第5話 あなたは誰?

「おい、だいじょうぶか?」

とっさに出たのは日本語。

「#△〇□」

しまった。

「Are you okay?」

「#△〇□」

「……な、なに言ってんの?いや、どこの国の言葉だよ、これ」

 聞いてもわからない。変な国にやってきたようだ。

 でも、怪我しているようだし、この馬車から出してあげないといけないような。狭い車内に侵入すると急におびえて逃げるように隅に動きだした。暴れる子犬を引っ張り出すように腕に横抱きして車外へ。

 思ったより軽く感じた。


 不安定な馬車からおりて、先ほどの黒服のもとへ連れてくる。驚いたことに近づくと暴れだし、腕からすり抜け、黒服の老人に抱き着いて泣き出した。

「€¥%〆」

どうしょう、心の声が響く。せめて言葉が分かったらなぁ?つぶやく。

「セバス、大丈夫?死なないで!」

えっ、何だ。誰の声だ?

「私が悪いの。早く帰りたいとワガママ言ったから、ねー、謝るから元気になって!ごめんね」

えっ、えっ。どういう事?なんか、泣き叫ぶ彼女の言葉の雰囲気が伝わる。いや、言葉になっている。

「お嬢様、私は大丈夫です。まだ、動けます。少しこのまま休ませてください。何とかなります。幸いオークはこの方にやっつけてもらいましたから、もう、大丈夫です」

ぐったりした黒服の老人が弱々しく話す。

あっ、分かる。わかる、分かるぞ。

でも、分かっても何も手助け出来ないなあー。救急箱も無いし、病院へ行くにも土地勘が無いし、魔法でも使えない限りこの状況では無理ゲーだ。うーん困った。

 と、困った腕組みポーズをしようとしたら指さきが淡く光っているのに気づいた。なんだろうと指先を見ていたら、老人への治癒のイメージが頭に浮かんだ。そのイメージのまま抱きついている女の子を押しのけて老人の身体に手のひらを向ける。

 「ヒール」

 言葉と同時に手のひらから淡い光が出て老人を覆う。ゆっくりと老人の身体全体を包むとやがて光が霧散した。

 えっ、何が起こった。どうなったのだ。

 すると、さっきまで弱々しく倒れてた老人がむっくりと起き上がる。同時に僕の方をギョロリと睨む。何が起こっているか理解出来ない僕を見透かすかのように話出した。

 「今のは魔法ですか?私を救ってくださったのですね。それにお嬢様まで助けていただき、ありがとうございます。

 私達はこの先のシュバルツブルクの街に帰るところでした。急に現れたはぐれオークが襲いかかってきて、対処するはずの護衛も逃げだし、この有様。あなた様のおかげで命拾いをしました。

 お嬢様に何かありましたら、旦那様に顔向けが出来ないところでした。重ね重ねありがとうございます」

 と、言ってきた。が、分かる、話がわかるぞ。魔法?を僕が使った。えーっ、魔法を使える?何なのこの不思議空間。

 今現在起こっていることについていけない。

 オーク?あの怪物のことか?怖かったなぁ。でも、車もろとも燃えちゃったし、ひとまず安心か。

 お嬢様とか言っているところをみると、この娘はきっとお金持ちのお嬢さんなんだ。だから、護衛もいたのか?でも、逃げ出す護衛って大した事なさそうだ。


 考えることが多すぎて言葉でてこない。

 しかし、言葉を促すような老人のさすような目が怖い。

 会話できない可能性を考えて、どういう風にしゃべったらいいかわからず、返答をためらっていた。

 でも、続いている睨み合いの沈黙が怖くて思わず日本語で返す。

 「困った時はお互い様です」

 日本語で話したつもりだが、口からは変な音がでてくる。しかし、老人は頷く。通じている様だ。なんだ、なんだ、なんだ。

 老人はさらに続ける。

 「高度な治癒の魔法を使えるあなた様はさぞ高名な魔術師なのでしょう。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

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