魔王を倒した勇者の俺、仲間に裏切られたので最強魔王に堕落します。

龍爪花

第一章:マルシオン王国篇

第1話 闇落ちって案外簡単

「ライト、敵がこっちに向かって攻めてきてるけど、どうする?」

 どこか楽しそうに、その少女は声をかけてきた。黒髪が風に揺れ、瞳の奥では、戦場に立つことへの高揚がきらめいている。


「もちろん!殲滅だろう?ライト、」

 隣にいた若い男が、口角を上げながら刀を軽く肩に担いだ。陽光が刃に反射し、赤い光の筋が彼の頬を撫でる。


「あたしがやるぞ!、主人様!そしてお前らは見ていろ!」

 元気な声とともに、少女は勢いよく拳を握りしめる。周囲の空気が一瞬、熱を帯びるようだった。彼女の目はまっすぐに戦場を見据えている。


「はぁ、あなたは何故そんなに頭が悪いのですか?まずは、我が君の命令を待つのみですよ、」

 冷静な声音で、それをたしなめる紳士のような男。だがその目の奥にも、わずかな興奮の色があった。


 四人の仲間がそれぞれに気配を高める。


「それで、どうする?ライト、」

 問われた俺、ライトは、ゆっくりと視線を前へ向ける。遠くの丘の向こうで、黒煙が上がっていた。敵軍の足音が地面を伝ってこちらへ響いてくる。

「まぁ、そうだな。

 あっちが来るってんなら……返り討ちにしよう。」

 低く呟いたその声に、仲間たちの顔が笑みに変わる。


 俺たちは、躊躇することもなく前へと歩き出した。その先には、血と炎に染まる戦場。

 ――これは、元勇者の俺が一魔王として世界を滅ぼすことを目的とした俺たちの物語だ。


 ――――――――――――――――――――――


 光歴25年。

 魔法と剣、そしてモンスターが溢れる

 the異世界。俺はそこで新たな人生を歩み始めた。


 なぜ転生したのか――その経緯を少し話そう。


「光輝!一緒に帰ろうぜ!」

「今日どこいく?」

「今日は無理、さっさと帰りたい気分なんだ」

 夕焼けに照らされた帰り道。制服のシャツが風に揺れ、笑い声が響く。俺の名は高橋光輝。高校一年生。


 俺は自分で言うのもアレだが、クラスの人気者だ。  


 俺は、誰とでも話せるタイプで世間一般的に言うと陽キャというもの。

 と言っても、周りに合わせているだけ。

 本心からではなく、ただ“好かれるように”振る舞っていたにすぎない。


 それでも、案外充実した高校生活だったと思う。

 少なくとも、あの瞬間までは。


 下校中。視界の端でトラックのクラクションが鳴り響いた。

 視線を向けた先、ボールを抱えた小さな女の子が道路の真ん中に立ち尽くしていた。


 考えるより早く、身体が動いた。

 俺は彼女を突き飛ばし、次の瞬間――轢かれたのは、俺だった。


 鈍い衝撃。視界が白く弾け、意識が遠のいていく。

 それが、俺の人生の終わりだった。

(なんだ、、案外あっけないな、)


 ――――――――――――――――――――――


 そして目を覚ますと、そこは雲の上だった。

 柔らかな風が頬を撫で、太陽の光が全身を包み込む。どこまでも広がる青空。


「こんにちは!」

 明るい声とともに、金髪の長い髪を揺らした天使のような女性が現れた。背中には純白の翼が生えており、微かな光の粒が舞っている。

 うん、やっぱり明らかに天使だ。


「えっと、、ここは、?俺は死んだはず、、」

 俺が混乱していると、天使さんが説明してくれた。

「ここは、来世を決める案内所のような所。でも、あなたの来世は決まっています。」

 そう言うと、彼女の手のひらから無数の光景が浮かび上がる。

 数人の武器を持った子供達、戦地のような場所で戦う兵士たち、指輪を持った英雄たち、なにやら森で馬車を使いどこかへ逃げる人たち――異世界の数々。


「ああ、えっと……こっちの世界ではなくて……こっち!」

 選ばれたのは、闇と炎が入り混じる戦乱の地。

 禍々しい魔物たちが咆哮し、人間たちが必死に抗っていた。


「あなたは勇者としてこの世界に転生して魔王を倒してもらいます。

 そうすれば、元の世界で“死んでなかったことにして”戻してあげましょう!」


 その言葉に、俺は息を呑んだ。

 生き返れる。

 それは、あまりにも甘い誘いだった。


「なるほど……分かりました。その魔王を倒してやりましょう!生き返れるならね……」

 俺は即決、簡単に承諾してしまった。

「では、いってらっしゃい!」


 天使が笑顔で手を振ると、俺の身体は一瞬で光に包まれ、空から落ちていった。

 雲を突き抜け、空気が爆音のように耳を叩く。

 そんな簡単に旅立つのかよ、と思いつつも生き返れるのならやるしかない、


(魔王を倒すとか言ったが……まぁ、なんとかなるだろう)

 自嘲気味な独り言とともに、俺は異世界へと墜ちていった。


 ――――――――――――――――――――――


 それから十五年。

 俺はライト・ウィリアムズとして、今は15歳という若さで、Sランク冒険者。

 この世界でランクは8段階ある。

 下から順に、E、D、C、B、A、S、SS、SSS

 とある、それぞれ魔法や力の強さをこれで表す。

 元々コミュ力には自信がある。

 だから、いろんな人と交流して仲間もできた。

 俺は冒険者で、ギルドで仲間を集め魔王撃破を目指し3人の仲間と魔王を倒すため冒険に出た。

 この世界に来て15年。

 俺のこの世界での年齢は15歳。


 仲間を得て、幾多の戦いを越え、ついに――


 魔王城。

 闇と血の匂いが漂う玉座の前で、俺は剣を突き立てていた。


「そんな、、馬鹿な!!」

 魔王の叫びが響き、巨体が崩れ落ちる。黒い血が飛び散り、俺の腕の傷口に流れ込んだ。

 その事にその時の俺はまだ気づいていない。


「いやーようやく倒すことができたな。」

 笑いながら仲間を見渡す。だが、彼らは目を逸らした。


「どうした?」

 俺の問いに、静かに微笑む仲間のひとり。

「フフフ、ライトありがとう。あなたの剣技のおかげで最後、魔王を倒すことができたわ。」


 その瞬間――冷たい鎖が足元から上へと絡みついた。

「すみません、ミスティックチェーン!」


 仲間の一人が、魔法を俺に向けて発動させる。

 俺は身体が拘束され、動けなくなってしまった。

「は?おい!どういう事だ!」


 仲間たちは背を向けた。

「悪いな、ライト。お前とはここでお別れだ。

 魔王を倒せばいっぱい財宝をギルドや街から貰える。そして、1番は名誉。」

「それが、目当てよ。貴方がいると減るのよ。それに、あなたは強すぎる。

 だから、貴方は死んだ。そう言うことにするわ、安心して世界を魔の手から救った英雄、、そう話しておくわ。あなた、お人好しすぎるのよ。」

 そう言って3人は俺を置いて魔王城から出ていってしまった。

 鎖の魔法のせいで、俺は身動きが取れなく城から出ることができない。

 俺は仲間に裏切られたショックで呆然としていた。


 鎖が食い込み、息が詰まる。


 ここから出ようとした。魔法を解こうともしたが、それをした所であいつらが戻ってくるかどうか

 それに、裏切られたショックでもはや何もかもどうでもよかった。

 思えば、俺は生き返るために15年魔王を倒そうとしてきた、自分のために。

 だが、それもこれもあの天使に倒せと言われやっていた。

 前世も、思えば人に合わせただけ、死ぬ時も人を庇って死んだ。

 全て俺は誰かのためにやってばっかじゃないか……

 15年、魔王を倒したのに生き返る方法とか聞き忘れたし、生き返り方がわからない。

 そもそもあの話は本当なのか、、もはやどうでもいい。


 信じた仲間に裏切られた絶望が、静かに胸の奥で広がっていった


 ――――――――――――――――――――――


 時間がどれほど経ったのかもわからない。

 冷たい床に座り込み、虚ろな瞳で玉座を見つめていたとき、


 コツ、コツ――

 軽やかな足音が響く。


 黒い服をひらめかせ、少女が姿を現した。

 闇を溶かしたような髪、紅く光る瞳。


「無様だね〜、自分が信じた仲間。3年間も一緒に居たのにいいように利用されて結局、諦めるなんて……」

「お前、誰だ……」


「僕の名前は、アスタロト、地獄の大公爵。一つ取引をしよう。僕は過去、現代、未来全てを見通せる。そんなお前の人生を見せてくれ。」

「人生……全て見通せるんじゃないのか……」

「死んでるね。復讐に協力してやるよ。そして僕を死ぬまで楽しませろ。直接見るのと見通すのは全然違うんだ。どうだ?いい提案だろう」

 馬鹿らしい。

 そう思った。だが、今の俺にはそれしか活力が沸かない、やる事がないのだ。

 あいつらは裏切り、俺が説明をしようとしても、世界はあいつらの味方をするだろう。

 なら、そんな世界を俺が変える。

 魔王を倒したのも意味がない。ただ生き返りたかっただけだが、そんな気配はなさそうだ。

 だったら、この世界を楽しもう。

 せっかく強くなったし、そもそもこの力は世界を守るための物だが、世界を試しに壊してみるのも逆に面白いのかもしれない。


「分かった……俺の人生についてこい。するなら勝手に見学してろ。けど、ほんとに協力してくれるのか?」

 俺がそう聞くと、アスタロトは強く頷き俺を見つめる。

「ああ、絶対に裏切らないと誓うよ。

 悪魔は行った契約を絶対にこちらからは裏切らない。配下として君を支えるよ。」

(闇堕ちって、わけか……)

 そう聞いて安心したのか、すぐさまライトは鎖の魔法を破壊した。

「おお、痺れるね。」

「うるさい。」

 唇に妖しい笑みを浮かべるその姿は、悪魔そのものだった。


 ――そして、俺は契約を結んだ。


「こんな世界、ぶち壊してやる……」

 俺はそう強く決意した。


 その瞬間、俺の金髪をゆっくりと漂わせながら、一本一本が色を失い――やがて雪のように白く染まっていく。

 瞳は静かに青を失い、代わりにシアンの輝きが灯る。

 それは冷たくも深い、海底のような光。

 服装もまた変化していった。

 薄暗い緑色の上着は灰に溶けるように消え、

 代わりに現れたのは、淡いグレーを基調とした、白を帯びた衣。

 薄布が幾重にも重なり、風が吹けばひらりと舞う。

 まるで「光と影の境界」のような色合いであり姿だった。


 玉座に腰掛けた俺を、アスタロトが見上げて微笑む。

「我が主人、新たな魔王の誕生だね。」

(1000年待ったんだ。楽しませてくれよライト………)

 アスタロトは、嬉しそうに微笑んだ。


 ――――――――――――――――――――――


「で、ライト。魔王なのに、ライトは……おかしいんじゃない?」

 アスタロトは笑いを堪えながら言った。肩を震わせ、口を押さえても、笑い声が零れる。


「笑うな、、じゃあ、何がいいんだ?でも、あまり名前は変えたくないな。」

「うーんじゃあ、また裏切られたらアレだし、僕ともう一人配下作ってその人にライト、他は異名で呼ばせてみたら?

 これから作る配下以外に本名がバレたら、誰かが裏切ったってことにして殺しちゃおう!

 僕も外で人の前に出る時は主人って呼ぶよ、」


 そう提案してきた。確かにそっちの方が魔王っぽいし、初期メンバーには、本名、、なんかいいな!

 厨二心が出てきたライトであった。

 だが、自分で言うのもなんだが、まるでこの様子は、はたから見れば、そういうごっこ遊びをしている小学生にしか見えない。


「ヴェノムとかは?」

 アスタロトがそうして提案してきた。

「ヴェノムか……意味は毒、その他にも恨み、

悪意、憎しみ……本名はライトで、他の配下達は主人呼び、、人間がヴェノム?ややこしいけど、、まぁ、いいんじゃね?」

「適当だね。それと、僕のことはアスタロトは長いから、アスでいいよ。」

「わかった、よろしくな………アス。」


 魔王城の玉座の間に、二人の笑い声がこだました。

 その時、静寂を破るように世界が震える。


 《ライト・ウィリアムズがヴェノムとして、新たなる魔王に君臨。称号:魔王を獲得しました。》


 天より響く声に、ライトは――否、ヴェノムはゆっくりと笑った。

 それは、かつての勇者が持ちえなかった“自由”の笑みだった。

 《…………》

 ライトの傷口から、少し光が灯りすぐに消えてしまった………


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