23.小さな“死神”
…魔物。
それは、肉体の死後、何らかの原因によって輪廻の輪に戻ることができず彷徨っている魂が、“魔石”という結晶に宿ることで生まれる。
──その、小さな小狼の魔物もそうだった。
…ある日、四人の人間が深い森の奥を歩いていた。
森の西側にある“ヴァルティヘイム”という国を拠点とする、名のある冒険者パーティーである。
…彼らはその日、いつものように魔物を倒すべく森の深部へと足を運んだ。
「っはー、今日も雑魚ばっかだったな。いや、むしろ俺らが強すぎるんじゃねーの?こんな森楽勝だっての。そろそろ拠点変えようぜ?」
「あんま油断しない方がいいと思うよ〜?ま、拠点変えるのには賛成だけどさ〜。実際、ここ退屈だし。」
「ブフッ!おまっ、それ油断しきってんじゃねーか!?ギャハハハハ…あでっ!?」
「うっさいです。だまれです。まものにくわれやがれです。」
「プッ、バカかぁお前!俺たちがこんな森の魔物に食われるわけねぇだろ!ギャハハハハッ!」
「…ごめーとーです。」
「だぁろぉ!?ギャハハハッ!」
…緊張感もなく大声で喋る四人は、もはや魔物のことなど恐れてもいなかった。
実際、彼らが負けるような強い魔物など、この森には存在しなかった。
………その日までは。
「──クァウ?」
森の深部からの帰り道、四人の前に現れたそれは、まだ生まれたばかりの弱い魔物だった。
「…あ゛ぁ?なんだこのちっこいの。犬っころかぁ?それにしては白い気もするが…」
「えぇ、犬〜?私犬きらーい。倒しちゃってよ。どうせ魔物だし誰も文句言わないよ。あ、でも私そいつの赤い目と白い毛皮、加工してアクセサリーにしたい!珍しいじゃん?」
「うわ、趣味悪っ…」
「やめろです。きもちわるいです。そざいはさっさとうりはらうです。…もしくはわたしのじゅうまちゃんにたべさせるです。」
魔物を前にしてなお、だらだらと喋り続ける四人。
「はぁ…倒さねーとどうにもなんねぇよ。ほら、早く片付けんぞ。」
「はいはーい。あ、でも魔法だと素材台無しだから剣でちゃちゃっとやっちゃって。」
「わかってるっての。ほら、犬っころ、こっちこい。痛くねーようにちゃちゃっと殺してやるからよ。」
パーティーリーダーである剣士の男は、やる気がなさそうに剣をぶらぶらさせながら小さな魔物に近づく。
しかし、あからさまに殺意を向けていたからだろうか。
魔物は怯えて後退り、逃げようと後ろを振り返ろうとして──
「…っテメェ、逃げてんじゃねーよッ!《火球》!!!」
「ギャゥンッ…!?」
──魔法使いの女が放った火球に、焼かれ、吹き飛ばされた。
「ッグゥ……」
「チッ…さっさと死ね、クソ犬!」
黒く焼け焦げ、皮膚が爛れてもまだ息をし続ける魔物に、魔法使いの女は苛立ちを隠さず杖を向ける。
「おいおい、素材にするんじゃなかったのかよ…」
「もういい。こいつ私が殺すから手出ししないで。」
「お前なぁ…珍しい色の素材はちっとは金になるってのに…」
「うっさい、黙れ。」
…強引に会話を終わらせると、魔法使いの女はゆっくりと近づいてくる。
そして、小さな魔物の瞳をじろりと覗き込む。
…ビクリと震える魔物。
「…やっぱり価値、ないわ。」
女の気配がゆっくりと遠ざかっていく。
しかし、小さな魔物にとって、それは死が近づいてくる音でしかなかった。
杖の先端が、魔物の瞳を捉え──
「──《爆炎球》。」
…その瞬間、魔物の視界が爆ぜた。
放たれた灼熱の炎が、爆発によってその威力を増して直撃し、小狼は跡形もなく消滅する───そのはずだった。
『───名をやる。殺せ。』
「───??」
その瞬間──
「ぁぇ?」
…魔法使いの女の視界が。
「は、っ…?」
…剣士の男の視界が。
「あ゛?」
…盗賊の男の視界が。
「で、す…?」
…従魔士の女の視界が。
「…グル、ァ………」
──突如、小さな魔物の全身から吹き出した黒い霧によって、暗転した。
…ある日、ヴァルグレイヴの森で、名のある冒険者パーティーが、一体の魔物相手に壊滅した。
そんな噂が、ヴァルティヘイム王国中に広まった。
そのパーティーの従魔士の従魔によると、その魔物は黒い巨狼の姿をしていたそうだ。
…死の淵で見た絶望を力に変え。
…その力で殺した者達の絶望をも力に変える。
……それはやがて、“厄災の魔物”の“死神”と呼ばれるようになるのだった。
+・+・+・+・+
全然投稿できておらず本当に申し訳ないです…
テストが迫ってきておりますので、これからも更新できないと思います…
m(^_ _^)m
☆77を目標にしていたのに、それどころか☆103までつけていただいきありがとうございます!励みになります!いつかお礼させていただきます!
次の目標は☆111、ラッキーナンバーです!
お読みくださりありがとうございます!
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