異世界最初の小さな村
不意に、柊の鼻を美味しそうな匂いがくすぐった。足を止めて草原の先を見つめる。追いついたレスアがこれまた嬉しそうに、草原に佇んだ村を指差した。
「あれが僕らの目指していた村!ペスペラ村だよ!」
ペスペラ……。夕方の面影を感じる名前だ。
立ち並ぶ木製の家々は暖かく柊たちを迎えるようだった。いくつかの煙突から淡い色した灰色の煙が登っている。いい匂いはあそこから流れてきたのかもしれない。
ワクワクで自然に歩く足が早くなる。双子はそれに嬉しそうについてくる。
「この村は賑やかでね。農業が盛んなんだ!豊かな森もあるし!」
レスアは誇らしげに村について語っている。
「カリフラワーも……美味しいし」
エタナがポツリと言った。彼女はカリフラワーが好きらしい。
近づくに連れて、賑やかな声が聞こえてくる。正午の陽の香りがより一層村の雰囲気を模った。
都会育ちの柊にとって、木製の家も、豊かな土壌さえも物珍しくて、興味をそそる。村を通り抜ける風に乗って、三匹の蝶が羽ばたいていた。
村の入り口に差し掛かってきた。村の中で最も入り口に近いであろう家から、麦わら帽子をかぶって、肩にタオルをかけたおじさんが出てきた。おじさんはこちらに気づくと表情が柔らかくなり、段差から降りてこちらにやってきた。
「アルカス兄妹じゃないか!久しぶりだな!元気だったか?」
小麦色の引き締まった腕を上げ、レスアとハイタッチをする。彼は自然をそのまま投影したかのような緑色のオーバーオールを纏い、その足には長靴を履き泥がついていた。
「おじさんも元気そうだね!」
レスアが小さく揺れながら言った。
「ああ。お前たちのおかげだな」
おじさんが答えれば、双子は「いつの話してるの〜」っと言いながらも照れくさそうに笑った。
若干疎外感を感じてしまった柊を、おじさんが見た。
驚いて目を伏せてしまったが、落ちた視界に小麦色の手のひらが映った。
「アルカス兄妹の連れだろ?俺はクノッピ。変な名前だろ?」
クノッピおじさんの後ろでエタナが微笑ましそうに笑った。恐る恐る手を伸ばした。おじさんの手はゴツゴツしていて、でもお日様みたいな暖かさだった。
「私も変だよ? シュウだから」
ワハハっとおじさんは笑った。双子も笑い出した。
もう柊に疎外感はなかった。自分だって笑っていたからだ。
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