルバートを見つめた後、馬車と共に行ってしまった。


「おい!私を殺して見せろ!」

 アルバートは敵を煽る。

「愚かな……ならば死ぬがいい。」

 強そうな黒いドラゴンが話す。


 ドラゴンがそのままガーゴイルをも巻き込む形でアルバートに突撃し噛みついてくる。

「何?!」

 アルバートは予想できなかった行動に戸惑ったがギリギリで避けた。

「やるではないか……。」

 嬉しそうに話すドラゴン、そして口から炎を吹き出した。

 アルバートは下から氷壁を作りそれを防いだ時だった。

 腰に違和感を感じた、下を見ると腹から槍が突き出ていた。

 ドラゴンが突撃した際巻き込まれた、グチャグチャのガーゴイルの遺体が這いずっていたのに気づかなかった。

 グチャグチャになった遺体を傀儡化するにはかなりの技量がいる。ドラゴンは魔法にも精通していた。

「楽しかったぞ、人間……暇が潰せたわい。」

「まだだ……」

「まだ完全には殺しきれてないぞ。」


 アルバートは腰に入った槍を無理やり抜いて、襲い掛かるガーゴイル及び傀儡化されたガーゴイルを地面から数多くの氷柱を出して殲滅する。

「勝ち目はないぞ?」

 ドラゴンが忠告する。

「勝ち目は作るものだ。」

 そう言い放ちアルバートはさらに氷柱を自分の付近に出した、近くを飛んでいたガーゴイルも巻き込まれるほど空高く多く出す。

 ドラゴンにも当たりそうになり避けらるが、氷柱が多すぎてアルバートを見失ってしまった。

「小賢しいが面白い。」

 ドラゴンが楽しそうに話す。

 ドラゴンは警戒して空高くいる、だがそれと同時に大量の氷柱に身を隠すアルバートを見つけられない。

 その時アルバートが姿を現す。

 ドラゴンは見逃さず急降下しアルバートに襲い掛かる。その瞬間、最初に地面に出した氷柱がドラゴンに向かって発射される。

「しまった!」

 ドラゴンが気づく頃には腹部に大量の氷柱が刺さる。

「まだ終わらん!」

 アルバートがそう言って刺さった氷柱からさらに氷柱を出してドラゴンを苦しめる。


 ドラゴンはアルバートの目の前で倒れてしまった。

「我が名はガルグイユ、ガーゴイルの創造主だ。見事である……。」

 ガルグイユはアルバートを賞賛し息たえた。

 それと同時にガーゴイルも上にある魔界の門へ去っていった。


「まだ、悪魔が残っているな……私もいかなければ……。」

 アルバートは無理をして体を動かすが、ふらついている。元々魔法は得意な部類ではなく多くの氷柱を出したため貧血で倒れそうだった。


「お見事ですねー」

 そう言って顔を出したのは恐らく悪魔だった。

「ガルグイユを倒すとは、まぁ彼は真面目なところが気に食わなかったのでラッキーですがね。」

「誰だお前は!」

 アルバートが剣を構えるが腹部と腰が貫通してるため、おぼつかない。

「私はアスモデウス、ラスティーネ王女いや元王女の場所を教えて頂ければ命は保証しましょう。」

 その悪魔はアスモデウスという大罪悪魔であり色欲である。耳はピンっと立っており盛り上がった歪な体を布で覆って隠している。

「何がもくて……」

 アルバートが話した瞬間

「場所を教えろと言っただろおおおおお!!時間が無いんだ!質問に答えろよおおおお!」

 アスモデウスが激怒した。

「ハァハァ、失敬したな。サタンが頭によぎってな……」

 息を切らしながら、アスモデウスはアルバートにジリジリ近づく。

「悪いのは君だ。」

 そう言い放ちアルバートの首を絞める。

 アスモデウスは体に纏った布を脱ぎ捨てた、そこには右肩に牛の頭、左肩に羊の頭が生えていた。両足は虎のような足をしており股間には肉食獣の顔がついていた。

「さぁ吐け!どこにいる!」

 そう言い放ち、下の虎がアルバートの下半身をボロボロに噛み続ける。

「ああああああああ!!」

 アルバートは苦しそうに声をあげ下に大量の血が滴っていく。

「お前のモノが使い物にならなくなるぞ、さぁ言え!」


 その時、アスモデウスにハクレが斬りかかる。

「な?!」

 アスモデウスはアルバートを離した、唐突の登場に困惑した。

「アル君!!」

「みんなは無事か……?」

「大丈夫、帝国に保護されたから……だからもう動かないでね……」

 ハクレはアルバートに治癒魔法をかけるが、出血が止まらない。足はグチャグチャになっており、つま先の方向が変な方を向いている。

「許さない……」

 ハクレが怖い顔でアスモデウスを見る。

「おお、君は可愛いね。寝取るのも良いかもしれない。」

 アスモデウスが興奮したように気持ちの悪い顔をした。

 ハクレが剣を抜き刀身が白く光る。

「あなたには死んで頂きます。」

「君のためなら死んでもいいよ。でも、その前に……ね?」


 クフラクの方では……。


「頑張れ!クフラク、テレス!もうすぐだ!」

 キーウィが二人を鼓舞させる。王城まで後少しだった。

 王城後少しのところで、敵の攻撃に遭ってしまった。

「くそ、こんな時に!」

 キーウィが唇を噛む。

 空から、サキュバス、インキュバスの群れが出てくる。

「俺がテレスを連れて行きます!」

 クフラクがキーウィに伝える。

「く……だ、だめだ、お前も護衛対象だ。目を離すわけには……。」

「分かってます!自分が守られてる立場になっているのは気づいてました!でも、俺はずっと守られているのは嫌なんです!」

「男の子だったらそうだよな……」

 腹を決めたのかキーウィはクフラクに話す。

「いいか、なるべく戦闘は避けろ。テレスを守り抜け!」

「はい!」

 クフラクはテレスの手を引っ張って城付近に向かう。


「さぁ、ここからだな。」

 そう言って各地に散らばった小さい水晶玉がキーウィの元に向かう。

 水晶玉が敵の軍勢に散らばる。悪魔たちは小さい水晶玉に困惑していた。

「ライトニングチェーンだ。」

 そう言い放ちキーウィが持っている水晶玉から稲妻が飛び出し軍勢の中に散らばっている水晶玉に当たる。するとそれがまた違う水晶玉に当たり連鎖していく。多くの悪魔たちが焼けてどんどん倒れる。


「早く親玉を出したらどうだ?雑魚ばかりに構うほど器は大きくないよ!」

「さすが、帝国一の呪い師ですね。魔術もお手のものとは……」

 その時美しい女性が舞い降りた。首に蛇を巻いてるが。

「お前か、ここの軍を率いているのは?」

「ええ、当たりです。」

「メンドーだから倒しちゃうよ。」

「そんな必要はありません、目的は達成しましたから。」

「目的……?」

「ええ、あの子達を引き離すという、やはり若いうちは情に熱いですね。」

 まずいと思い、キーウィが二人の後を追いかけるが、雷がキーウィの進行を止める。

「せっかく上手くいったんですから、逃すわけないでしょ?」

「なら、力ずくで殺してやる。」

 そう言って戦いを始めた。


 クフラクの方は、だいぶ城に近づいた。

「テレス、もう少しだ離れないでね?」

「うん」

 もう目前だった時に物陰から、羊の頭をした悪魔が二体姿を現す。

「リリス様の言う通りだったな。」

「ああ、そうだな。」

 二体が会話してる。そしてテレスの方を見る。

「そこのお嬢ちゃんを渡してもらおう。元々こちらのものだ。」

 悪魔がクフラクに話す。

「そうはさせない。守ると決めたんだ!」

 クフラクは剣を抜いてハグバルの構えをとる。

「無駄な足掻きだ。」

「ハセクさん直伝だ、勝てないことはない!」

 そう言って、クフラクが全身に魔力をため身体強化をし悪魔の懐に入る。

「速いだけだ!」

 そう言って悪魔から氷結魔法で生成した剣で受け止める。

 クフラクにとってはこれが初めての実践である。上手くはいかない。


「おい、応援よべ!このガキ油断してるとやられる!」

「させない!」

 飛び立っていく悪魔に斬りかかろうとすると。さっきまで戦っていた悪魔が足場に氷柱を出して妨害する。

 攻防を繰り返しているとかなりの数が舞い降りてきた。


「テレス逃げて!」

 クフラクが叫ぶが、テレスは足がすくんで動けなかった。

 多くの悪魔がテレスに集まり回収しようとする。

「こら!暴れるな!」

 回収に悪戦苦闘する悪魔。

「やめろ!」

 クフラクが攻防を続けていると、後ろから悪魔が雷を出しクフラクに当てる。

 クフラクは一度倒れるが、再び立つ。

「返せよ……」

「こっちも命がかかってんだ無理言うな。」

 悪魔は無慈悲な一面だけではない、いろんな感情の悪魔がいる。人と対して変わらない。

 悪魔は一思いにしようとクフラクを刺そうとすると。

「嫌!!」

 テレスが叫び始めた、その瞬間、周りの地面が震え始める。

「おい、やべーぞ!このコピー、力を制御しきれてねぇ!」

 悪魔たちが動揺し始める。

 その時、周りの建物が倒壊しクフラク及びテレス、悪魔が下敷きになる。

「て、テレス……」

 かろうじて息をしているクフラク。

 目の前には建物の下敷きになったテレスがいた。

「今……行くよ……。」

 そうは言うものの体が建物の下敷きになっているため、動けなかった。体に何かが刺さってる感じがしたが、今のクフラクは目の前のテレスしか見えていない。

 その時、悪魔達がまた舞い降りテレスを回収しようと瓦礫を避ける。

「お、おい!息してねーぞ!」

「体は子供だからな……仕方ない遺体だけでも持っていくか……。」

 この会話を聞いたクフラクは絶望した。

「ああ……何でいつも上手く行かないんだ……」

 小さい声で絶望を口にする。


「力が欲しいか?」

 聞いたことのある声がした。

 その瞬間周りが炎で覆われた。目の前に玉座に座るサタンがいる。

「お前が、来なければ……テレスは……」

 泣きながら話すクフラク。

「テレスを連れてきたのはヒルブライデだ……」

「嘘だ……僕は信じると決めたんだ……」

「分からないのか、可哀想に……。」

 クフラクは意味が分からなかった、正確には聞き入れたくなかった。

「気づいてただろ、周りの嘘に……ハセク、アルスの手紙といい計画されてたんじゃないのか?」

「あああああああ!そんなことないいいいい!何かの間違いだああ!」

 頭がおかしくなる、クフラク

「真実を知りたくないのか?このまま押しつぶされて死ぬぞ?」

 さらに、サタンが玉座を降りクフラクの前にしゃがむ。

「私の力があればテレスの仇を取れるかも知れんぞ、醜い醜悪な嘘吐きども……この一件を巻き起こした奴に正義の鉄槌を下すのだ!」

「あああああああああああ!!!!」

 クフラクの怒りが爆発した。


 炎は消え元の場所に戻る。

 クフラクが下敷きになった場所から瓦礫が吹き飛ぶ。

「な、なんだ?」

 悪魔達は振り返る。

「殺す!殺す殺す殺す殺す殺す……………」

 クフラクの体は黒い炎を纏っていた。

「おい!あれってサタン様の炎じゃ……」

「離せよおおおおおおお!!」

 クフラクがテレスを抱き抱えている悪魔の首を刎ねた。

 その後回収して下に置く。

「サタン様騙したのですか!私たちは!」

 上空の魔界の扉に叫ぶ悪魔。

「殺してやる、ハセクもアルスも隊長も悪魔さえも全部だあああああああ!」


 こうして、クフラクは悪魔の力を手に入れた。敵を蹂躙し血祭りにあげたが、彼は泣いていた。


 第二十一話に続く……。


 世界設定:キャラクター9


 クフラク、彼は第六話に出てきたロクローネの甥っ子である。性格は小難しく12歳相当の性格をしている。普段から大人を嫌っており、政略結婚などの大人の身勝手さに怒りを覚える。嘘を見抜くのが得意で小さい時から大人の顔ばかり伺っていた。剣聖隊に入った理由はエバルタ家の評価を上げる材料に過ぎず、ラスティーネの政略結婚はロクローネが命を狙われないための予防策にすぎない。大人の良いように扱われてきた不遇な人生を送っている。使う型はハグバル、無属性だがサタンの契約で炎が使える。今作のアルスと対をなす主人公ポジ。


 見て頂きありがとうございます。前の回で説明するコーナーができたため、物語中の説明はかなり省略していこかなと思います。これからもよろしくお願いします。








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