転生貧乏貴族~魔力微力チート無しからの成り上がり!~

まめたろう

1章「転生と魔法と領地改革」

第1話「転生したら赤ちゃん! 家族の愛に包まれて」

(主人公・ルカ視点)


目を開けた瞬間、頭がグチャグチャになった。


古ぼけた木の天井。


色褪せたカーテン。


…どこだ、ここ!?


俺、佐藤悠真、32歳、日本のサラリーマン。


昨日も残業して…ぶっ倒れて意識失って…真っ暗になって…


死んだ!?


いや、待て、生きている。でも体がおかしい。自由に動けない、、、


というか手、ちっちゃ!


足も!


体が赤ちゃんになっている!?


マジかよ!?


これ、あの有名な異世界転生か!?


うおお、ファンタジー世界で無双の第二の人生!?


…って、テンション上がるけど、落ち着け。


頭、モヤモヤする。考えがまとまらない。


前世の記憶、なんか断片的なんだよな。


確か、俺はサラリーマンだったよな?


農業とか、経済とか…筋トレ?


…筋トレって何だっけ?


そして、この世界もなんもわからん!


動こうとしても、体が重い。どうしたらいい?


うわ、これ動かない方が良さそう。赤ちゃんの体、めっちゃ弱そう!無理に動いたら骨折れるんじゃね?


そういや声も出ねえ!出しても泣き声にしかならねぇって何だよ。どーすりゃいい?


くそ、焦るな、俺。


今、ボロボロのベッドで、優しい女の人に揺られてる。


…この匂い、なんか懐かしい。


もしかして、この人が俺の母親か?


でも、めっちゃ綺麗で若すぎる!


前世の母ちゃん、もっと…いや、比べるなよ!


「ルカ、かわいいわね」と女の人が微笑む。


ルカ? 俺の名前?


ほんとに母親か?


なんか、胸がドキドキする。


この人が母親ならば何とかなりそうな気がする!動けなくて歯がゆいが、、、まずはゆだねよう。無茶はいけない。



***


(母・エリザ(38歳)視点)


私は領主邸の寝室でルカを抱きしめた。


ヴェルド家の10人目の子ルカの誕生だ。


助産師が「エリザ様、元気な男の子です!」と渡してくれた赤子は、小さな手足をバタバタさせている。


キョロキョロと目も動かしている。


かわいい、けどこの子の目は妙に落ち着いているわね。


まるで、こちらを見つめ返してるみたい。


いい子ね。胸が温かくなるのを感じる。


ヴェルド領は貧しく、作物は育たず税収は雀の涙。


中央の貴族には「ろくに税金も納められない田舎者」とバカにされる。


家計はいつも火の車。嫌がらせを受けることも多い。


でも、ルカの小さな手が私の指を握ってくる。


その瞬間、疲れも悩みも吹き飛んだ。


「ルカ、あなた、特別ね」


魔法使いになるのか剣士になるのか。大きく育って欲しい。


いや、ただ幸せに笑っててくれればいいか。


私はルカに頬ずりした。


10人目でもこの愛は特別だ。


***


(ルカ視点)


この人はエリザっていうのか?やっぱり母親っぽいな。


優しい笑顔、温かい抱っこ。


…いいね、なんか、安心する。


前世じゃ、こんな温もりいつ感じたっけ?


会社で残業、帰ったら寝るだけだったよな。

彼女もいなかった、楽しみは特にない。


前世の母ちゃんの顔、モヤモヤして思い出せねえ。


いや、感傷に浸ってる場合じゃねえか!


この世界は本当に異世界か?家は前と同じように貧乏?


とりあえず、、、ベッドはボロいな。

カーテンもまあやばい、見た目にボロボロ。


…なんか、貧乏くさい?


でもさ、母さんの服はちょっと豪華っぽいんだよな。

もしかして貴族とか?


うーん、考えてもわからん!


乳母っぽい人が母さんに話しかけてる。

「ヴェルドは作物育たなくて、まだ王国に出せる税金も少ないですわ。だから中央の貴族がいつも冷たくて…」


母さんはため息をついているようだ。

「そうね。ヴェルド家は今や国の末席だもの」


日本語なのか転生特典なのか言葉が分かる。これはありがたい。


それにしても…マジか。

うち、貧乏貴族で、中央からバカにされてる?

なかなか厳しい世界っぽいな!


でも、転生者だ。きっと何か神様がチートをくれているだろう。

きっと無自覚に無双してもてまくるとか?ハーレムも作れるかも!


そう考えると、少しワクワクしてきたぞ!


***


(父・ロラン(44歳)視点)


私は寝室の隅でエリザとルカを見守った。


10人目の子。


1人目の長男ガイルが生まれた時は、ヴェルド家の未来を夢見た。


しかし魔法の才能はなかった。

この世の中は魔法が最大の戦力。魔法使いが少ないうちの領は落ち込む一方。


そのため子供に託そうとして……これでとうとう10人目だ。


だが、10人目ともなるとさすがに期待は薄れる。期待する方が無理だろう。


上の2人の子供は何とか育てているが、うちは貧乏なのでそれ以外の子供は他の貴族に預けて勉強させている。いや、現実には仕事をしてもらってわずかながらの仕送りしてもらっている悲しい状況。


やはり貴族とは言え貧乏は堪える。いや貴族というプライドがあるから堪えるのか。

もうそんなことも考えたくない。でもみんな頑張っているんだ。私が逃げ出すわけにもかない。


それでも、ルカの小さな顔を見ると胸が温かくなる。

そして淡い希望があった。


この子が強い魔力を持ってればヴェルド家の名を少しでも上げられよう。もう私たちは年齢的にも厳しい。この子が最後の期待だ。


「エリザ、よくやった。元気な子だ」


エリザは本当によくやってくれている。


でもヴェルドは痩せた土地。農産物もほとんど取れない。産業もない。

お金がない領なので最近では中央の宴会や集会にも呼ばれない。


良くいえばお金がないだろうと気を使ってもらっているが、現実には中央の貴族からは馬鹿にされ軽視されている。


家計は逼迫され子供たちの未来も不透明。


それでも、エリザがルカを抱く姿を見ると今だけは希望が湧く。


「ルカが元気ならそれでいい」


そう呟いてはみたが、本当は魔法使いになれるほどの魔力があって欲しいと期待している。神様がいたら何とか私たちの願いを叶えて欲しい。


そんな時、ルカの目が気になった。

赤子なのに、まるで何かを考えてるような目。かしこそうだ。


…はぁ、考えすぎだな。


***


(ルカ視点)


ロラン?

どうやらあの人が父親だな。


でかい男でハンサム、でもなんだかな、、、なんか疲れた顔してるんだよな。

せっかく俺が生まれたんだからもっと嬉しそうな顔をすればいいのに。


でも、母さんを見る目は優しい。

うん、うちはどうやら貧乏貴族っぽいけど、家族の愛は本物だな。

特に母さんは素晴らしいよ。無条件の愛を感じる。暖かい。


…わいわいしていて、なんか、ほっこりするな。


乳母が絵本を持ってきて、読み聞かせてくれる。


「剣使いのギルが、強力な魔物を剣で押さえていた。それを確認した魔法使いマーロンが魔力を開放! 強力な魔法で魔物をやっつけました!」


なんだこりゃ、絵本の絵がすげえリアルでおもしろい。

でかい魔獣が吠えて、ギルが剣で立ち向かう。


隙を付いてマーロンがドカーンと魔法撃ってやっつける。


…もしかしてこの世には魔法あるのか?かっけえ!


絵本の話を聞いて、いろいろ分かってきた。


この世界、魔物って強力な動物がいるらしい。

これは異世界の定番。


前世じゃ、魔物なんてゲームや映画だけだったがこちらでは普通にいるらしい。


その魔物を退治するのは剣士や魔法使い。

貴族の仕事っぽいな。


平民は守られる側なのかな?物語には出てこない。


あと魔法は強力だけど、何度も撃つと魔力が枯渇してダウンする。これも異世界あるあるだな。


魔法使いは魔法の威力があるから貴重で凄く強いとされるが魔力が尽きたら全く使い物にならない。それどころか完全なお荷物になる。


ということで普段は剣士が戦って、魔法使いは強力な魔物に、ここぞって時に魔法をぶっ放すらしい。


近距離は剣士、中遠距離は魔法使いの出番。魔法使いは接近されたらまずいので普段は守られていると。


なるほど、前世と全然違う!

でもそれさえ分かれば戦いようがある。俺も魔法があれば無双できる。


まさしくファンタジーな世界だ!

俺、もっと見たいと思って手を伸ばして絵本を触った。


…うわ、動くのキツ!

ほんと赤ちゃんの体、弱すぎ!


乳母がビックリ。


「ルカ様!? 0歳で絵本にこんな興味!?」


ふふ、俺、ただの赤子じゃねえからな。

この世界楽しんでやろう!!!


***


(母・エリザ視点)


私はルカを寝かしつけた。


ルカの目、ほんとに賢そう。


生まれたばかりなのに絵本をジッと見つめている。


まるで、言葉も理解しているようにも見える。物語を真剣に聞いてるかのよう。


乳母が囁く。

「ルカ様、まるで分かってるような目ですわ」


私は笑った。

「そうね、ルカはきっと特別よ」


ヴェルドの貧しさ、中央の軽視。いろいろ嫌なことは多い。けど、そんなの、ルカの笑顔で吹き飛ぶ。


私はルカにキスした。

10人目のこの子はきっと何かやってくれる。


そんな気がした。

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