異世界の王子は、今は亡き魔法国家を復興する

梅 星太郎

第1話 はじまり

 「急がないと間に合わない」心の声が漏れてくる。

 窓ガラス越しの夏日が顔にあたり、顔にねばついた汗が気持ち悪い。

 渋滞した先の赤信号がなかなか変わらない。

 今日は付き合い始めた職場の同僚とやっとのことで合わせてとった休みの初デート。レンタカーを借りて海に行く予定なのだが、国道の2車線とも車が列をなしている。早くいかなきゃ。

 気持ちが先走る。


 僕は、鈴木 すずき ひろし。29歳。地方の工業大学の修士課程を卒業して、今の会社の開発部に入社して5年、制御系のソフトウエアエンジニアをやっている。会社と寮を行ったり来たりを繰り返しの中で、運転支援の制御システム開発を行っている。自動運転機能が仕様書通りになってきたので、名目上の骨休みの休暇をとった。

 僕の会社は自動車を製造しており、その会社で僕は開発部で働いている。いたって人員の変更がない、変化の乏しい部なのだが、昨今、若者の車離れが叫ばれる中で開発視点を変えていこうという会社の新しい試みから、初めて女性社員が我が開発部へ入社した。おっさんばかりの職場の中でどう扱っていいか分からぬまま、まだ年の近い僕がコーチングをするのがましだろうということで、僕が彼女のジョブパートナーとなった。

 僕は中肉中背、特徴のない顔つきのいたって暗い性格であると部署内では思われている。ハッキリ言ってモテルタイプではないし、長く付き合うような彼女もいなかったため、彼女をどう扱っていいか分からぬまま、聞かれたら答えるような事務的な対応をしていた。しかし、初めてできた後輩ということで何かと面倒をみているうちに私的な事が話せるようになってきていた。距離感が縮まればそれが愛情に変わるのか?偶々、お互いに寮の夕食がない日に仕事帰りに一緒にご飯を食べることになり、会話や彼女の素振りでふりまかれる女性特有に匂いに感覚が麻痺したのかもしれないが、飲めないビール片手に勢いで告白してしまい、彼女が頷く素振りを見せると、勢い余ってビールを飲み干してしまい、酩酊してしまうという失態を犯し、さらに彼女の介抱を受けるという最高のシュチエーションの中でデートの約束をしてしまうという、明らかに盆と正月が一緒に来たようという信じられないことが起こった。それが、待ちに待った今日なのである。

 

 楽しいデートのはずなのに、レンタカーの受付の手配ミスのため予定時間をすぎても配車できず、やっと配車された頃には待ち合わせ時間の余裕がなくなり、ギリギリの出発で彼女の待つ2Km先の駅前へ向かうこととなってしまった。

 

「この渋滞の解消は厳しい」心の声がさらに漏れる。

「電話番号聞いておけば良かった」

 デートの約束ができただけで有頂天となって連絡先を聞いていない自分がなさけない。時間は容赦なく過ぎていくが、渋滞中の赤信号が青に変わっても車は動く気配がなく、次第に焦る気持ちから余裕がなくなっていく。

 僕はある決断をした。

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