マスクの下の素直

星野 暁

第1話 プロローグ

あの頃のわたしは、誰かに言ってほしかった。

「それでも綺麗だよ」って。

見られるのが怖くて、見せることができなくて、

でもほんとうは、見てほしくて――。

世の中が“マスクをつけているほうが普通”になって、

誰もが「隠すこと」に慣れてしまった頃。

わたしは、ずっと前からその中にいた気がする。

マスクをつければ、誰にも傷つけられずに済む。

でもね。

あの子が言ったの。

「誰かに好きって言われたいなら、自分のことを好きにならなきゃダメなんじゃない?」って。

それが、優しさなんだって、思った。

それが、ほんとうの“素直”なんだって。

――だから、私はもう、脅かさない。

見せるかどうかは、本人が決めることだから。

これは、マスクの下に隠した“素直”を取り戻すための、ある女の子の物語。

そして、

もう一人の、ずっと昔から隠れ続けていた誰かの、物語。

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