第5話『スーホの白い馬』大塚勇三
わたしは地平線というものを見たことがありません。
この国の国土は山がちで平野は狭く、目の届く限り大平原が広がっているという景色を見たことのある人は少ないと思います。わたしももちろんそうで、視界のどこかに必ず山が入ってくるようなところで過ごしてきました。
『スーホの白い馬』はモンゴルに住む貧しい羊飼いスーホとその白馬の物語。果てしなく広い空と見渡す限りの草原が続くモンゴルの大地が物語の舞台です。
☆
昔、モンゴルの草原にスーホという少年がいました。ある日、道ばたに倒れていた生まれたばかりの白い子馬を世話し、大事に育てましたが……。馬と少年スーホの哀切な物語と、モンゴルに伝わる楽器「馬頭琴」の由来が描かれ、感情を揺さぶられるでしょう。横長の画面を生かし、モンゴルの大平原を舞台に雄大に描ききったこの絵本は、国際的評価を受けています。(福音館書店のサイトから抜粋)
スーホが連れ帰った子馬は、やがて勇敢で忠実な若馬に成長します。ある年の春、草原を治める王さまが町で競馬を開くという知らせが届きました。一等になった乗り手を王さまの跡継ぎにするというのです。
スーホは仲間に勧められ、白馬にまたがって競馬が開かれる町へ出かけ、見事に競馬で一等となります。しかし、スーホが貧しい羊飼いだと知った王さまは、一等になった乗り手を跡継ぎにするという約束を破ったばかりか、スーホの白馬をわずかな金と引き換えに奪い取ったのでした、
その夜、白馬のことを考えて眠れないでいるスーホのもとに、体に何本も矢が突き刺さって血だらけの白馬が現れました。王さまの元から逃げ出して、大好きなスーホのところへ戻ってきたのです。しかし、弱りはてた白馬は死んでしまいます。
悲しさと悔しさで幾晩も眠れないスーホがやっと眠れた夜。夢に白馬が現れて言いました。
>「そんなに かなしまないでください。それより わたしのほねや かわや けをつかって ことつくってくださいな。そうしたら、わたしはいつまでも、あなたのそばにいられますから」<
夢から覚めたスーホは、白馬が教えてくれたとおり、骨や皮や毛を夢中になって組み立てました。そうして出来上がった琴が、「馬頭琴」です。
>やがて、スーホのつくりだしたことは、ひろい モンゴルの くさはらじゅうに ひろまりました。そして ひつじかいたちは、ゆうがたになると あつまって、そのうつくしいおとに みみをすまし、いちにちの つかれをわすれるのでした<
☆
モンゴルの大平原を「馬頭琴」の音色が渡ってゆくイメージがとても好きです。スーホと白馬の悲しい物語とともに、それは草原を渡る風に乗ってどこまでも、もの寂しく響くのではないでしょうか。聞いたことないんですが。
『スーホの白い馬』は、悲しいお話です。なかには、悲しいからきらいだという人もいるかもしれません。でも、わたしはこのお話が大好きなのです。ぎゅーっとしたくなるくらい愛おしく感じます。どうしてでしょうね。
作者の大塚勇三(1921-2018)は、満州出身の児童文学者、翻訳家。アルフ・プリョイセンの「スプーンおばさん」シリーズ、ルーネル・ヨンソンの「小さなバイキング」などの翻訳が著名(Wikipediaから抜粋)。わたしの世代ならアニメ『小さなバイキングビッケ』を思い出すなあ。アニメと大塚勇三は関係ないんだろうけど。
挿画の赤羽末吉(1910-1990)は、東京都出身の絵本画家、絵本作家。福音館書店の絵本をみて育ったわたしにとっては、おなじみの挿画作家で、『スーホの白い馬』はもちろん、『だいくとおにろく』、『まのいいりょうし』、『こぶじいさま』等々、思い出に残る挿画は枚挙にいとまがありません。
次回は、ロフティング『ドリトル先生アフリカゆき』を取り上げます。
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