第19話「アルセーヌ・ルパン」シリーズ/ルブラン
アルセーヌ・ルパンという人物をご存知だろうか。かの、ルパン三世のおじいさんである――逆だ、逆。かのアルセーヌ・ルパンの孫が、テレビアニメで人気となったルパン三世なのだ。
………。
とは言っても、現代の日本では、アニメのキャラクターであるルパン三世の方が本家本元の“怪盗紳士”アルセーヌ・ルパンよりも有名なのは明らか。かくいうわたしも、アニメ『ルパン三世』をみた時に、
――どうして三世なんだろう。一世や二世はどうしたんだろう?
と思っていました。『ルパン三世』に元ネタがあるとは、思いもしなかったんですね。
アルセーヌ・ルパンは、フランスの作家、モーリス・ルブランが創作した物語上の盗賊の名前です。ただし、アルセーヌ・ルパンは「怪盗紳士」という通り名で有名なように、あたかも紳士であるかのように振る舞う盗賊です。
ルパンがはじめて登場する物語は、『怪盗紳士』の第一話「大ニュースルパン逮捕される」で、舞台はフランスからアメリカ・ニューヨークへと向かう豪華客船。この船にフランス警視庁から「盗賊ルパンが乗船した」という知らせが届き、一等船室の乗客である紳士淑女が震え上がる――という導入です。
顔色を変えた一等船室の乗客とは対照的に、二等船室、三等船室の乗客たちはルパンの乗船を意に介しません。
>あれは怪盗紳士だ。わるい政治家や代議士や欲ばりの大金持ちからはぬすむが、その金もあらかた貧乏なひとや養護施談などに、名をかくして寄付してしまうんだからな。
>そうだ、ルパンは強きをくじいて、弱きをたすける男らしいやつだ。わるいやつだがいいところもある。それに、けっして殺人をしない男だ。(「大ニュース、ルパンとらわる」南洋一郎訳より)
いわゆる「義賊」であり、盗賊ではあるものの悪人ではないというキャラクターです。そう、百年前の小説ですが、アルセーヌ・ルパンシリーズはキャラクター小説だったのです。ルパンの際立ったキャラクター性を『怪盗紳士』から見てみましょう。警察に捕まったルパンが裁判にかけられたときの冒頭陳述の一部です――。
>どこに生まれ、どこで少年時代をすごしたか知らない。ただ、三年前にとつぜん世間にあらわれ、アルセーヌ・ルパンと名のって、おそるべき悪知恵とふしぎなトリックをもちい、大胆不敵なぬすみをはたらいた。
>被告は大盗賊であったが、どうじに、弱いものや貧しいものの味方で、かくれた慈善事家でもあった。つまり、彼の心には悪と善とがどうじに住み、怪盗と紳士がひとつになったふしぎな人物である。
>このアルセーヌ・ルパンと自称する怪物の正体は、まだはっきりわからないが、有名な奇術師ジクソンの助手だったロスタという若者がルパンだったらしいことはわかった。
>また、六年前に、ロシアからの留学生として、サン・ルイ病院の細菌学の権威アルチェ博士の研究室で細菌学と皮膚病について、すばらしい発見をして博士をおどろかせたロシアの青年学徒が、アルセーヌ・ルパンらしいと考えられる。
>また、日本の柔道がまだヨーロッパに知られていなかったころ、パリでこの優秀なスポーツを青年たちにおしえたのも、アルセーヌ・ルパンらしいと報じられている。
>また、パリ大博覧会の自転車競技で、大賞と一万フランの懸賞金をえて、そのまますがたを消した名選手もアルセーヌ・ルパンだったと信じられている。
>また、バザー会場が大火のとき、多数の人びとを天井の小窓からすくいだし、そのどさくさまぎれに、ポケットから金をすりとったのもアルセーヌ・ルパンであろうといわれている。(「ルパンの脱走」南洋一郎訳より)
なんというか……スーパーマンですよね。
それだけではありません。ルパンはフランスのあらゆる機関に配下を送り込む犯罪組織のリーダーで、もちろん大金持ち。洗練された物腰と教養を備えたイケメンで上流社会の美女にモテモテというチートぶり。こんなスーパーヒーローが国家権力や悪党を向こうに回して大活躍するのが、アルセーヌ・ルパンシリーズなのです。
――いまの時代、そういう無双系のラノベはいっぱいあるけど?
いまも昔も。読者は、無敵のヒーローが危機をくぐり抜け、悪人を懲らしめて、美女とラブラブになる物語に自分を重ねて夢中になるということなんですね〜。
☆
モーリス・ルブラン『怪盗紳士』(南洋一郎訳 ポプラ社)
モーリス・ルブラン(1864-1941)は、フランスの小説家。アルセーヌ・ルパンの生みの親として有名。代表作はいずれもアルセーヌ・ルパンシリーズから『奇岩城』、『813』、『八点鐘』、『カリオストロ伯爵夫人』など。
南洋一郎(1893-1980)は、東京都出身の作家、翻訳家、児童文学者。1958年に刊行のはじまったポプラ社の怪盗ルパン全集はいまでも本屋さんで買えます。これはすごいことです。
次回は、金春智子『うる星やつら』を取り上げます。
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