第2話 シロクマなのに泳げないの?

お見合いの日。いつもとちがって、朝から飼育員さんたちがそわそわしていた。ぼくもなんだか落ちつかない。プールの水はいつもよりピカピカに磨かれていて、エサの魚もやけに豪華だ。


 しばらくすると、となりの檻の扉が開いて、白い毛並みがふわっと風にゆれた。


 ――あれが、ユキ。


 まっすぐな目でこっちを見てくる、ちょっと気が強そうなメスのシロクマだった。


「あなたが……シロ?」


「う、うん。こんにちは!」


 ぼくがあいさつすると、ユキはじっとぼくを見てから、ため息をついた。


「なんだか、シロクマっぽくないのね。」


「えっ? どこが?」


「だって、その……泳がないって聞いたのよ。」


 ぼくはドキリとした。そんなこと、もうバレてたんだ。


「そ、そうだよ。ぼく、泳いだことないし、ちょっとこわくて……」


 ユキは呆れたように言った。


「シロクマは北極の海を泳いで、アザラシをとって生きてるのよ? 泳げないシロクマなんて、聞いたことない。」


 ぼくはうつむいてしまった。たしかに、そう言われればそうかもしれない。でも、ぼくはここで生まれて、プールには足をつけるだけで精いっぱいだったんだ。


 ユキはさらに続けた。


「私のお父さんなんて、プールに飛び込むだけで子どもたちに大人気だったの。あんたみたいなシロクマが相手なんて、ちょっと考えられないわ。」


 言葉はきつかったけど、どこかさびしそうでもあった。


 その夜、ぼくはとなりの檻のフライに相談した。フライはコンドルなのに高いところが苦手で、木の枝にとまるだけでも震えてる。


「ユキにね、“泳げないなんて、シロクマじゃない”って言われちゃったんだ……。」


 すると、フライは苦笑いした。


「シロ、お前……それを気にしてんのかい? おれなんてよ、飛べないコンドルだぞ。名前は“フライ(fly)”なのにさ。いっそ、フライパンに乗せて油でカラッとあげてくれって気分だよ。」


「でも、それって変じゃない?」


「変でいいんだよ。変だから、お前はシロなんだろ? 飛べなくたって、おれはおれだ。」


 フライの目はどこか遠くを見ていた。


 変だからって、ダメなわけじゃない。


 その夜、ぼくはユキの言葉を思い出しながら、ぐっすり眠った。

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