第十一話 成長

 王国暦12年

 ゴメリウス討伐から、2年が経過した。

 仕事にも慣れていき、後輩にも恵まれたのだが——。


 今日は事務作業をしている、2年前の出来事を忘れたわけではないが——常に警戒をしている。王女がまた狙われる日が来てもおかしくないし、剣聖隊から死亡者が出てもおかしくない。

 そんなことを考えながら作業していると。

「すいません、先輩!書類確認してもらってもいいですか?」

「ああ、ご苦労様。」

 この子は2年前マルマキアさんの死亡後、募集をかけて入隊した獣人の女性で18歳と若いが戦闘能力はかなり高い。名前はエレスという。

「ああ、ここ計算間違ってるよ。ちょっとずつ直していこうか。」

「はい……。いつもすいません……。」

 彼女はかなりの脳筋である。

 当時——隊長からエレスの教育係を任された。戦い以外にも仕事はあるということで、事務をするときは基本エレスと一緒に行っている。


 コンコンと扉を叩く音がする。

「はい、どうぞ。」

「失礼するよ、アルス。」

 ハセクだった。

「どうしました、ハセクさん?」

「実はね、新人のクフラクがパトロール中にトラブルに巻き込まれちゃって。」

「にしては、落ち着いてますね?」

「いや、まぁトラブルを起こしたのはクフラクの方だから……。」

 クフラク、彼は12歳と若い人間だが——この子はロクローネの従兄弟に当たる。ロクローネはまた、襲われるのを危惧しているらしく婚約者を国王と相談し変え——クフラクにしたらしい。そんな簡単にまかり通るのも王国が腐っていると思ったが、彼を剣聖隊に入れて教育して強くした上で王女と結婚させるらしいが。このクフラクはかなりの問題児だった。

 でも、悲しいかな。彼はロクローネが死なないための身代わりに過ぎないのだから……。


 クフラクがトラブルを起こした現場に一人で駆けつける。周りを見てみると大きい大人がクフラクを囲っていた。

「クフラク何があったんだ?」

「アルスさん聞いてください!お金のない女の子がお店の食べ物を万引きしたんです。でも、おかしくないですか?大人が寄って集って女の子を責める必要はないと思うんです!」

 子供の解釈か幼稚な考えだと思った。12歳でもそんな考えはしないだろ。

「だから、俺は女の子を逃してあの子はお金がないって説明してたんです!アルスさんもなんか言ってやってください!」

「あのな、クフラク。万引きはまず——犯罪だっていうのは知っているだろ?」

「もちろんです!」

「お金がないってだけを理由に万引きした子を逃すのはお前の自己満だ。」

「いや、自分はこれが正しいと思って!だってまだ俺より年下だし代わりに僕が払えばいい!」

「お前が払ってもまた、万引きするかもしれないだろ?」

「そ、そんなことするような子には思えないです!」

 これ以上は無駄だと思って店員の方を見る。

「この度はうちの仲間が迷惑をかけました。万引きした子供はこちらで捜索して補導します。」

「いいよ、アルスの旦那が悪いわけじゃねーし。」

 店員は理解しているように許してくれた。


 そのままクフラクを現場から引き離して剣聖隊の施設に戻る道中。

「アルスさんは俺のこと疑ってるの?」

「いや、疑うとかじゃないよ。」

「あの子はまたするようには思えない。」

「本当にそうかな、自分は少なくともそういう奴はまたするね。」

 噂をすれば、髪が汚くボロい服を着た女の子がいた。屋台の果物を狙っているのか遠くから物陰に隠れて観察しているのが見える。

「噂をすればなんとやらか、クフラクあいつだろ。」

「は、はいそうです。絶対しないはず。」

 その自信はどっから湧いてくるんだろうと思った。

 その瞬間女の子は屋台の果物を品定めしている主婦の後ろに回り込んだ、主婦が会計を始めると店員と主婦の目線は下を向いていて女の子に気づいていない。女の子の狙いは果物ではなく主婦のカゴに入っている食べ物だろう。そして、そっと手を伸ばしたのを確認したので、自分はすぐに女の子方に寄って手を掴んだ。

「お前、さっきも万引きした子で間違いないよね?」

「え……。」

 困惑する女の子、焦っているのか冷や汗が止まらないようだ。


 場所を人目のつかない小さい路地に移した。

「なんで、また万引きするんだよ!」

 クフラクが大きな声で喋るが、女の子は沈黙を貫く。

「ねぇ、名前はなんていうの?」

 腰を屈み女の子と同じ目線で喋る。

「名前…ない……。」

「そうか、仕方ないよね。」

 どこか自分と照らし合わせてしまった。自分のこの名前は師匠が付けてくれたらしい、この子も同じく名前を付けてくれれば人生は変わったのだろうか。

「じゃあ、なんでお店や人から食べ物を盗むんだい?」

「お腹すいたから……。」

「そうか、一応聞くけどお父さんお母さんはいる?」

「いるわけない。」

「あ、アルスさん……。」

 クフラクが不安そうに話す。

「とりあえず、日も暮れそうだから連れて行くか。」

「は、はい。」

 三人で剣聖の施設へ帰った。


「この子はなんなんだい?」

 ヒルブライデが不思議そうに話す。

「えー報告書の通りですけど。」

 自分が説明したが、出自も不明だし名前も分からないので何も分からない。

「まぁ、とりあえず孤児施設だな。」

 ヒルブライデが話す。

「でも、日が暮れてますから明日にしましょう。」

 ハクレが提案する。

「今日は一日ここ剣聖施設で保護だね。」

 ハセクが喋る。

「まずは、シャワー浴びましょうね。」

 ハクレが屈んで女の子に話す。

「なら、私に任せてくれ。」

 何故かヒルブライデが立ち上がり自分から立候補する。

「私、こういうのやってみたかったんだ。子供と一緒にお風呂入るの。」

「ああ、そうですか。」

 真顔で返答するハクレ。

 自分の後ろに隠れる女の子。

「頭白い人怖い。」

 そう言われて、ヒルブライデが落ち込んだ。

「お兄さんと入る。」

 別に風呂入るわけじゃないよと思った。

 ハクレが、必死で引き剥がそうとしても自分から離れなかった。

「じゃあ、もうアルスに任せようよ。にしても、君はラスティーネ王女といい小さい子にモテるよね。」

 ハセクが不思議そうに話す。


 浴室に女の子を連れてきたが、なんだろう気が進まない。とはいえ仕事なので——綺麗にしないと、そう思って服を脱ぐように指示して服を脱がせたが——胸の中心に見覚えのある紋章があった。

『これは、2年前の……。』


 女の子を綺麗にさせて——新しい服を着せたが、あの紋章が頭から離れられない。間違いない、2年前ゴメリウス討伐でみたものと同じ。適性が合わない死んだ被験体と同じ紋章だった、小さい穴の中にたくさんの死体が入っている……。


 しばらくして、女の子が寝た。

「ところでアルスそれは、本当かい?」

 ハセクが不思議そうに話す。

「はい、間違いありません。」

「このまま、孤児施設に預けるのは危険だね。王国がこれを聞きつけてこの子に危害を加えないこともない。」

「本当に王国が腐り始めているなら、多少強引でもあの子を回収するかもしれませんね。」

「2年前のこともあるからね、王国が動いてないと——あれらの事件は説明がつきずらい。」

「自分は明日セブラブの所にこの子を連れて行きます。それともう一つ……」

「わかった。エレスとクフラク以外にはこの事を伝えておくね。」


 翌日、王国城に入って行くのだが。

「おーアルスか久しぶりだな。」

 スーゼルさんがいた。仮面は相変わらず付けており、剣聖の制服から王国の甲冑を着ている。

「あ、アルスさん!」

 そこには、アレクもいてスーゼルの部下になったらしい。

「お二人がいるということは、王女も?」

「ああ、もうすぐ玉座の間から出てくるはず……。」

 スーゼルと話していると門からラスティーネ王女が飛び出してきた。

「あ!アルスさん、ご機嫌よう!」

「ご機嫌よう。」

 日に日に成長しているのか、少しずつ背が伸びている気がする。今年で11歳だったかな。

「そちらの方はどなたですの?」

 王女が自分の後ろに隠れている女の子を気にしている。

「あーこの子は……」

 とはいえ、ここで今回の目的を言うのはちょっとおかしいな。スーゼルさんがいるとはいえ、アレクもいるしどうすれば。

 その時、自分が困っているのを察したのか女の子が話始める。

「私の彼氏。」

「「「「え?」」」」

 四人凍ってしまった。

 ちょっと待ってくれ、なんか状況が思わしくない。アレクとラスティーネが冷ややかな目で見てくる。

「まぁ、そういう趣味もありますよね。僕はなんとも思いませんよ……。」

 アレクが必死で言葉を選んでいる。

「終わった、全部……。」

 ラスティーネが何故か下を向いてボソボソ喋っている。

「ちなみに、名前はなんて言うんだ?付き合っているんだからわかるだろ?」

 スーゼルが聞いてきた。

「名前は、テレスです……。」

 適当に言ってしまった、師匠の名前をもじったのだが——女の子の方を見ると不思議と嬉しそうだった。


 そのまま地下に行って、アグライトとセブラブに会った。

 セブラブは相変わらずガルムの姿をしているが、努力の末ガルムの体を幼少に戻せるようだ。パッと見て黒い大型犬な感じだ。


「この子なんですけど……。」

 自分はことの経緯をセブラブに話し、例の紋章を見せる。

「なるほど、これは間違いなく闇と天をどちらも扱える人間です。」

 セブラブが説明するが。

「本当に人間か?」

 そう言って立ち上がり体を触る。

「魔力の流れが強い、エルフ由来のものだ。」

 とは言ってもエルフ特有の耳はしてない。

「コイツは多分人間とエルフのハーフの可能性がある、それか人間の体をいじくりまわしたか……。」

 考察しているアグライト。

「私も相手を拷問して長い、特徴や種別そして雑種かどうかも——そこら辺の医者よりある程度わかる。」

 だが、初めてだ……と言いながら頭を悩ませていた。

「セブラブ他に心辺りはないか?」

 自分が聞いてみるのだが。

「いえ、成功された被験体は全部で三体です。その三体は10年以上前のものなのでこの子とは年齢が合うようには思えません。」

 では、何故急に前触れもなく出てきたのだ?そこが一番大きな謎だ。

「自分以外に同じ紋章を持った人はいるかい?」

 自分は女の子に話を聞こうとすると。

「テレス……」

「ん?」

「テレス……ってさっき言ってたから。」

「ああ、すまんそうだったな。」

 自分の責任感の無さに少し嫌気が差した。

「私も見たことない……目を開けたらあそこにいた。」

「あそこって、昨日の?」

 うんと頷くテレス。


 その時扉から入るぞとエレスとクフラク以外の剣聖隊そしてスーゼルが出てきた。

「ん、どうした?」

 不思議そうに話すアグライト 

「今からは——アグライトさん、セブラブに聞いてほしいことがあるんです。」

「王国からこの子……いや、テレスを守ってもらいたい。」

 深刻そうに話す、ヒルブライデ。

「王国から?」

 アグライトが疑問に思う。

「今、王国城内を動けるのはスーゼルとアグライトだけなんだ。」

 ハセクが話す。

「いや、まぁ……あなた方剣聖が王国を疑っているのは私の古い友人マルマキアから聞いています。」

「多分この子が急に出てきたってことは、何かの前触れじゃないかって思うんだ。」

「ですが、ハセクさん。ここで王国を不審にさせるのは危険なんじゃ?」

「でも、2年前彼らが帝国に行ってくれたおかげで帝国との衝突はある程度緩やかにはなった。王の目的を知るのは今しか無いんだよ!」

「私に王を裏切れと?」

 そう言ってアグライトが殺気と共に剣を抜こうとする。

「待て、アグライト!」

 スーゼルが割り込んできた。

「お前が、王国に代々使えてきたのはわかる。だが、多くが犠牲になる前に阻止しなければ!お前の領地もどうなるか分からんのだぞ!」

「……。」

 アグライトが静かに剣から手を離した。

「ならば、もし国王が白だった場合お前たちを切る。この騎士団副団長である私アグライトがな。」


 こうして、説得したわけだが。昨日ハセクとその計画を話していた。

 剣聖隊施設では。みんなヒヤヒヤしたと言わんばかりの顔をしていた。

「いやーアルスがまさかあんな大胆な提案をするなんて——思わなかったよ。」

「すいません、ハセクさんに全部任せて……。でも動かないと、テレスは守れない。」

「確かに、王が何を考えて行動しているか良く分かりませんね。」

 メガネが考えながら話す。ちなみに、メガネとハクレは2年前の魔女狩り後にマルマキアの考察を知った。

「とはいえ、ここからかなり危ないぞ。」

 ヒルブライデが話を始める。

「もしこの賭けが負ければ、私たちは王に背いたとして首切りだ。」

「仮に王が不審になって次の王女はラスティーネだろうね。僕たちのエゴで彼女が重荷を背負うことになる。」

 申し訳なさそうに話すハセク。

「だが、私はエゴだと思いたくはない。誰かが動かなければ、もしも王の行うことが正しければその時は私が全て責任を持つさ。」

「一人で背負うのかい?」

 ハセクが話す。

「ああ……でも、もとより私は王など信じていない……。」

 ヒルブライデは今までに無いほど生気を失った顔をしていた……。


 十二話に続く……。


世界設定:キャラクター5


アグライト、王国の騎士団副団長を務めている。年齢は王国暦12年で26歳、代々王に使える家系で育っており忠誠心がある。拷問が得意だが、本人は仕事と割り切っているので個人的な楽しみは一切ない。収集癖がありぬいぐるみと対人用の鞭を多く集めている、見た目は金髪でスタイルが良く目の色は緑。剣の型はバーラスを使う。無属性なので生成できないが、エルスター教を信仰しており天性の魔法が使える。基本強く剣聖と対等に戦える。


 読んでいただきありがとうございます。色々なサイトでこの話を展開しています、ですが一つ困ったことがありまして、物語を分岐させると言いましたがこうなると少し難しく感じます。ですが諦めたわけではないので今後も頑張ります、よろしくお願いします。






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