第十三話 帰化の始まり

 今現在、帝国領の宿屋でヒルブライデと同じ部屋にいる。

「すまないな、私のせいで……。」

「いえ、隊長がいなかったら多分死んでました。」

 確かに予定よりは遅く着くが、ヒルブライデがいなかったら死んでいたのもまた事実である。

 ヒルブライデは天性の魔法を使えるようで自分の腕を治してくれている。

 少しだが痛みが和らぐのを感じる。

「これが、私の限界みたいだ。骨までは治せん。」

「いえ、十分助かります。」


 日も暮れていき夜になる。

「アルス、宿屋の主人から水桶をもらったぞ。二日ほど体を洗ってないし、傷口が汚れてはいけないぞ。」

「そうですね、お気遣いありがとうございます。」


 ヒルブライデが二つ水桶を持って自分に渡してくる。

 ヒルブライデが先に服を脱ぎ始めたが、少し気になるところがいくつかあった。ヒルブライデが脱ぎ続けると露出が多くなり、体中に傷があるだが、切り傷ではない。明らかに故意的に抉られた跡である。痛々しい体がどんどん露わになる。

「その傷は切り傷ではないですよね?」

「ああ、醜いだろ。これは姉さん、テレスミクロがやったものだ。」

「師匠が?」

「ああ、何も前の監禁者から逃れるためとか言っていたな。」

『監禁者……?拷問を受けていたところか……?』

「確か、姉さんに保護されてすぐに抉られた。治癒魔法で傷を癒しながら体全体を抉られたよ、あまりの痛さに気を失ったらしいが。」

 ヒルブライデが全部脱いでこっちに近づいてきた。


「なぁアルス、このまま二人……どこかにでも行ってしまわないか?」

「職務放棄ですよ。」

「もう……耐えられない。王国は私を利用しようとしているし、君とここに来るまではみんな私に何か隠してた。もう……嫌なんだよ仕事という名の政治利用は。」

 ヒルブライデが泣きながら抱きついてきたが、やはり頭が切れるので多少引っ掛かりはしていたみたいだ。

「こんな私でも君は愛してくれるかい?」

「まだ、わかりません。」

 抱きしめ返したが、それ以上先のことはしなかった。責任もあるし、何より目先の問題を解決していない——自分には仲間がいる以上裏切れない。


 翌日になり朝日が昇る、正直もうここからは足早で行けば昼には帝都に着く。

「おはよう、アルス君。」

「おはようございます。服着てください。」

 昨日泣いた後そのまま寝てしまったようだ。

「私決めたんだ。」

「はい?」

「もし、この件が終わったら。力ずくでも君と結婚する。」

「じゃあ、期待してます。」

 適当に流しはしたが、自分も気に留めておこうと思った。


 関所を上手いこと避けて、帝都に着いた。

「ここが帝都か、小さい頃だからあんまり覚えてないな。」

 ヒルブライデが悲しそうに話す。

「帝国城まで行きますけど、どこか見て回りますか?」

 せめて、彼女には生まれた国で思い出の一つでも作ってもらいたい。

「じゃあ、おしゃれしたい。」

「わかりました、行きましょう。」

 ヒルブライデから手を繋いで話かけてきた。

「なんかデートみたいだね。」

「昨日も聞きました。」


 帝国の洋服店。

 王国とは違い、色々な服が売ってあった。特に種族別の物が多く王国はあくまでも人間文化の服が多かったが、帝国は様々な文化が融合された服が多く面白いデザインをしていた。

「どうだ、アルス。」

 試着室からヒルブライデが出てくる。

「ええ、似合ってますよ。」

 純白のロングワンピースだったがかなりイケてた。

 王国と違いこっちの方が服のデザインも先進的な気がする。

「次着替えるから、そこにいろ。」

「はい、」

 店に誰かが入ってくる。

「隊長〜私も服ほしい〜。」

 気だるい女性の声が聞こえる。

「あのな、今日は仕事だ無理いうな。」

『ん?なんか聞いたことのある声だな?』

 恐る恐る後ろを見ると、そこには女性が一人とバルキルウス本人がいた。

『あ、やべ。』

 他人のフリをかますが、バルキルウスの後ろにいる女が近づいてきた。

「お前、何もんだよ?」

 女が話かけてきた。

「お前からはトラブルの匂いがするな、帝国で何する気だ?」

「どうした?キーウィ?」

 バルキルウスが女性に話しかける。

 その時だった。試着室からヒルブライデが出るが、大胆な水着を着ていた。

「どうだ、アルス似合っているか?」

「「え?」」

 女性とバルキルウスが固まっていた。

「……はい……と、とっても似合ってます。」

「あ、あーデート中でしたか、ついつい職業病で。」

 女性が目線を逸らしながら話していた。

「アルス……お前……付き合っていたのか?」

 バルキルウスが動揺しながら話すが、なんだろう殺気を感じる。


 色々ごたついたが、バルキルウスに皇帝との面会を許された。

 皇帝が来るまでの間、周りに悟られないよう小さい談話室でバルキルウスと話をするのだが。

「なるほど、それは災難だな。だが、よく無事でいてくてた。」

 バルキルウスが安心したように話す。

「あなたがバルキルウス殿ですね?お初にお目にかかります。王国精鋭剣聖部隊、隊長のヒルブライデです。」

「ええ、噂は予々聞いてます。私もお会いでき光栄です。」

 バルキルウスが赤の他人を演じていた。

「ところで、私の兄ダンテという人間はご存知ですか?当時地下都市にいた子供で盗人として有名だったんですが……。」

「ああ、私も行方はわかりませんがこの大陸を出たとだけ聞いています。真っ当に働くとか、それしかわかりません。」

「そうですか、他の人に聞いても同じですよね?」

「ええ、恐らく。彼を一番知っているのは私ですし、彼を更生させたのも私ですから。」

「そうなんですか、私の兄を助けて頂きありがとうございました。」

「いえ、お仕事ですから。」

 二人とも——とても悲しそうに見えた、バルキルウスの方は特に仮面越しでもその悲しさが滲み出ていた。


「ちょっとー!なんでそんな暗いわけ!?」

 するとバルキルウスの後ろにいた女性が話に割り込む。

「ああ、すまない紹介するよ、こいつは黒死隊の一人キーウィだ。」

「おっす、よろしくな。」

 見た目は金髪でピンクのマニキュアを塗っている装飾品もじゃらじゃらつけている、装備しているのは手のひらサイズの水晶玉だがシールがペタペタと多く貼ってあった。

「こいつは、呪い師だ——闇の魔術に長けている。帝国の中でもかなり強い魔力を持っている、気さくな奴だからすぐ仲良くできるはずだ。」

「アルスです、よろしくお願いします。」

「硬いってー気楽に行こうよー。」

「私はヒルブライデです。よろしく。」

「よろしくね、ヒルちゃん。」

 確かに気さくな方だった、変な格好をしているが後で話を聞いてみると大陸の外で流行っている文化らしい。


 楽しい話をしていると皇帝が姿を現した、隣にはドルクがいた。

 自分も含めて、全員皇帝に膝まつくが。

「いいや、良い。すぐに話を始めよう。」

 皇帝が急ぎ足で椅子に座る。

 ここから、話されるのは大戦の始まりと皇帝が知る国王の本性だった。


「まずは王国から良く来た、苦労をかけてしまった。」

「いえ、大事なことですので。それに悟られるわけにも行きません。」

 自分がテレスの出現と王国で今何をしているかを皇帝に伝えた。

「確かに、それは何かの前触れと言っても過言ではないな。」

「ええ、ですので自分達は国王の本性を皇帝陛下及びにバルキルウスさんやドルクさんに伺いたく参りました。」

「なるほど、勿論話そう——私の知っている範囲でな。」


 今から12年前、帝国歴3000年の時である。

 皇帝は王国に戦争を仕掛けた、これが大戦と呼ばれるものであり、王国が優勢になった時停戦協定を結んだ。そこからは情勢が帝国と王国の二分化になったがその理由はなんだろうか。

 かつて、皇帝と国王は友人関係であり戦争をするような仲ではなかったという。皇帝は人情家で国王は合理的主義の持ち主だった。

 彼らが大戦をするきっかけになったのは、国王の今は亡き妻スフィアーネが起因していたようだ。ジョグレン王子が黒死隊によって討死した時と同時にラスティーネ王女を産んだ。だが、スフィアーネは国王の二人目の妻でジョグレンは腹違いの子供のようだ。つまりラスティーネからしてみれば異母兄弟に当たる。

 そもそも、スフィアーネは皇帝の妻になる予定だったのだ。

 スフィアーネは王国の隣国、共和国の女王だった。

 スフィアーネは皇帝との結婚を前提に付き合い、仲も良かったそうだが急遽予定が変わり直ぐに王国に嫁がされた。

 皇帝はそれに激怒して、たとえ友人であっても許されなかったそうだ。そこで大戦が起きたそうだが、問題はそこじゃない。何故急にスフィアーネが嫁ぐことになったのかである。


「私は三っつの可能性を考えた。」

 皇帝が話を続ける。

「一つは、共和国を王国の領土にして帝国に圧をかけるためだと思ったが、彼は頭が良い、もっと良い方法で攻めるはずだからこの案は予備の一つだ。」

「そして二つ目はスフィアーネが持っている魔力だ、彼女の一族は生まれながらにして天性の魔法に恵まれる。そのせいか威力が高く極めれば闇を払い傷口はたちまち治る。」

「確かに、王女に以前——腹部を刺された際に傷を癒してもらいました、内臓の損傷もあっという間に抑えられましたし。」

 宴会襲撃時に仮面の女に襲われた時だ。

「そうか……やはり強力だな、国王はそれを狙ってより国力を増強し、子孫を増やそうと考えていると睨んでいる。これはかなり濃厚な説だ。」

『だから、早い段階でラスティーネに婚約の話が出たのか……。』

「最後に三つ目だ、これは彼の本性に大きく関わる。彼は強欲の化身だ、マモンの契約者の可能性がある。彼は昔からスフィアーネを好いていた、それが爆発したのか闇の力を手に入れた。これを見ろ。」

 皇帝は靴を脱いでテーブルにぼんと置く。靴にしては鈍い音がする、義足だった。

「次きた時は、左足だと言われたよ。明らかに力が段違いだった、彼は悪魔に唆されたのかもしれん。だが、私を追い詰めた時すまないと謝ってきた。彼は王国のためなら手段を選ばない奴だが、人としての心は持っておる。」

 知らないことばかりだった。自分達の本当の敵は悪魔か王国か……。

「頼む!私は国王エヴァンスを救いたい!一人の友人として!」

 皇帝が頭を必死で下げてきた。

「陛下、よして下さい。そんな……。」

「アルス、俺からも頼むわ。」

 ドルクが話を始める。

「俺は皇帝の近衛騎士として長いが、大戦後の元気な姿を見たことない。ずっと考えてんだよ、友人と嫁をな。」

 皇帝が頭を上げて話を始めた。

「これからは、剣聖隊と密接な関係を築き上げる。今、状況が変わろうとしている。このチャンスは逃したくない。」

「ご協力感謝いたします。」

「いや、お前たちは私に希望を届けてくれた。感謝したいのはこちらの方だ。」

「では、皇帝。言伝はキーウィに行かせます。」

 バルキルウスが話を始める。

「ええ?私?」

「ああ、お前は密書が必要ないからな。遠隔でも言葉を伝えられる。」

「まぁ、確かにそうだけど。」

 こうして、帝国と剣聖隊が密接な関係を築き上げれた。自分が生まれた国も悪くないと少しはそう思えた。


 これからは、自分とヒルブライデ、キーウィで王国に帰る。国王が黒だと分かった場合、直ぐにキーウィが帝国に連絡、状況を説明する。作戦を立て、国王の不審を晒す。ラスティーネには申し訳ないが女王になってもらう。

 こうすれば、少しは真実が見えるだろうし。テレスの存在そして王国、特に国王がどこと繋がっているのかが明るみになるだろう。そうすれば、少しは状況が変わる。


 帝国から馬車を用意するそうだ、自分達三人はそれに乗って王国へ行く。

「今度はこちらから、王国に行くよ。」

 バルキルウスが話す。

「はい、待ってます。」

 自分以外の二人が馬車に乗った。

「君なら、私の妹をやっても良いかな。」

 バルキルウスが小声で話す。

「どうしたんですか、急に?」

「いや、幸せそうだったからな。私は兄失格だよ。」

 バルキルウスが悲しそうに話を続ける。

「昔、ヒルブライデを食い繋ぐために盗みを働いていた。でも、悪いことだからと食べ物に手は出さなかったんだ。挙句、妹は誘拐されて私は一人になった。ずっと何も出来なかった自分を悔やんでいたのさ。皇帝に拾われて黒死隊の隊長になったが、大戦で妹を見かけた。あれ以来、妹は居場所を見つけたと思っていたが、それも違かったみたいだ。」

 恐らく、本音が言えないことを悔やんでいるのだろうか。それとも本来の実兄として接したかったのか……。


「間違いなく王国と帝国は変わります。」

 自分がそう話すと、「ん?」とバルキルウスが顔を上げた。

「国王がラスティーネ女王に変われば、多少なりとも平和になると思っています。また、王国と帝国が一つになる可能性も秘めています。」


「だから、その時は本当の兄弟で腹を割って話してはどうですか?」


「ああ……そうだな。その時は私もバルキルウスなんてやめても良いのかもな。」


 十四話に続く……。


 世界設定:キャラクター6


バルキルウス、彼の本名はダンテ、地下都市出身のため苗字はない、黒死隊の隊長であり、戦力は凄まじく魔力、剣技どれをとっても引けを取らない。基本、仕事中は黒と白銀が混ざった全身甲冑で素顔が見えないが、ヒルブライデの兄弟であるためか、顔は比較的美男子だ、趣味は基本ないが、キーウィの買い物に毎回付き合わされる。そして代金も基本バルキルウスが払っている。部隊からも信頼が厚くみんな仲が良い、使う剣技は剣と盾のハグバル、属性は氷。年齢は28歳とヒルブライデと四つ違い。


 読んでいただきありがとうございます。キャラクターもだいぶ増えてきました、元々は皇帝や国王など名称でそのまま押し切ろうとしてましたが、名前がないとだめだと思いました。本来アレクも兵士やアルスの仲が良い兵士とする予定でしたが、今後練っていた結末を考えると必要になってくるのがわかりました。これからも頑張りますので、よろしくお願いします。







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