33 こんな幸運ある????

 今日もそれなりに元気に家を出た。

 だんだんと配信者へのイメージが回復していることは、新聞などのマスコミ各社の対応を見れば確実なことだ。

 通勤列車のなかスポーツ新聞を読んでいるおっさんの、その手元にある新聞を見ると、「配信者アカミチ おばあちゃんの腰を治す!」というニュースがでかでかと載っており、「曲がった腰を治す先進医療は保険適用外で高額であり、それに使うダンジョン由来の希少な素材もアカミチ本人が採取してきたものらしい。果たしてこれでアカミチが悪だと言い切れるのか?」と書かれていた。

 まあ向かい側で柱につかまった俺がそこを読んでいるということは、おっさんは新聞内側のエロい記事とか野球の記事とかを読んでいるんだろう。でも新聞がこうやって取り上げるというのは、やはりいまの配信者の人権が軽んじられる状況はおかしい……ということなのではないだろうか。


 ふと見れば週刊誌を読んでいるおばちゃんがいる。表紙の見出しには皇室や芸能界のスキャンダル、健康にいい食べ物の記事に混ざって、「秋田県は正しい! ダンジョン配信を子供に観せてはいけない三つの理由」という記事もあるようだ。

 なるほど。やっぱり教育によくないものと認知されているんだな。


 そう思っているうちに職場の最寄り駅に着いた。列車のなかでもみくちゃにされながらどうにか降りて、改札を抜けてライヴダンジョン社のビルに向かった。


 ◇◇◇◇


「なるほどねー。教育に悪いと思われてるのはまずいねー。確かに地球の生き物によく似た魔物を倒す映像、子供に見せちゃだめだって思う大人もいるかもねー」


 みー先輩はのんびりとネイルをいじっている。


「あーしの親、わりと過干渉の親でさー。子供のころピンクの丸いやつが吸い込んでコピーしたり吐き出してぶつけたりするゲームを友達から借りてやってたら没収されて、まだ1面もクリアしてないのに返却されちゃったことがあるんだよねー。どこが乱暴に見えたのかあーしにはわかんないけどさー、親って子供がなにかを傷つける娯楽を見ると止めたくなるんじゃないかなー。やっぱり水鉄砲でインク塗って勝負するシューティングゲームはすごい発明だよねー」


 みー先輩、そういう境遇だったから凄まじい反抗期があったのだろうな……と想像してしまう。そして反抗期を引きずったまま大人になり、ギャルをやっているのではなかろうか。


「別に反抗期引きずってないよー。あーしは自由に生きたいだけ」


 読心術されてしまった。


「……大変だ……」


「どしたのえがそー」


「……ダンフェスの団体チケット……キャンセルが出た……200人分……」


「はあ!?!?」


 みー先輩がものすごいスフォルツァンドで反応した。でもスフォルツァンドで返事をするのは仕方がないかもしれない。それはすごい損害だからだ。

 詳しく話を聞くと、どうやらどこかの企業が慰安旅行でダンフェスを見にくる予定だったらしいのだが、その会社がちょっと慰安旅行などしている場合でない状況、端的に言って廃業に陥ったゆえのキャンセルであったらしい。なんて日だ!


「じゃあその200人の枠、いまから確保しませんか。少し安い値段にして、近くの学校にローラー作戦で電話するんです」


「……ナイスアイディアじゃーん。どうせきょうは午後から広告代理店の仕事に目通して上につなげるだけだし……やりますか!」


 というわけで、近くの小中学校に、超ダンジョンフェスのチケットを安く買いませんか、と電話してみる午前中が始まった。それはまさに死闘であった。

 しかしほとんどの学校が「申し訳ありませんが」と言って断ってくる。ひどいとガチャ切りされる。次第に電話する範囲は広がり、いつの間にやら北は関東を突破して東北へ、南は箱根の関を超えて西日本へ……という状況になった。


 きょうは次電話したら諦めよう。

 そう思いながら、秋田県の大館市立東中学校というところに電話をかけていた。


「はい、大館市立東中学校です」


「お忙しい中申し訳ありません、こちらライヴダンジョン社と申します。12月に開催する、超ダンジョンフェスというイベントのチケットが売れ残っておりまして、もしよろしければ200枚ぶん、比較的安価で提供できるのですが」


 電話に出た事務員さんは「えっ」と驚いて、3秒ほど沈黙し、それから「いま校長を呼んでまいります」と言って保留にした。電子音の「エリーゼのために」が鳴り響く。


「はい、校長のホンダです」


「さきほど事務の方に」


「聞いております。ぜひ行かせてください、我が校は赤川道也さん、アカミチ? の母校です。ダンジョン配信は世界にとって希望だと、さきほど我が校を訪れたアカミチさんが全校生徒の前で言っていました」


 マジかよ。

 こんな幸運ある????


 電話の様子にみー先輩とえがそー先輩も気付いて、ガッツポーズをしている。


 というわけで、キャンセルぶんのチケットは大館市立東中学校全校生徒のみなさんのものとなった。みー先輩が上に掛け合ったところ、移動費やホテル代も、秋田からここまで来るとなるとすごい額なので、弊社がほとんどを負担することになった。


「エライ人言ってたよ、イメージ回復のためにならお金出せるって。間違いない投資をする必要があるって。これは間違いない投資だって」


 なるほど……意味もなくお金をケチっていた市役所とは違うんだな。


「さて、ダンフェスの仕事するよ。がんばるんば」


 みー先輩が力強く言った。(つづく)

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