第14話 評価と対価と表彰

収穫が終わった数日後、農場に奴隷たちが集められた。


「今日は、今年の収穫に貢献した者たちを称える。文句があるやつは出ていけ。いないな?」


いつものようにぶっきらぼうな口調で、ヴァリオが奴隷たちを一瞥する。その後ろには、木箱に詰められた小袋がいくつも積まれていた。


藤村は戸惑っていた。まさか「表彰」なんて言葉、この世界にあるとは思わなかった。いや、表彰というより“業績評価”か。


「今年は収穫量が例年の倍以上になった。これはただ天候のせいだけではない。いくつかの畑で管理方法が改善され、無駄な手間が減った。」


奴隷たちの間にざわつきが広がる。


「功労者を挙げる。藤村。サルナ。グレッゴ。前に出ろ。」


名前を呼ばれた三人が前に出る。藤村は足取りがぎこちない。前に出るという行為が、なんだか背筋を伸ばされるような気分だった。


「この三人は、今年の収穫の中核を担った。畑の管理、作業改善、勤勉さ。どれも目を見張るものがあった。……だから、報酬を出す。」


ヴァリオが箱の中から小袋を三つ取り出して渡す。藤村の手に重みのある袋がのせられた。中には、保存食と少しの硬貨が入っている。


「これは報酬だ。賞ではない。お前らが働いた分だ。」


藤村は、胸が熱くなっていた。ブラック企業時代、どれだけ働いても「やって当然」とされ、感謝も評価もなかった。むしろ、「遅い」「考えが足りない」「なぜお前はこんなこともできないんだ」と怒鳴られる日々だった。


でも今――。


「ありがとうございますっ!」


思わず口から飛び出した言葉に、自分でも驚く。ヴァリオは少しだけ目を見開いて、すぐに表情を戻した。


「……あと、今年は全体としてもよくやった。全員、最低限の報酬は出す。」


そう言って、残りの袋を手下たちに配らせる。中身は簡素なものだったが、奴隷たちはざわつきながらも受け取っていた。何かをもらうという経験があまりに少ないせいだろう。


「俺からの評価だ。文句があるなら成果で示せ。」


言い捨てるようにヴァリオは去っていく。


藤村は、受け取った袋を見つめながら思った。


――ヴァリオさんに認められた。


不思議だった。ただそれだけで、こんなにも心が満たされるなんて。


俺は、褒められたくて頑張っていたんだ。今までの人生では、それがなかった。ただ、怒られないように動いて、文句を言われないように気を張って、ミスすれば詰められて、成功しても無視されてきた。


でもここでは違った。結果を出せば、ちゃんと報われる。


「なんでこんなに嬉しいんだろ……」


ぽつりとこぼしたその言葉に、隣に立っていたグレッゴが怪訝な顔でこちらを見る。


「お前、報酬なんて初めてか?」


「……はい。すいません。」


「いや、謝らなくていいんだけどよ……変な奴だな。」


そう言われて、藤村は苦笑いするしかなかった。


でも、心の中は喜びでいっぱいだった

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