第2話 転生したのに好きなことできません。

――まず、確認することといえば、異世界転生ものの主人公なら真っ先にやるアレだ。


「ステータス表示!」


ぱっと頭の中に情報画面が浮かぶと思ったが、当然そんなチート演出は起こらない。視界には広大な畑、その先には果てしなく続く土の大海原。数字もパラメータも、一切ない。


「スキルリスト!」


再度叫んでみる。やはり、何も起きない。掌に伝わるのは、ただ鍬の冷たい鉄の重みと、泥の感触だけだった。


――ああ、やりたいことは何一つできないんだな、俺は。


麻布のボロ切れの作業着。腰には何の装備もない。魔力ゲージ、経験値バー、クエスト欄――そんなものは一切ない。異世界転生チートの“ち”の字すら存在しない世界に、俺は確かに放り出されていた。


「……すいません、取り乱しました」


つい反射的に謝ってしまう。その場に誰もいないのを確認してから、小さく肩をすくめる。


──と思ったら、横から声が飛んできた。


「おい、お前何やってんだ?」


振り向くと、同じく鍬を使う若い奴隷が、怪訝そうにこっちを見ている。


「え? あ、えっと……初めてだから、確認してて……」


「ステータスってなんだよ」


「いや、まぁ……その……すいません!」


またしても謝る俺に、奴隷は呆れたようにため息をついた。


「ったく、働きゃいいんだよ。余計なことすんな」


そう言われてハッとする。確かに、この世界では“余計なこと”は効率を下げるだけなのかもしれない。


「はい……すいません」


謝りつつも、どこかほっとした自分がいた。チートがなくても、ここでのルールは明快だ。


遠くでカーンと鐘が鳴る。日の出から働けという合図だ。覚悟を決め、俺は再び鍬を振り下ろした。

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