リアばく

九戸政景@

本文

「でさ、彼女が上目遣いで腕を絡ませてきてさあ」

「うんうん!」



 なんて事ない平日の夕方。ファーストフード店の一角で俺は親友の麦原むぎはらだんと話していた。話題は俺の彼女とのデートの出来事。いわゆる惚気だ。



「普段素直じゃないからそういうのされるとやっぱり弱くてさ。もう俺も可愛いなと思うしかないんだよ」

「あー、たしかになあ。そういうギャップっていうのかな。それってやっぱりいいよな」

「だよなだよな! 俺、この子の彼氏になれたのほんとに幸せだと思っててさ」



 麦原は相づちを打ちながら食い入るように聞いてくる。誰かの惚気なんて聞きたい人はそういないと思うが、麦原は結構コイバナ的なのが好きな奴で、自分が今後彼女を作る時の参考にしたいと言うので色々聞かせているのだ。もっとも、色々気を付けないといけないが。



「その瞬間にもう舞い上がっちゃって、そのままき――」

「す、ストップ!」

「……あ、すまんすまん」



 麦原に止められて俺はハッとする。危ない危ない。またやらかすところだった。



「でもまあ、舞い上がってたのは事実で、その後もデート中すごく楽しかったんだ。ショッピングもしたし今みたいにファーストフード店で話もしたしさ」

「青春だなあ。俺も彼女作ったらそういうことしたいな」

「いいと思うぞ。でも、あの時彼女に言われた一言も結構効いたなあ」

「一言?」



 麦原が不思議そうに首をかしげる。



「うん。今日は帰りたくないって」

「え」



 麦原の声が聞こえた気がしたが、俺はそれには構わずに話を続ける。



「もうさ、これはちょっとチャンス来たかと思ったんだけど、でも今はその時じゃないと思って流石に帰って――」

「……阿尻あじり

「ん?」



 呼ばれて何事かと思ったが、麦原が白い光を放ち始めたのを見て俺はやらかした事を悟った。



「あ……」

「それは流石にライン越えみたいだ」

「ご、ごめ――」



 その瞬間、麦原からカッと光が放たれ、俺は“爆発”に巻き込まれた。薄い煙が俺達のボックス席に立ち込める中、周囲からは苦笑が漏れた。



「あはは……今回もライン越えしちゃったか」

「あー、賭けは俺の負けかあ」

「へへ、それじゃバーガーひとつ奢りな」



 そんな声も聞こえてくる中、俺は携帯電話を取り出す。映る俺の頭は見事なアフロ。今回もやってしまった。



「はあ……」

「あははっ、残念だったな」

「ああ。にしても、難儀すぎないか? お前が目覚めたその能力」



 麦原はキョトンとしてから合点がいった様子で頷く。



「ああ、リア充を爆発させちゃうこの能力か。たしかに最初はなんだこれとかこれじゃあお前の惚気を聞けないじゃんって思ったけど、ある程度なら大丈夫そうだし、俺はお前からデートの話を聞くのが好きだ。だからライン越えしないように気を付けてもらいながらお前には変わらずに話をしてもらってる。俺はこんな日常がとっても好きだぜ」

「麦原……」

「だからこれからもいっぱい聞かせてくれ。頼むぜ、親友」

「……ああ、わかった」



 俺は麦原の手を取る。こういう太陽のように明るくてさっぱりした奴だからこそ俺も安心して話が出来る。俺もコイツとの繋がりは絶ちたくないし、永遠にコイツと親友でいたい。そのためにも色々頑張らないと。



「よし、話の続きといこうぜ。その後結局帰ったんだよな?」

「ああ。それで夜にもアプリで話してたんだけど、その時に彼女ってば今からまた会いたくなったって言い始めてさ。俺もたまらなくなって彼女の家まで行って出てきた彼女を抱き締めちゃったんだ」

「あ」



 麦原の声が聞こえる。その身体はまた白い光を放っていて麦原を見ながら俺はまたやってしまったと頭を抱えた。



「ごめん……!」

「あはは、まあこういうのも悪くな――」



 それを遮るように爆発が起きる。それに巻き込まれながらやってしまったと後悔していたが、この日常は嫌いじゃないと思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リアばく 九戸政景@ @2012712

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ