第15話 そしてカンパニー

数日後、ひと段落ついた農場の広場に、かつて奴隷と呼ばれていた者たちが集められた。


 ヴァリオが中央に立ち、冷静なまなざしで全員を見渡す。


「今年の収穫量は、昨年の二倍を超えた。……お前たちの働きの賜物だ」


 どよめきが広がる。褒められるなんて、誰も思っていなかった。


 ヴァリオは一息つき、言葉を継いだ。


「俺は、この結果を見て思った。人は“認められる”と、ここまで変わるものなのかと」


 藤村は、思わずヴァリオを見上げた。心臓が一瞬、跳ねた気がする。


「お前たちに、もっと働かせるための仕組みが必要だ。強制ではなく、“対価”による管理の方が合理的だと気づいた。だから――今日からお前たちは“契約人”だ」


 その言葉に、ざわめきが巻き起こる。


「契約人……?」


「この紙が契約だ。名前を書けば、お前たちは奴隷ではなくなる。働いた分、報酬が出る。休息も、報告も、すべて“ルール”の下で行う。破れば罰はあるが、従う限りは自由だ」


 藤村の手にも一枚の紙が渡される。契約相手――“ヴァリオ”。契約内容――“労働に応じた報酬の支払い”“安全の保障”“自由意思に基づく就労”。


 手が震える。これが、本当の意味での「雇用」――。


 藤村は、静かに名前を書き込んだ。


 それは「働くことを強いられる人生」から、「働くことを選べる人生」への第一歩だった。


「……ありがとうございます!」


 自然と頭が下がる。声が震えていた。嬉しさとか、安心とか、そんな言葉では足りない。


 ヴァリオは少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐにそっぽを向いた。


「変なやつだ……にやにやしやがって」


 だが、その声にはほんの少しだけ、笑いが混じっていた気がした。

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