第3話 温かいメシ

午後の鐘が鳴り、小屋の前に並べられたスープ鍋を見下ろす。具らしい具は麦粒が数粒浮くだけの、ほとんど「お湯」に近い薄いスープだ。


(……奴隷のご飯なんてこんなもんか)


俺は軽くひと息ついて、器を手に取った。


「出来立てだ。さっさと食え」


 ヴァリオの一言に頷き、俺はスープを唇に寄せる。


──ごくり──


 熱さのファーストインパクトを受け流しつつ、いつものように平静を装う。


(……あったかいな)


 その程度の感想で箸を置こうとした瞬間、身体の奥底から衝撃が走った。


「うわっ!!?」


 思わず大きく声を上げ、器を抱えたままひっくり返りそうになる。


「ち、違う…これ…ただの温かさじゃない…っ!」


 熱いのに心地よく、冷え切った手足からじんわり血が巡るのがわかる。


「な、なんだこれ…! 味薄いとか言って…馬鹿にしてすいませんでしたぁぁ!!」


 立て膝のまま両手で器を抱え、涙をぽろぽろこぼしながらスープをすする。


「うおおおおおお!!! あったかい…あったかすぎる…この温もり…ありがとうヴァリオ様あああ!!!」


 その叫びっぷりに、周囲の奴隷たちが仰天して足を止める。


「おい、こいつ…マジで壊れてるぞ」

「?」


 先輩奴隷が静かに近寄り、器をそっと受け取った。


「…熱いぞ。気をつけろ」


 さりげなく器を支えられ、俺はさらに号泣した。


「ありがとうございます! す、すいません…でも、本当に…!」


 すすり泣きながら、パンをスープに浸してかじる。


「パンも…スープを吸って…うおおお…最高すぎる…!」


 大げさに両手を広げ、仲間


 仲間は唖然としつつも、小さく笑っていた。


(具なし、味薄、でも出来立ての温かさだけでこれほどの“ごちそう”になるとは…!)


 俺は涙と鼻水を拭い、再び鍬を手に取る。


 ──この温かさがある限り、もっと働ける気がした。

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