「転生先でも働き続けます。すいません、それが私の役目」
星野 暁
第1話 結局のところ労働じゃないですか?
その日も俺は、終電ギリギリで会社を出た。
最寄り駅に着いたときには、もう日付が変わっていて、シャッターの閉まったコンビニの前でスティック状の栄養補助食品をかじった。
ああ、今日も食事はこれだけか……。
でもまだマシだ。今日は怒鳴られなかった。
それだけで、ちょっと運がいい気がする。
「すいません……。あ、いや、独り言です……」
反射的に謝ってしまう癖はもう治らない。誰かが怒られていても、なぜか俺が謝ってしまう。完全に体に染みついている。そう、これはもう生き様みたいなものだ。
無意識のうちに交差点を渡り、ぼんやりとした頭のまま、信号無視で横断しようとしたそのとき――。
――キキーッ!!
クラクションと共に、世界が暗転した。
***
目を開けると、そこは見知らぬ天井だった。
木製の天井。土の匂い。草の香り。
病院……じゃない?
え、何この部屋? ロケセット? 民宿? コスプレカフェ?
ぼんやりした頭のまま体を起こして、あたりを見回す。
服は見たこともない麻のような布。
ベッドじゃなくて、藁の敷かれた粗末な寝台。
窓から差し込む光も、どこか異世界めいている。
「……これって、もしかして……」
喉が震えた。
「これって……まさか……転生!? 異世界転生ってやつ!?」
高鳴る鼓動。ほとばしる希望。まるで宝くじに当たった気分だ。
やっと……やっと自由になれたんだ……!
「やり直せる……! 今度こそホワイトな生活を……っ! 魔法とか!? スローライフとか!? 農業とか!?」
バタン。
扉が乱暴に開いた。
現れたのは、屈強な体格の男。筋骨隆々。目つきは鋭く、まるで肉食獣。
「起きたか。じゃあ、働いてもらうぞ」
「えっ?」
「お前は奴隷だ。今日から俺の農場で働くことになってる」
「……」
えっ?
ちょっと待って。今、「奴隷」って言った?
ホワイトどころか、最底辺じゃない?
異世界って……チートは? スキルは? 魔法は!?
頭がついていかない俺の背中に、男が淡々と言葉を叩きつけた。
「日の出から日の入りまで、働け。以上だ」
……あれ?
これ……なんか……ブラック企業の時より……
「や、優しい……?」
***
こうして俺は、ブラック企業を辞めることに成功し、奴隷として第二の人生を歩み始めた。
転生って、もっとこう……夢があるものじゃなかったっけ?
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