第10話 小さな一歩と大きな変化
その翌日、藤村は畑での作業を終えた後、少しだけ休憩を取ることにした。最近は、ヴァリオからの指導もあり、少しずつ作業の手際が良くなっていた。しかし、まだまだ覚えるべきことが多く、今日も新たな仕事に挑戦するつもりだった。
ヴァリオが突然、藤村のところにやってきた。
「お前、今日は少し手伝ってほしいことがある」
藤村は少し驚きながらも、すぐに答えた。
「はい、何でもおっしゃってください」
ヴァリオは頷くと、指示を始めた。
「ここに新しい畑を作るために、まずは周りの草を取り除かないといけない。お前にやらせるのはその作業だ。だが、ただ草を取るだけじゃない。どこから始めるか、どのくらいのペースで進めるかを考えながらやれ」
藤村は一瞬、戸惑いながらも「分かりました」と返事をした。そして、草を取りながら考えた。
「どこから始めるか、か…。まずは隅の方から始めるべきだろうか。それとも、中央からやった方が効率的か?」
ふと思い立った藤村は、中央から手をつけることに決め、作業を始めた。しばらくすると、ヴァリオが近くに来て、藤村の動きを見守っていた。
「少し考えすぎだ。速く進める方法を考えるんじゃない。自分のペースでやれ」
藤村は一瞬、驚いたが、すぐにヴァリオの言葉に従って、慌てずに作業を進めた。すると、意外にも順調に作業が進んでいく。
「お前、あまり考えすぎるなよ。少しリズムをつかめば、どんどん進む」
その言葉を聞いた藤村は、自信が湧き上がってきた。
「はい! 分かりました!」
その後、藤村はリズムよく草を取り続け、予定より早く作業を終えることができた。ヴァリオが見ていたが、特に評価の言葉はなかった。
「…終わりました」
「まあ、悪くはない」
その一言が藤村の胸に響いた。「悪くはない」――この言葉が、藤村には何よりも嬉しかった。
「悪くはない?」藤村は一瞬、それが褒め言葉だと信じていいのか確認するように呟いた。
ヴァリオは軽く頷き、無愛想に言った。
「まあ、お前にしてはだな」
藤村の顔がぱっと明るくなる。
「やった! 悪くない、って言われた!」
他の奴隷たちは、その藤村の喜びようを見て「またあいつ、何か浮かれてるな」と半ば呆れた様子で見ていたが、藤村は気にしなかった。
心の中では、昨日までの自分を思い返していた。以前なら、こんな言葉すらももらえなかったのだ。むしろ、間違いを指摘されるだけだった。それが今では、「悪くはない」と言ってもらえるなんて、信じられないことだった。
その日は、藤村にとって小さな一歩だったが、その一歩がとても大きな意味を持っていた。作業が終わった後、藤村は寝床で思った。
「これ、すごく嬉しい…!自分でも少しずつ成長してる気がする」
そして、ふと気づく。最近、少しずつヴァリオに認められ始めているのではないかという気がしてきた。
その心の中に、新たな決意が生まれた。もっと頑張らなければならない。もっと、ヴァリオの役に立たなければならない
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